第63話 一般人も強くなる
「ステータスカード、もらってきた!」
嬉しそうに孤児たちがカードをかざす。ついにステータスカードの無料発行が始まったんだ。
引率で付いていった『ブラウンシュガー』の面々も嬉しそうだ。
とは言え孤児たちは6歳から10歳と、流石に冒険者にはまだ早い。勉強と基礎体力だね。
ヴィットヴェーンには冒険者の年齢制限なんかない。だけど基礎ステータスの関係で、年少者のほとんどがジョブに就けないんだ。お貴族のご子息なんかがINTを上げて、なんてケースもあるそうだけど。ここら辺も、ゲームと現実の折り合いなんだろうね。
孤児院の建築も順調だ。ステータスを伸ばしたドワーフのおっちゃんたちが、毎日ドンガンやっている。何と言っても200人規模を収容するという、ヴィットヴェーンでも規格外の建築物だ。需要を満たすために、中堅パーティを中心にロックゴーレムやウッドゴーレムの素材が集められ続けている。
「よう」
「『ラビットフット』さん、今戻りですか」
黒門騒動の時にお世話になったパーティが、ドサドサと石材を積み重ねていく。
「協会と同じ値段で買ってくれるんだから、手間も省けるってもんさ。これから宿に戻って祝杯だぜ」
「祝杯? 何か良いことあったんですか」
「ああ、運よくフライングラビットを仕留めてな。ツェスカさんに渡して料理してもらうのさ」
「それは良かったですね。わたしはお酒飲めないですけど」
「今度一緒に飲もうぜ。じゃあ、またな」
「お酒、苦い」
「わたしもそう思うよ」
ターンの意見には全くの同意だ。お酒もタバコも、大人はなんでああいうのが好きなんだろう。
◇◇◇
さらに数日後、遂に一般向けのレベリングが開始された。
今やヴィットヴェーン4大クランと呼ばれる『晴天』『リングワールド』『白光』そして『訳あり令嬢たちの集い』協力の下、希望者をマスターレベルまで引き上げるという試みが為されるんだ。
基本は、物理アタッカー1、プリースト1、エンチャンター1と希望者3というパーティを組んで、カエル狩りとマーティーズゴーレム狩り、最後はエンチャンターをウィザードに切り替えて9層といった内容だ。
「『訳あり』で実績のある、安心確実の手法です」
冒険者協会教導課課長のわたしは、太鼓判を押した。
真っ先に申し込んでくれたツェスカさんと冒険者の宿の従業員さん2名を連れて、わたしたちは迷宮を進む。こっちはわたしとターン、そしてハーティさんだ。物理アタッカー3、ウィザード2、エンチャンター2、プリースト1。接待も良い所だね。
「いやぁ、サワに案内してもらえるなんて光栄だね」
「お世話になったお返しですよ」
「ビクビクしながら宿に入ってきたのを思い出すよ」
「ツェスカさんっ! 止めてくださいよ」
「サワ、ビクビクなのか?」
「ターン!」
和気あいあいとしてるのかなあ。4層のゲートキーパーをターンさっくり倒して、わたしたちは5層へ向かった。
「なるほど、これが噂のカエル狩りかい」
「みなさんは、後ろで見てるだけで良いですからねぇ。でも黙ってるのも退屈だし、お話でもしましょうよ」
「ああそうだね。常識ってなんだと思う?」
「いきなり哲学からですか? もうちょっと、宿の売り上げとか下衆な話題からにしましょうよ」
「そういや『暗闇の閃光』が解散するかもってさ」
「ええ!?」
思わず振り向いた私の顔に、カエルの毒唾がビシャって降りかかった。
直後にそのカエルを切り裂いたわけだけど、今はそんなのはどうでもいい。
「なんでですか」
「なんかね、パーティの内側で2組結婚するみたいでさ、男4人は冒険者やるみたいだけど、パーティとしては、ねえ」
「でもあそこって、最古のクランですよね?」
「そうらしいけどねえ」
『世の漆黒』。それは迷宮40層に挑戦し、散ってしまったクランだ。だけど彼らの資料があったからこそ、こないだの層転移に対応できたんだ。そんな彼らを引き継いだパーティが解散?
「わたしが口出し、することじゃないですよね」
「まあ、そうだねえ」
むむむ、歯がゆい。だけどそうなんだよね。冒険者だって命を懸けてお金稼いで、その上での人生なんだから。だけどなあ。
今は考えても仕方ないか。とにかくカエル、カエル。
その日、冒険者の宿フォウライトの3人はレベル9になって、明日またレベル上げをすることになった。
「1週間って話だったんだけどねえ」
迷宮第9層で燃え盛り、消えていくモンスターを見て、ツェスカさんが言った。今日はターンが頑張った。マーティーズゴーレムを狩りまくり、そして9層で魔法を乱射している。ハーティさんも一緒だ。わたしはバフしかやってない。
そんなこんなでツェスカさんたちはマスターレベルになった。これにて契約満了である。ホント彼女たちは何もしていないんだよね。
つい先日までなら上級冒険者の境界線だったマスターレベル。そこに普通の宿屋の女将さんたちが到達してしまった。もちろんプレイヤースキルは皆無だし、装備も話にならない。つまり戦闘という点じゃあんまり意味がない。だけど、上がったVIT、STR、AGI、DEXは確実に実生活で役に立つだろう。
「これが『ヴィットヴェーン最強計画』です」
「まったく、とんでもないねえ」
普通の人の3倍のスタミナ、力、素早さ、器用さを持った人たちが何を為すか。宿屋や食堂や、工房でどう活躍するのか。それが『ヴィットヴェーン最強計画』だ。
ちょっと頭の悪い計画名だけど、まあそれはいいじゃないか。思いつかなかったんだよ。
そうして10日、ヴィットヴェーンに約50人のマスターレベル一般人が誕生した。
◇◇◇
「たまの外食もいいね」
「おう!」
街に降りてきたのは『ブラウンシュガー』とわたし、ターンだ。
視察って言うほど大袈裟じゃないけど、宿のみなさんがどれほどの働きを見せているのか、ちょっと興味があったんだ。
あと、もうひとつ用件も。
「こんばんはー」
「ばんわー」
「やあ、来たね」
わたしたちをツェスカさんが迎えてくれた。
なんかこう、力強い動きをしている。両手にビールのジョッキを5個ずつ持って、テーブルの間をすいすいと進んでいく感じだよ。洗練された動きってこういうのなのかな。
「まあ、座っとくれ」
「はい」
素直に座って待っていると山盛りの食事が出てきた。ターンお気に入りの焼肉定食だ。
「見事!」
なんと、ターンのお墨付きが出た。
たしかに厚みがあるのに、一口で食べられるサイズのお肉は絶妙の焼き加減だ。しかも添えられた千切りキャベツが素晴らしい。定規で測ったかのように同じサイズで、しかも食べやすいと来たものだ。心の中でシェフを呼べい! って言いたくなってしまう。
「ウチのもマスターレベルのシーフになっただろう。それでもう、絶好調さ!」
そうなんだ。ツェスカさんの旦那さんは厨房担当で、こないだマスターレベルになったんだ。
戦闘用ジョブしかない『ヴィットヴェーン』でAGIとDEXを上げた調理人がこれほどのものとは。これはもう驚愕の事実だ。
「本当に美味しいです」
「うむっ!」
「いやあ、ありがたいねえ」
そう言うツェスカさんも、給仕の皆さんも動き続けている。凄まじいバイタルだ。『ヴィットヴェーン最強計画』に間違いはなかったんだ。
◇◇◇
「よう。俺らになんかあるんだって?」
丁度食事が終わった頃、おじさんたちがやってきた。二人ほどお姉さんもいるけどね。
それは『暗闇の閃光』6人と、ダグランさんとガルヴィさんだ。ここの宿に泊まっているのを、わたしが呼び出した。
「あの、わたしが言うのは筋違いかもですけど、『暗闇の閃光』解散するんですか?」
「ま、まあ、そうなるかな」
そう言ったのは『暗闇の閃光』のリーダー、確かケインドさんだったかな。
「解散というか、こいつらが結婚するって言うから、野郎4人だろ。うち二人は既婚者だ」
パーティの中で結婚して解散って、結構ある話みたいなんだよね。
「それで提案があるんですよ。皆さんでクランを作ってみませんか?」
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