第37話 事務を求めて
「よしっ、レベル13!」
チャートが嬉しそうな声を出した。
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JOB:MAGE
LV :13
CON:NORMAL
HP :11+38
VIT:15
STR:14
AGI:16
DEX:14+24
INT:9+27
WIS:8+27
MIN:15
LEA:12
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チャートのステータスはこんな感じ。スキルは省略するとして、とりあえずこれでマスターレベルだ。
「おれも13になった!」
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JOB:MAGE
LV :13
CON:NORMAL
HP :10+39
VIT:16
STR:13
AGI:17
DEX:14+19
INT:9+31
WIS:8+29
MIN:17
LEA:11
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シローネもマスターレベルだ。さて、二人のご意思はどうなのかな?
「で、どうするの?」
敢えて聞いてみる。わたしの指導とは言え、そこに当人の意思が無ければ意味が無いと、わたしは思うんだ。
「ぼくはもちろんコンプリートを目指す」
「おれもだ」
「ここからが大変なんだよ? 特に二人は後衛だから、マーティーズゴーレム狩りも時間がかかるし」
「ターンが言ってたんだ。自分は運が良かったけど、本当はレベルってのはじっくりあげるもんだって」
ターン……、立派になって。
「それに、INTとWISを上げておきたい。勉強飽きたし」
シローネよ、そこがポイントだったか。確かにレベルアップで補正掛けられるから、上げるだけ上げてからが理想ではある。限界はあるけど、境界線の一つこそコンプリートレベルだろう。ならばよし。
もう一つの『村の為に』の方は、全員がレベル11から12だ。流石に全員後衛は問題なので、マスターレベルになったら、メイジ4人の内2人をソルジャーにして、そこから全員でその後を考えるようだ。それでいい。
自分たちをパーティとして見て、どうしたらいいか考えることはとっても大切だ。もっともっと悩めばいい。幾らでもアドバイスはするよ。
◇◇◇
「申請書類は全部受理されたよ。あとは会長のサインだけだね」
サーシェスタさんの言葉に、皆が喜ぶ。ついにクランの発足だ。
「それでなんだけどねぇ。『会長』がクラン設立記念のパーティを開いてもらいたい、ってさ」
続いた台詞に、全員が凍り付く。どうすんだ。
この場合の『会長』とは、冒険者協会の新会長、ジェルタード・イーン・カラクゾット男爵令息だ。前会長? 行方知れずだね。
「なんか、クランハウスが目を付けられたみたいでねぇ。是非そこで、ということなんだよ」
めんどくさっ!
そうしてわたしたちは、さらに奔走することになる。パーティをやるならやるで、体裁は大切だ。
大分後になって気付くことになるんだけど、この当時のわたしたちは、他人に任せるってことを考えられなかった。それは美点でもあるけど、欠点かもしれなかった。
元々『クリムゾンティアーズ』は中堅パーティの出身だ。クラン運営という意味で、サーシェスタさんにばかり頼ってもいられない。だけど、今はそれどころじゃない。
「いいかいあんたら。今回は体裁だ。クランとしての体裁をしっかりできるかどうかが試されてると思いな」
サーシェスタさんの檄が飛ぶ。
なにも命を懸けてまで、高級食材を用意しなくても良い。クランが傾くようなお金を掛けて、内装を整えなくても良い。それでも、冒険者クランの見せ所は迷宮産だ。それを弁えて行動するように、ってことだね。
「うーん、こうなるとウィスキィとドールアッシャやサワだけじゃ足りないねえ」
アンタンジュさんの言葉は、我がクランの現状を語っていた。台詞に出てきた3人は確かに事務仕事はできるんだけど、それでも本業は冒険者だ。
クランの運営を任せられる事務員が必要だ。ついに皆が気付いた。
「そんな人材、居るの?」
ウィスキィさんの絶望に塗れた言葉が痛い。
冒険者と付き合いがあって、事務仕事に慣れていて、女性で……。
「あっ!」
「サワ? 何か思いついたの?」
「ひとり、居る」
「居るの?」
わたしとウィスキィさんのやり取りを、他の面々が固唾を飲んで見守っている。心の声が聞こえてくるよ。事務員、事務員さん、事務員様。
◇◇◇
「本日のご用件は?」
「あの、仕事上りは何時ですか?」
「あら。闇討ちですか?」
「しませんよ、そんなこと!」
「冗談ですよ。18時ですね。フォウライトに伺えばよろしいですか?」
流石に話が早い。こう来なくては。
「お待ちしています」
「ええ。それでジョブチェンジは如何致します?」
「今日は無しってことで」
「またのご来訪をお待ちしています」
そう、今話していたのは『ステータス・ジョブ管理課』のお姉さんだ。わたしは彼女に目を付けた。あのサモナーデーモン騒動の時の、理路整然とした前線管理。なんでこの人が、言っちゃなんだけど、こんな閑職のカウンターでくすぶっているのか分からない。
そして彼女は約束通りの時間に現れた。
「お願いします。わたしたちのクランに入ってください!」
サーシェスタさん以外の全員が、ずばっと頭を下げた。90度だよもう。
「おやまあ、本当に来たんだねぇ、ハーティ」
「それはもう、サワさんとターンさんのお声がけですから」
「お知り合いなんですか?」
サーシェスタさんと、事務のお姉さん、ハーティさんの会話にちょっと驚いた。まあ、知り合い程度なら分かるけど。
「私はハートエル・パッシュ・カラクゾットと申します。ハーティとお呼びください」
「カラクゾットって!?」
「庶子ですよ。貴族扱いは止めてくださいね」
元副会長、現会長の腹違いの妹か。なるほど確かに微妙な存在だ。
って、やべえ。これって貴族筋の会長の妹さんを、新設クランが引き抜きかけてるって構図じゃないか!? 危ないどころじゃない。大炎上案件だよ。
「さ、先ほどのわたしたちの言葉は手違い、そう手違いなんです。本日は、日頃お世話になっているハートエル様をお誘いして、親睦のお食事にでも、と」
だめか? 手遅れか? 誤魔化せるか?
「聞き流せませんね」
駄目だったー!!
「お受けします」
そう来たかー!
「ど、どのような思惑の下で?」
「思惑もなにも、そのままですよ。クランに入ります」
それは内部から失礼を働いたクランを崩壊させる、っていう意味なのかな?
「ほんっとうにすみませんでした。全てはわたしの責任です。なんならわたしの首ひとつで手打ちということで」
「サワ、ターンも一緒だぞ」
嬉しいけど、今はそれどこじゃないんだよ、ターン。
「いーや、責任はあたしだ」
だから、止めてって、アンタンジュさん。そういうの要らないから。
だけど次から次へ、クランメンバーが首を差し出していく。だからさあ。
「はは、あはは。素敵なクランですね」
「ええ。自慢のクランです。わたしの居場所です」
開き直った。ああ、なんでもやってやる。わたしがどうなろうとも、『訳あり令嬢たちの集い』は居場所なんだ。絶対に守る。手段は選ばないぞ。
「だから、私も入れてもらいたいんですよ。はっきり言っておきますけど、冗談でもなければ、策謀でもないですからね? 皆さんが楽しそうだから、私も仲間に入れてもらいたいって思っていたんです」
「本気で、言っています?」
「ええ、もちろん」
「貴族用語でその心は?」
「クランの発展のために、私の居場所のために全力を尽くしますから、仲間にしてくれますか?」
「……分かりました」
駄目だ。目の前の笑顔が、もし貴族的な仮面だったとしたらなんて思えない。そうだったとしたら、その時は諦めよう。
ちらっとサーシェスタさんを見た。彼女は面白そうな顔をしている。ってことはだ。
「分かりましたよ。わたしたちの負けです。ハートエル様、いえハーティさん、是非ともわたしたちのクラン、『訳あり令嬢たちの集い』に参加してください」
「ええ、喜んで」
待遇と報酬については別途相談だ。そうしてわたしたちは、優秀な事務員を仲間にすることができた。
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