第23話 わたし、ジョブチェンジします!
あの子爵令息が領地に帰還した後、冒険者協会会長とは会っていない。査定担当者さんを通じて『口頭』で、ご苦労だった、感謝なんかしていないんだからね(意訳)、みたいなお言葉を頂いただけだ。ツンデレなんだろうか。
そして1か月、プリースト互助会の新人教育も大体終わり、わたしはレベル22になった。最後のスキルも9回使用可能に、つまりわたしはコンプリートプリーストとなったわけだ。
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JOB:PRIEST
LV :22
CON:NORMAL
HP :9+74
VIT:15+20
STR:15+29
AGI:14
DEX:14
INT:20+44
WIS:13+65
MIN:17
LEA:17
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『ミルト(小光)』『オディス(小癒)』『強打』『ピィフェン(個盾)』『キュリウェス(解毒)』『回避』『オディス=ヴァ(小攻)』『ファ=オディス(中癒)』『シーフォ(鑑定)』『フィリスト(麻痺)』『モンサイト(魔封)』『ファ=ミルト(永光)』『フォ=ピィフェン(全体盾)』『デイアルト(異常回復)』『フォ=オディス(全体小回復)』『ラ=オディス(全回復)』『ゲィ=オディス(完全回復)』『フォ=デイアルト(全体異常回復)』『ラング=パシャ(奇跡)』
見にくいかもしれないが、これがわたしのステータスとスキルだ。
さて、ここでジョブチェンジの仕様を再確認だ。
まずレベルは0に戻る。当たり前か。次に、各種補正ステータスの10分の1が基礎ステータスに加算される。これが、この世界でジョブチェンジが為されない、最大の理由なんだ。
だって、例えばわたしのSTRを見てほしい。ここまでレベルを上げれば、元の3倍もの力持ちになれているのだ。しかもこの業界なら、食っていくのに困らない、スキルの数々。ジョブチェンジをする理由がない。
「ここまでは分かった?」
ここは冒険者協会事務所の、俗にいうお食事処だ。実態は酒場だけど。
なんか『クリムゾンティアーズ』だけじゃなくって、他にも何人か聞き耳を立てているようだけど、気にする必要は無い。秘匿すべき情報じゃないし、誰でもできることでもないんだから。
「そして、致命的な制限があるの」
周りからゴクリと唾をのむ音が聞こえた。
「一度、ジョブチェンジすると、元のジョブには戻れない」
つまりわたしが今からなんらかのジョブに変更したら、二度とプリーストにはなれないんだ。
「理由は分かります? 神様のご意思ってのは無しで」
「例えば、ソルジャーとウォリアーで行ったり来たりできなくなる、かしら」
さすがはウィスキィさん。ホントなんでこの人、ウォリアーやってるんだろう。
「正解です。例えばターンは十分以上に強いソルジャーです。そんなターンがウォリアーになって、簡単にレベルアップして、またソルジャーに戻ったら……」
「基礎ステータスが、どんどん上がっていくわけですわね」
「フェンサーさんも正解です。さすがはウィザード」
「それほどでもないですわ!」
嬉しそうだなフェンサーさん。
「これまでジョブを変更する理由は、大きくふたつです。ひとつは上位ジョブや派生ジョブへの変更ですね。シーフがニンジャに、プリーストがモンクになるなんていうのが代表的な例です」
みんながふんふんと頷いている。
「もうひとつは、なりたかったジョブに、ちょっとだけステータスが足りなかった場合です。例えば、DEXが足りなくて仕方なくシーフになってから、サムライになる。WISが足りないからプリーストになって、それからビショップにジョブを変更する。こんな感じですね。こういうのをわたしは腰掛ジョブなんて考えます」
いつしか、酒場の全員がわたしの言葉を拝聴していた。職員までもだ。なんだこれ。
「それを間違っているとは、わたしは思いません。目指すジョブに就き、そのジョブをひたすら極めて上位ジョブを目指す。これは理想の道のりです」
その場の全員がほっと息を吐いた。自分たちは間違っていなかったのだ。
「ですが、それでもジョブを変えることには、大きな利点もあります。それはスキルが引き継がれることです。しかも使用回数まで含めてです。仮にプリーストの私がウォリアーに転職したとして、どうなると思います?」
「回復ができるウォリアーに成れる」
それを言ったのは誰だろう。とにかくその場の冒険者の誰かのセリフだ。
「もちろん、回復ができる攻撃系ジョブとして、ロードが存在しています。ですから腰掛ジョブからロードになるのも一つの手ですね」
「じゃあ、どうして」
また別の冒険者が言った。
「わたしの目指しているのが、最強にして究極だからです。これ以上は、今後の『クリムゾンティアーズ』を見ていれば分かりますよ」
そうして、わたしは講義を終わらせた。ってか、いつの間に講義になっていた。
◇◇◇
「なんだったんだろうね」
「サワは凄いな」
「ありがと」
そう言ってくれるターンだったが、微妙な表情だ。
彼女のレベルは20まで来ている。だけどコンプリートが終わっていないのだ。多分、あと1上げれば達成できる。だから、わたしはそれまでジョブチェンジを待とうかと思ったんだけど、それは猛烈に拒否された。
「絶対に追いつく」
ターンにとって、わたしは師であり、追い付くべき相手なのだろう。待っている? ふざけるなといった感じだ。だからわたしも手を抜くわけにはいかないんだ。
そうして、わたしは久しぶりに、『ステータス・ジョブ管理課』を訪れた。
「お久しぶりです。随分噂になっていますよ、サワさん」
「勘弁してください。どうせ化け物呼ばわりなんですから」
「こんなに可愛い女の子に、酷いですよね」
暗に肯定しないでくださいよ。
「聞こえていましたよ。遂にジョブチェンジですか?」
「はい」
「かなり興味はありますが、何になるつもりですか?」
「もちろん、最強で究極の冒険者ですよ」
「あははは、わたしが在籍中に達成してくださいね」
「まかせといてください。じゃあ」
「新しいジョブはどれになさいますか?」
すっごく楽しそうに受付嬢さんが聞いてくれた。
「エンチャンターでお願いします」
「なるほど。回復ができる上に、バッファーもやるわけですか。完全に後衛ですね」
ステータスカードを差し出したわたしに、例によってテーブルを操作しながらお姉さんが言ってきた。
「そうですね」
「でも、今のところは、なんでしょう?」
「分かってるじゃないですか。そうです。ウチは優秀な前衛と、後衛火力がありますから」
「つまりはパーティでの役割を果たしながら、その上で最強を目指すわけですね」
このお姉さん何者だ? めっちゃ分かってるじゃないか。
「では手を置いてください」
テーブルにステータスカードがセットされて、その横にわたしは手を置く。そして念じる。カードに書かれた文字列が変化していき、最後に銀色に輝いて、わたしのジョブチェンジは完了した。
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JOB:ENCHANTER
LV :0
CON:NORMAL
HP :16
VIT:17
STR:17
AGI:14
DEX:14
INT:24
WIS:19
MIN:17
LEA:17
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スキルは省略するけど、これがわたしの新しいジョブだ。基礎ステータスには、前ジョブの補正ステータスの10分の1が加算されている。端数切捨てという無情な仕様だ。
その名はエンチャンター。バフ、デバフをメインにした、所謂バッファーだ。ミソなのは、自分にも単体の強力なバフを掛けることができる。それはすなわち、最強への道の次の一歩なんだ。
レベルアップ時のステータス上昇はウィザード系に近い。AGIが0~2、DEXが0~5、INTは0~6。こんな感じだね。
さあ、ここからまたレベルアップだ。カエルよ震えて待つが良い。
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