第62話 金策だって必要だ





「孤児院をウチの隣に、ですか」


「そうです」


 冒険者協会の査定担当者さんがやってきた。なんでこの人なんだろう。

 なんかこう『訳あり』担当者になっている気がする。


「ベルベスタさん?」


「わたしゃ構わないと思うよ」


 子供担当ならベルベスタさんだ。そして彼女は構わないと言っている。


「それで何故ウチに?」


「土地は伯爵閣下の権限で確保しました。後は、資材と建築者ですね。ドワーフの棟梁たちには話を通しておきました」


「資材を集めろってことですね」


「有体に言えば。もちろん見合った金額はお支払いします。それと、孤児院で見所のある子は、どんどん引き抜いて構わないとも」


「ハーティさん。どう思いますか」


「私は構わないと思いますけど」


「ついでに、クランハウスも増築しませんか? そうですね、あと2棟追加ってことで」


 今、ウチのクランハウスは定員30名のところに19人だ。とは言っても、ターンとチャートとシローネは同室、『ブラウンシュガー』の4人もそうなんだけど。


「……まあ、資金に問題はありませんし、素材もありますね」


「賛成の人、挙手!」


 全員が手を挙げてくれた。嬉しいな。



「それでその、ロックリザードの石材は沢山あるんですけど、格式だかはどうでしょう」


「その点について、伯爵閣下からのお言葉です。好きに使え、と。ただし、こちらにも回せだそうです」


「すっごい遠まわしな、貴族っぽいこと言われたんですね」


「ご理解していただけると、嬉しいですね」


 査定担当者さんがハンカチで額を拭った。可哀相に。


「じゃあ、ロックリザードの石は、協会と貴族様に回しますから、ロックゴーレムの石を相場でこっちに流してもらえますか」


「お気遣い、本当に助かります」


 面倒事はごめんだからね。


「では『クリムゾンティアーズ』と『ブラウンシュガー』はマーティーズゴーレムとグラスラビットで素材集め、『ルナティックグリーン』はロックリザードでどうでしょうか」


 ハーティさんが纏めに入った。


「あと、部屋が10室ほど余っていますので、孤児院に入る予定の年少組を収容しましょう」


「異議なし!」


 そういうわけで、わたしたちはレベル上げアンド素材集めに旅立ったのだ。



 ◇◇◇



「おいおい、本当に大丈夫なんだろうな」


「安心してください。今日中に全員レベル8まで持っていきますよ」


 建築作業は迅速であるべし。そういう意志のもと、ドワーフの大工さんたちを説得して、迷宮でレベリングに励んでいるところだ。

 彼らたちのジョブは、ウォリアー、ソルジャー、シーフが大半だ。しかも大体がレベル4から5くらい。これを底上げして、孤児院を造ってもらうのだ。ついでに、クランハウスの増築も。


 10人ほどのドワーフさんたちが『クリムゾンティアーズ』に引率されて、一部はカエルに、一部はマーティーズゴーレムに立ち向かう。いや立ち向かってないね。後ろでビビって見ているだけだ。

 カエルは勿論私が担当。マーティーズゴーレムはターンが担当だ。


「レベル8を超えたら、9層ですよ。ハーティさんとリッタ、イーサさんが引率しますからね」


「マジかよ」



 4日かけて、ドワーフの大工さんたちは、立派にマスタークラスになった。とりあえずここまでで十分じゃないかな。


「うおおお。身体が動く、動くぞぉ。じゃんっじゃん素材持ってこい。今なら城でも建てられそうだぞ」


「おっちゃん、造るのは孤児院とクランハウスだからね」


「おう! 城より凄いのを造ってやるぞ」


「城は勘弁ですよ」


 レベルが3倍くらいになったドワーフたちは絶好調だった。

 まったく戦っていなかったので、プレイヤースキルは皆無だけど、建築屋としては十分な成果だそうな。



 ◇◇◇



「うわあ、きれー!」


「すごいすごい!」


 30人ほどの子供がクランハウスにやってきた。ちなみに全員女の子。孤児院が完成するまでの繋ぎだけど、今日から同じ家の住人ってわけだね。

 それにあわせて、ハーティさんとツェスカさんのツテを使って、ハウスキーパーさんを雇うことにした。掃除なんかは今まで手隙のメンバーがやっていたけど、さすがに限界が見えてきた。食事についてもそうだね。


「こっちがお風呂だよ!」


 クランハウスを案内しているのは『ブラウンシュガー』だ。彼女たちも嬉しそうだ。仲間が増えるというのもあるし、何より、自分たちが救いたいと思っていた子たちを招くことができたのが嬉しいのだろう。


「頑張って稼ぐ」


 チャートとシローネの鼻息も荒い。


「頑張るのは良いけど、無理はダメよ?」


「うん」



 しばらくしてお風呂から上がってきた子供たちは、小ざっぱりした服を身に付け、弾けるような笑顔を見せてくれた。


「いただきまーす!!」


 手狭になったので、新しく搬入したテーブルを合わせて50人以上での食事だ。一気に倍以上になった上、子供が大半だけに騒がしいことこの上ない。だけど、なんだろう、クランハウスに明かりが灯ったような、そんな気がした。



 騒ぎつかれたのかな、一人二人とうつらうつらし始めた子供たちを寝室に運び込んで、ここからは大人たちの会議だ。ああ、ターンと『ブラウンシュガー』も寝ちゃったね。


「さて、孤児院ができるまでひと月くらいだったかねぇ」


 子供が関わることになると、俄然ベルベスタさんが仕切り出すんだ。


「おっちゃん方の言い分だと、お城みたいな孤児院になるそうですよ」


「そりゃ豪勢なことだねぇ。で、それまでどうするのさ」


「とりあえずは勉強と、体力作りですね。あと1週間くらいで、ステータスカードが無料化されますから、そうしたらそっちも」


「冒険者やらせるのかい?」


 ベルベスタさんの目つきがちょっと怖くなる。


「本人たち次第ですよ。それにですね、ステータスが見えた方が良いんですよ」


「そりゃまたどうして」


「勉強や運動の成果が目に見えるって、大切だと思うんですよね。逆に上がらなくって苦しむこともあるかもですけど、彼女たちはもう、そういう苦しさ知っているでしょうし」


「あたしは賛成だ。冒険者にならなくたって、他の道は幾らでもある。そうだろ? サワ」


「ええ、アンタンジュさんの言う通りです。というか、わたしたちが作るんですよ。孤児院やクランハウスの仕事だってあげることができます」


「……わかったよ」


 ベルベスタさんは腕を組んで納得してくれた。



「子供たちも職員も増えました。食材は迷宮で大半賄えましたが、服や給金も必要です。これまで以上に、サワさんの言うところの効率的に探索する必要がありますね」


 クランの金庫番、ハーティさんの言葉に皆が頷く。


「基本はロックリザード、グラスラビット、マーティーズゴーレムで構いませんが、やはり換金性が高いのは31層ですね。『ルナティックグリーン』でやりましょう」


 ハーティさんの提案は、レベル上げとお金の両立だった。こういう気遣いができるのが凄いと思う。


「じゃあ、あたしも出るかねぇ」


 ベルベスタさんも名乗りを上げ『ルナティックグリーン』は、わたしとターン、ハーティさん、ベルベスタさん、リッタとイーサさんで31層に籠ることになった。



 ◇◇◇



「コンプリートしたわ!」


「おめでとうございます、リッタ様」


 31層に入って2日目、リッタがウィザードをコンプした。イーサさんは前日だったけどね。さらにはハーティさんもファイターをコンプリートだ。いよいよロードだね。


「3人には悪いけど、もう1泊するからね。今回は素材集めも大切だから」


「分かってるわ!」


 わたしはケンゴーの27、ターンがハイニンジャで14、ベルベスタさんはソードマスターのレベル20だ。流石に上位ジョブは上りが重たい。


「コンプリートしたら、サムライにでもなろうかねぇ」


「いい加減にしてください!」


 切り裂きウィザードって呼びますよ?



「ハーティさんはロードになるとして、リッタとイーサさんはどうするんですか?」


「わたくしはソルジャーになるわ! 基礎ステータスを上げるの!」


 ふむ、見上げた根性だ。訓練でも真面目だし、リッタは良い冒険者になるね。


「わたしは悩んでいます」


「イーサはお兄様に、わたくしの護衛を言いつけられているの」


 なんでもイーサさんは生粋のナイトらしい。貴族家に仕える家にありがちらしいんだけど、しっかり訓練して教養を仕込まれてからジョブに就くのが伝統だとか。

 そして護衛ってことは、後衛ジョブはマズいかな。


「お嫌じゃなかったら、ソルジャーからシーフっていうのはどうですか?」


「ソルジャー、シーフ!?」


「ああ、やっぱり家的にムリですか」


「……いえ、そんなことは些末です。サワさんはわたしに強くて固くて速くなれと、そう言ってくれるのですね」


「あ、まあ、そういうことですけど」


「ターンも教える。シーフは任せろ」


「ふふっ、ありがとうございます」



 こうして二人の行く先が見え始めた。ハーティさんも頑張ってね。


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