第76話 あらゆる手段で強くなれ!





「おいおい、こりゃどういうこった?」


「あははっ、やっと来てくれましたか。もう全員、ジョブチェンジの準備万端ですよ」


「いやだから、説明しろよ。あと、なんで揃いも揃って笑ってるんだよ。怖えよ」


 後続の先頭だったのかな、『木漏れ日』が来てくれた。わたしたちを見た、リーダーのゴットルタァさんが恐怖している。


「『宴』だからですよ。楽しくやらないと」


「意味、分かんねえよ!」



 5分くらいでざっと説明してあげた。ここで起こった事、ここで今、わたしたちが何をしているのかもだ。


「分かったよ。ちょっと30層に戻って伝えてくるわ」


「頼みますよー」


 先遣隊だったってことか。


 30分もしないうちに、ぞろぞろと後続パーティが降りてきた。待ってましたよ。


「『ルナティックグリーン』と『シュレッダーズグレイ』で掻き回します。その間に陣地構築を急いでください」


「了解だ」


「特にジョブチェンジのアーティファクトは、安全な場所にお願いしますね」


「安全な場所ってあるのかよ!?」


 ゴットルタァさんの顔が歪んでる。


「ありますよ。わたしたちの近くです」


「ははっ、違いねえ」


 さて、誰からジョブチェンジしたものか。いや、その前に。



 ◇◇◇



 とりあえず、『木陰のベンチ』と『ワールドツー』に伝令をお願いした。

 行ったり来たりで申し訳ないけど、仕方ないということで。



「さて、お集まりの冒険者の皆様、ようこそ『訳あり令嬢たちの宴』に。このパーティは無礼講ですよ。レベル上げ放題。ジョブチェンジのし放題。実戦経験たっぷりの狂気の沙汰です。是非楽しんでいってください!」


 まずはブチ上げておかないとね。


『ルナティックグリーン』と『シュレッダーズグレイ』の面々が笑う。ゲラゲラと高らかに、上品に、シニカルに、それぞれの笑い方でホストを演じている。全くもって最高だぜ。


「ははっ、狂気の宴ってか」


 最初に乗ってきたのは『暗闇の閃光と緑の二人』のリーダー、ケインドさんだ。って長いわ!


「踊れば良いのかい?」


「そうですよ、存分に舞踏を」


『木漏れ日』のゴットルタァさんも。


「舞踏と武闘って上手くないなあ」


「そう言わずに」


『ワールドワン』のシンタントさんさんもだ。



 さあ、乗ってこい。この祭りに参加できなかったら、後悔どころじゃすまないよ。


「『ルナティックグリーン』と『シュレッダーズグレイ』は、今まさにヴィットヴェーン最強のパーティです。乗り遅れますか? 最強の座を譲りますか?」


「わあったよ、乗ってやろうじゃねえか」


「おおう!!」


 ようし、やるぞぉ。



 ◇◇◇



「二人ずつです。最低でもマスターレベルになってから、次の人ですね」


 今はアーティファクトを守りながら、誰からジョブチェンジをするか考え中だ。


 なんせ、全員のレベルが凄いことになっている。


 まずは『ルナティックグリーン』。ターンが32、わたしが37、サーシェスタさんが41、ベルベスタさんは29、ポロッコさんが34、最後にシローネも34だ。

 もうレベルだけで言えば、いやスキル込みでもヴィットヴェーン最強パーティだろうね。さっきの煽りは嘘じゃない。

『氾濫』が無ければ、普通に40層で通用するよ。


 そして『シュレッダーズグレイ』と言えば。ハーティさんが32、チャートが35、ジェッタさんは36、テルサーが34、イーサさんが29で、リッタが33だ。

 こっちのパーティは全員ジョブチェンジ対象だ。ただしハーティさんの扱いがなあ。



「よう」


 そこにやってきたのが、『緑の二人』。すなわちダグランさんとガルヴィさんだ。

 ん? いつもヘラヘラしてるガルヴィさんが、今は何故かキメ顔だ。きりりってか。


「ハーティさん、いやハートエル。俺と結婚してくれ。これを君に捧げる」


 とんでもないことを言いだしたガルヴィさんの手には、一振りの剣があった。それってまさか『黒の聖剣』!

 ロードの上位ジョブ、ロード=ヴァイへの必要アイテムじゃないか。何処でそれを。


 許す。わたしは許すぞ。結婚を許す。だから早くその剣をよこせ。


「サワノサキ卿。ここなガルヴィを名乗る平民風情が、カラクゾット男爵家に取り入り、簒奪を企んでいるようです。如何致しましょう」


「……極刑、だね。ただし、その剣を上納したら、刑罰一等を減じても良いかもしれません」


 まあ、せっかくだからハーティさんに乗ってあげよう。


「だそうだが、ガルヴィとやら、どうする?」


「ははっ! 恩情に感謝し、この剣を献上させていただきます。ちっ、フられたかあ」


「本気だったんですか?」


「本気も本気だよ。ちくしょう」


 本気で悔しそうな顔してるよ。逆にハーティさんは涼しい表情だ。ご愁傷様です。


「どこで拾ったんです?」


「30層でな、宝箱に入ってた」


「どうしてカタナじゃないんですか!」


「いや、サワさんみたなチミっこいのは、好みじゃないって言うか」


「……ターン」


 わたしの発言と同時に、ガルヴィさんの首にはターンのニンジャ刀が添えられていた。


「殺すぞ」


「悪かった! 悪かったけど、好みの問題だから仕方ないだろうがっ!」


「ターン、放してあげて」


「サワ、いいのか?」


「うん」


 すっとターンがわたしの横に現れた。どういう移動だ。まったく見えなかったんだけど。



「ガルヴィさん、ダグランさん」


「俺まで?」


 うるさい。


「お二人は『名誉ルナティックグリーン』です。分かりますね」


「な、何を」


「『ルナティックグリーン』の隊長はターン、副隊長はわたしです。すなわち、わたしたちの指示に従う義務が発生します」


「聞いてねえよっ!」


「男爵権限で、今決めました」


「貴族かよっ!」


 良いツッコミだ。それに免じてあげよう。


「二度はありませんよ?」


「わ、分かったよ」


 あちこちで戦闘音が聞こえてるけど、この茶番、必要だったのかな。



 ◇◇◇



「で、話を戻しましょう。ジョブチェンジです」


 すごすごと去っていったダグランさんとガルヴィさんを見送った。まあいいや、わたしたちはジョブチェンジ談義を始めよう。


「サワに任せるよ」


 サーシェスタさんが淡白に言ってくれた。責任が重いって。

 とりあえず、硬い人たちは残しておきたい。もしくはさらに固くしたい。となると。


「ポロッコさんはナイトでしたよね」


「はい。そうです」


「テルサーは?」


「ハイウィザードになりたいです!」


 うん。悪くない。


「じゃあまず、二人をジョブチェンジしましょう」



 さて、ポロッコさんがナイト、テルサーがハイウィザードになった。

 テルサーはどうやったって前に出せない。完全後衛タイプだ。ポロッコさんもせめてマスターレベルまでは後衛だ。


「さあ、経験値貰いますよ。全員、歌唱!」


「強くなれ! レベルー、経験値ー、レベルぅ~」


 いつも通り、作詞ターン、作曲・編曲リッタでお送りする、レベルアップの歌だ。

 笑顔で歌いながら、敵を葬り去る2パーティ、どんな絵面だろ。


「ひでえ」


「あいつら、笑いながら戦ってやがる」


「『狂気の沙汰』か。全くその通りだぜ」


 外野、うるさいよ。



「サワ、兎4」


 絶好のカモが現れた。


「パーティ分割。ポロッコさんとテルサーだけ。テルサー、ブチかませ!」


「『ティル=トウェリア』!」


 テルサーのウィザード最強攻撃魔法が炸裂する。熱風が吹き荒れ、残されたのは兎の皮とお肉だけだ。オーバーキルどんとこいだ。


「レベル10です」


「レベル8!」


「おっけい。『ブラックイレギュラー』解散。パーティ戻せ」


 パーティ名『ブラックイレギュラー』。それは、ジョブチェンジしたばかりのメンバーだけで組む、一人、または二人構成の超臨時パーティだ。当然、攻撃魔法持ちが一人含まれていないと成立しないけどね。

 効率、効率ぅ。


 5分後、テルサーとポロッコさんはマスターレベルを超えた。さて次は、と。

 わたしとターン、サーシェスタさんとベルベスタさんは、ジョブチェンジ無しなんだよね。いや、ベルベスタさんはまた、やらかすかもしれないけどさ。


 そうして順繰りと各人がジョブチェンジをしていく。レベルも上げていく。

 最後はハーティさんだ。

 強奪というか献上された『黒の聖剣』を手に、ハーティさんがジョブを変更する。行き先は『ロード=ヴァイ』。またの名を『ダークロード』。

 ロードの性能を一段階上げて、さらにビショップの持つ状態異常魔法を使う、暗黒の騎士だ。かっけぇ。



 さあ、強くなってきたぞ。どんどん強くなるぞ。『氾濫』にかこつけて、ヴィットヴェーンは強くなるんだぞ!


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