第126話 なんか来た





「流石に46層は舐めてかかれないね」


「キツイわね」


 ズィスラが顔を歪める。

 45層は44層とそう変わらなかった。だけど46層からはちょっと違う。ドラゴンフライ、ヒュージスパイダー、ローリングビートル、そしてメデューサスネイク。状態異常を持ってる敵が増えてきた。特にメデューサスネイクは石化持ちだ。

 石化を治すポーションは存在しない。つまりわたしの薬効チートが通用しないってことになる。


「でもまあ、レベルとプリーストでなんとかなるけどね」


「『ブラウンシュガー』は凄い」


 ターンが言う通り、状態異常はレベル差でカバーできるんだ。

 わたしも1回石化を貰った。いや、本当にピクリとも動けなくなるんだよ。意識はしっかりしてるのに。正直かなりビビった。『ゼ=ノゥ』の時も1回貰ったけど、さすがにこれは慣れないよ。



「こりゃレベルを上げないとマズいね」


 確かに全員プリーストできるから、安全マージンはバッチリなんだけど、精神にクるんだよね。MINはもうちょっと仕事しても良いと思う。


「怖かった」


 ターンもシッポをへんにゃりさせている。これはなんとかせにゃいかん。

 アイテムかレベルを上げるかだね。でも石化無効アイテムなんて、それこそ70層以降だ。


「レベルを上げよう。それしかない」


 ここに来てレベルの重要性を思い知った。まあ、良い経験だったということにしよう。

 最低でも階層と同等レベルにしておこう、そうしよう。


 てな感じで、ヴィットヴェーン最深到達階層は46層になったわけだけど、前途は多難だった。



「悪いけど、当面はキューンとテルサーを交代でいい?」


「わかった」


「いいですよ」


 テルサーはナイチンゲールだ。つまり事前に状態異常回復を掛けることができる。

 キューンはカダかナイチンゲールを狙っているけど、まだアイテムが出ていない。なので、安全な『ブラウンシュガー』に入ってもらう。


 しかもこれから、わたしとポリンがハイニンジャになるんだ。また38層辺りでやり直しても良いけど、それじゃ同行を楽しみにしてた『ブラウンシュガー』に申し訳ないしね。

 なので度胸をキメる。石化しても麻痺しても、それでも深層を巡るんだ。そうしていればレベルも上がる。


「信じてるからね、みんな」


「任せてください」


「うん、テルサーがナイチンゲールで良かったよ」


「えへへ」



 ◇◇◇



「うぇははは!」


「がははは!」


 素材卸しとジョブチェンジで協会事務所に来てみれば、何か変な連中が居た。


「なんですアレ?」


「キールランターから来たみたいです」


 受付のスニャータさんが簡単に答えをくれた。キールランターって、この国の王都だったっけ。国の名前はキールラントだよ。


「そうです。あの、関わらない方が」


「どうしたんですか?」


「メッセルキール公爵家の九男が混じっているみたいなんです。凖王族ですね」


「はい?」


 なんでそんなのが来てるんだ。ってか、つい先日似たようなパターンがあったような。しかも2回も。



「おおっ、ちっこいのばっかりでどうしたんだ? 冒険者ごっこかあ」


 やっべえ、見つかった。まだだ、まだロックオンまでは。


「おおい、こっち来いやあ」


 まだだ。まだわたしたちを指定したわけじゃないはずだ。


「サワ、呼んでるぞ?」


「ターン、目を合わせちゃダメ」


「なんだあ、我が呼んでいるんだぞ。こちらを向け」


『我』とか言ってるぞ、おい。なんだ、あのガラの悪いのがまさかなのか?


「この我、オーブルターズ・メット・ランド・メッセルキールが呼んでいるのだ。こちらを向け」


 まさかだったー。

 周りも気まずそうにこっち見てるし、行くしかない。



「な、何かご用でしょうか」


 見た目は、本当に普通のおっさんだ。40代は行ってないだろうけど、30は超えてるかな。金に近い茶色い髪と、茶色い瞳。ガタイはゴツい。王家の血筋を引いていると聞いたけど、なんだか普通にガラの悪い冒険者だ。装備だけは豪勢だけどさ。

 取り巻きはえっと、3パーティくらいかな。


「貴様、レベルは?」


「0です」


 嘘じゃないよ。今はレベル0のハイニンジャだからね。


「なるほど。冒険者ごっこということか」


「そ、そうかもしれません」


「ターンは本気だぞ」


 ターン、黙って。ホントお願いだから。


「がははは、そうかそうか。まあ精々頑張るといい」


「ありがとうございます。ではわたしはこれで」


「ところで」


「はひっ!」


「この街にサワーとかいう女冒険者が居ると聞いたのだ。知らないか?」


「サワー、サワーですか。知りません。ごめんなさい」


 周りの目が痛すぎる。


「サワのことじゃないか?」


 やめい、ターン!

 そうしてわたしは逃げ帰った。怖すぎる。



「ハーティさあぁぁん」


 こういう時に頼りになるのはハーティさんだ。会長にも相談したいけど、今のヤツは意趣返ししてくる可能性がある。油断出来ん。


「公爵令息ですか。どんな人でしたか」


「チンピラでした」


「はあ」


「あと、サワーっていう人物を探してました。誰なんでしょうね」


「そうですか」


「女性冒険者らしいですけど、心当たり、あります?」


「……ありませんね」


「ですよね!」


 良かった、サワーなんて不幸な女性冒険者は居なかったんだ。本当に良かった。


「それで、現実逃避はこれくらいでよろしいですか」


「止めてくださいよぉぉ」


 あ、そうだ。


「ハーティさん、改名しません? サウェエル・パッシュ・カラクゾット。良い名前です」


「このクランで、財布と計画遂行を担っているのは誰でしょう」


「ごめんなさい」


 不毛だ。あまりに不毛な会話だ。ここは建設的にいかなきゃダメだ。



「どうしましょう」


「相手の目的も分かっていません。まずは探りを入れてみては」


「どうやってですか?」


「サワさん本人はちょっとマズいですね。ポリンさん」


「はい」


 なるほど。そう来るか。


「チャートさん、ワンニェさん、ニャルーヤさん、……それとターンさんも行けますね。出番です」


「おう」


 そう、『訳あり令嬢たちの集い』が誇るニンジャ部隊の出撃だ。犬耳2、猫耳2、タヌキ耳と大盤振る舞いだぞ。

 ターンは今、ニンジャじゃないけど、元イガニンジャだ。イケるだろう。



 ◇◇◇



「じゃあ、行ってくる」


「頼むよ、ターン」


「むふん、任せろ」


 翌日、冒険者協会に訪れたわたしは、ターンたちを見送った。ターン、チャート、ワンニェ、ニャルーヤ、そしてポリン。なんだか安心できるけどできないメンバーな気がする。

 わたしとハーティさんはこっそりと忍び込んで、隅っこのテーブルで観察だ。


「なあ、サワ嬢ちゃん、何してんだ」


「静かにしてください。後ろから刺しますよ」


「お、おう」


 わたしはニンジャ頭巾を被り、目だけを出した状態だ。隠ぺいは万全。後はターンたちの手筈に期待しよう。



「おじさん」


「ん? なんだ、我に用か?」


「そうだ。何を狙ってる」


 ぶっこんだー。真っすぐど真ん中だよ。

 てか、あの人たちなんで朝からお酒飲んでるんだろう。


「……何者だ?」


「ターンだ。サムライをやっている」


 うわあ、個人情報がダダ漏れだよ。


「ほう。レベルは」


「23」


 公爵九男の取り巻きたちがガタガタと立ち上がった。あーあ、もうどうしよう。


「コンプリートレベルだと!?」


「フカシじゃねーのか?」


「ステータス見せやがれ」


「ふっ、必要は無い。チャート」


 そういうトコだけ秘匿するのかあ。


「ぼくはチャート、ハイニンジャのレベル63だ!」


「なにぃ!?」


「ステータスを」


「その必要はない!」


 なんだこれ。


「わたしはワンニェ、ハイニンジャのレベル25です」


「わたしはニャルーヤだよー。同じくハイニンジャのレベル25ー」


「わたしはポリン、ハイニンジャのレベル0です」


 わたしの味方が続々と個人情報を開示していく。



「なんでハイニンジャが4人も。しかも63だとっ!?」


「てめーら、落ち着け!」


「は、はい。殿下」


 あ、呼び方、殿下なんだ。


「お嬢ちゃんよ、冗談じゃねえんだろうな。この我に向かって、もっかい同じこと言えるのかい?」


「同じだ」


「……そうかい。中々良い度胸してるじゃねーか」


「おう」


 ターン、真っすぐなのは美点だけど。真っすぐ過ぎるよ。



「なるほど面白れぇ。その実力、迷宮で見せてもらえるかい?」


「一向に構わん!」



 どうしてそうなるの!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る