第4章 冒険者と貴族編

第91話 難しい話





「本当に元通りね!」


 リッタが元気に状況を説明してくれた。

 ここは迷宮の第38層。色々と事件が起きた階層だけど、今は平穏なものだ。勿論、出てくるモンスターは38階層相当の、そこそこ手強い相手ではあるけどね。



 今ここにいるメンバーは、元通りの『ルナティックグリーン』だ。


 わたしはヒキタのレベル33。黒いハチガネを巻き、腰には『死霊のオオダチ』と『桜のワキザシ』を佩いている。


 ターンはイガ・ニンジャのレベル46だ。手に持つのは『黒のクナイ』、さらに『ニンジャ頭巾』の上にはみ出た、黒い半タレ柴耳がトレードマークだね。


 リッタはプリーストのレベル26。とっくにコンプリートは終わっているけど、『大魔導師の杖』が出るまで、このまま続けるみたいだ。後衛系ジョブ、全部おさえてるもんね。洗濯されて綺麗になった『大魔導のローブ』を着込んでいる、金髪ドリルロールのお嬢様だ。

 実はこのローブ、『ブラウンシュガー』のみんなからリッタに贈られたものだ。その時彼女は大泣きして、茶色の女の子たちを抱きしめたもんだ。良かったね。


 イーサさんはヘビーナイトのレベル33だ。『ホーリーナイト』になるために、レベル40を目指している。帯剣はもちろん『白銀の剣』だよ。


 ズィスラはソードマスターのレベル19。カラテカ、グラップラーを経由した彼女は、もう立派な冒険者だ。ツンデレ気味なのは相変わらずだね。持っているのは、わたしから受け継いだ『サモナーデーモンソード』だ。


 最後にヘリトゥラはエンチャンターのレベル17だ。後衛系ジョブをほぼ網羅しているので、コンプリートしたら前衛系になるらしい。と言うか、そう指導した。『ルナティックグリーン』は前後両方できて当たり前ってわけだ。



 付け加えるとしたら、チャートはハイニンジャになった。レベル54からのジョブチェンジだ。凄い気迫だね。

 そしてさらに凄いのがシローネだ。そのままケンゴーになるかと思ったら、ウィザードになった。シーフのレベル62からのジョブチェンジだよ。なんでも「サワより凄いサムライになる」だそうだ。頼もしすぎて泣けてくる。

 カタナは渡しておいた。部屋に飾っておいて。


 まあ、他にも色々ジョブが変わった人たちがいるけど、長くなるから省略。

 一つ言えるのは『訳あり令嬢たちの集い』は、今日も絶好調だってことだ。



 ◇◇◇



「会長が呼んでるんですか?」


 お馴染みの査定担当者さんが、素材を見ながらわたしに伝えてくれた。


「ええ、サワさんとターンさんをお呼びです」


 んん?


「わたしはともかく、ターンもですか?」


「はい。間違いありませんよ」


 まあ今更だし、男爵令息の呼び出しとあれば仕方ない。ただ、気になるなあ。



「やあ、ようこそ」


 スニャータさんに案内されて入った会長執務室には、いつものメンバーに加えて、ちょっと驚く人たちがいた。


「アンタンジュさん。シローネまで」


 つまりは『クリムゾンティアーズ』『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ホワイトテーブル』のリーダーが全員揃っているってことだ。『ルナティックグリーン』の隊長はターンだからね。わたしは副隊長。


「今日は集まってくれて感謝をしているよ。用件は想像つくだろうね。先日の『エルダー・リッチ』の件だ」


「……」


 全員が黙って続きを聞く。


「報告書は読ませてもらった。クラン『訳あり令嬢たちの集い』がどれだけの成果を上げたか、正直感嘆を禁じ得ないよ」


 ああ、これは雲行きが怪しいってヤツだ。


「当然、その献身には報いなければいけない。というのがフェンベスタ伯のお考えだね」


 出たよ。ヴィットヴェーンの領主様の名前だ。


「実際は今回のことだけじゃないんだよ。迷宮特産品はヴィットヴェーン最大の強みだけどね、最近は新しい物品が、それも大量に流通するようになった。正直に言わせてもらえば、伯爵領は空前の好景気になっているんだ」


 ほう、それは良かった。嫌な予感もするけど、良かった良かった。


「せいぜい、黒門騒動で食料を買い占めた一部の商会が大損をしたくらいだね」


 経済はよく分からないけど、何やってんだか。

 で、続きがあるんでしょ?



「繰り返しになるけど、『訳あり令嬢たちの集い』は報われなければいけないんだよ」


「申し訳ございません。わたしは平民出なので、仰る意味が」


 勇気を出して聞いてみた。これくらいなら、許されるよね。


「伯爵は『訳あり令嬢たちの集い』の代表者を、授爵させるとのお考えだ」


 てことはアンタンジュさんが?


「どうだい、アンタンジュ嬢。君は『男爵ができる』かい?」


「と、とと、とんでもございません」


 そういうことかあ。ここの集められた面子は『訳あり』の主要メンバーだ。ここから男爵になる、つまりクランリーダーを決め直せってことかな。

 なんか面白くないなあ。自分たちで決めて納得したことなのに、外側から権威を勝手に押し付けて掻き回すなんてさ。もしかしたら『訳あり』が活躍しすぎたから、頭を押さえに掛かってるんだろうか。


 ん?

 おかしいな、こういう時はハーティさんが何か言うはずなのに、一言も発言してない。何かあるってことかな。


「と、ここまでが表向きの理由だよ」


 裏があるのかあ。


「そちらは戻ってから、ハーティに聞くと良い」


 ちらりとハーティさんを見れば、彼女は微妙な表情をしていた。めんどくさ。


「返答は急がなくていいよ。そうだね3日後で」


 それは急いでるんじゃないんだろうか。貴族なんだからもっとほら、優雅にさあ。



「それともうひとつ、こちらは正式な依頼だよ」


 会長が豪華な封筒を手渡してきた。なんでわたしに渡すかな。


「君が教導課の課長だからね」


「レベルアップの依頼ということでしょうか」


「うん、僕のレベルアップだよ。詳しくは内容を読んでほしい」


 げげぇ。


「そちらの回答も3日後でいいよ」


 という感じでその場はお開きになった。



 ◇◇◇



「ハーティさん」


「道端ではなんですので、戻ったらお話ししますね」


「はぁ」



 とりあえずお風呂に入って、晩御飯を食べて、それから全員でハーティさんの話を聞くことになった。


「大変申し訳ないのですが、貴族間のイザコザです」


 あああ。本当に面倒くさい話だった。


「簡単にまとめると、3家、いえ4家が関わってきますね。まずはヴィットヴェーン領主のフェンベスタ伯爵です。私とお兄様の叔父に当たります」


 それはまあ知っている。


「次にカラクゾット男爵家、当主は私の父で、ヴィットヴェーン近郊に領地を得ています。お兄様は次期当主となります。そして、カラクゾット家はフェンベスタ伯爵家を寄り親にしています。関係は非常に良好と言っていいでしょう」


 そりゃまあ兄弟だもんね。仲良きことは良きことかな。

 周りは付いてきてるかな? 年長組は大丈夫そうだ。年少組は、ああ『ブラウンシュガー』が眠そうだ。


「さて次ですが、サシュテューン伯爵家です。前会長の祖父に当たる方ですね」


 ああ、あの行方不明になったって言う。確か、ボーパルバニーみたいな名前の。


「その当主が先日逝去されました。伯爵家は恙なく次代に引き継がれ、現サシュテューン伯爵家は安泰です。ただ、庶子のフェッツヴァーン卿一族は行方不明ですが」


 貴族の闇だねえ。


「最後に登場するのが、カーレンターン子爵家です。リッタさんのご実家ですね」


 あれ? リッタの実家も関係してるの?


「カーレンターン子爵ご自身が、サシュテューン伯爵家の新当主と昵懇なのです」


 そう言えば、そんな話もあったような。


「さて、ここまではよろしいでしょうか」



「ターンは全然分からないから、サワに任せるぞ」


「ぼくも」


「おれもだ」


 柴耳3人が放り投げた。仕方あるまい。

『ブラウンシュガー』の面々とズィスラとヘリトゥラも、同じ表情をしている。


『クリムゾンティアーズ』すら、苦い顔をしている。こういうの考えたことも無かったんだろうなあ。わたしだって、生前にその手の小説を読んでいなかったら、何が何やらだったろうし。


「話が長くなってしまい申し訳ありません。前提条件ですので」


 仕方ないね。だけど年少組が眠そうだよ。



「ハーティさん、とりあえず年少組を部屋に戻しましょう」


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