第158話 お礼参りだ





「なるほど、リポップは3時間ね」


『ルナティックグリーン』と『テンポラリーアンバー』は、3度目になる戦いに立ち向かってるところだ。

『テンポラリーアンバー』は、リッタ、チャート、シローネ、シーシャ、ワンニェとニャルーヤで作った臨時編成。『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』から、レベルの低いメンバーを集めた形だね。


「人数が少ない方が経験値効率が良いでしょう」


 そのセリフを言い切ったイーサさんを見たリッタが、愕然とした表情を見せたのは言うまでもない。

 粘液で崩れる主従関係って怖い。当然ワルシャンも逃げた。


「年少組とワンニェ、ニャルーヤも気にしていない。サワも気にしていない。常識人はわたくしとシーシャだけなの!?」


「やだなあ、多数決で良いじゃない」


「嫌よ!」


「むむっ」


 いや、だからターン、不機嫌にならないで。


「ターン、期待してるからね」


「……おう」


 微妙な間を置かないで。



 とは言え3回目ともなれば、レベルも上がってきたし、相手の動きにも慣れてきた。特にわたしの場合は粘液さえ貰わなきゃいいから、モーションで判断できる。


「にゃわっ」


「そいやー」


 ニャルーヤとワンニェは盾持ちなので、もう早々には食らわない。むしろシールドバッシュからのカウンターが光る。

 ホワイトロードのシローネもまたしかりだ。安定した戦いっぷりだね。


「シーシャ」


「『デイアルト』」


 チャートは時たま被弾するけど、シーシャが即回復を入れてる。


「『マル=ティル=トウェリア』」


 火力砲台のリッタは言うまでもない。よし、安定してきた。



 安定してきたのは『ルナティックグリーン』も一緒だぞ。

 ターンとキューンはもう攻撃を貰わない。ヘリトゥラは元々レベルが高いから大丈夫。そろそろ外してもいいくらいだ。わたしとズィスラも盾の扱いが上手くなってる。


「『デイアルト』『セーフリームニル』!」


 そしてポリンはなんと言うか凄い。自己回復掛けながら、敵に肉薄してる。格好良いぜ。

 当然負けてられない。


「『バッシュ』!」


 ロード=ヴァイ固有のスキルでカエルを叩き潰してやった。

 良い感じだぞぉ。



 ◇◇◇



 5セットが終わった頃、わたしはレベル48になっていた。


「あと3セットは行こう」


「おう」


 レベル51のターンが、鼻息高く応えてくれた。『ルナティックグリーン』はやる気マンマンだ。


「ここまで来たらとことんやるわ」


 リッタも乗ってきた。そう来なくっちゃ。

 3セットもやれば、全員がレベル50台には乗るよね。そこから深層探索だ。待ってろよ。


「ウィスキィさん、もうちょっとで行けます」


「そうね、その前にお風呂に入ってくれるかな」


 そうだった。

 その後、一部のニンジャ系以外が、交代でお風呂に入った。と言っても、サービスシーンじゃないよ。服着たままだからね。勘違いしないでよねっ。



「いやあ、あそこは最高でした」


「そ、そうなんだ」


「アンタンジュさん、微妙に引いてません?」


「そんなことないよ」


「ほら、アイテムとかも沢山出ましたし、これから55層は熱いですよ。5日でレベル50まで持ってけます」


 そう、5日あればレベル50を作ることができるんだ。これは凄いぞ。

 今まではコンプリートレベルでジョブチェンジが基本だったけど、これからは違う。倍以上のレベル50まで育ててからジョブを変えれば、基礎ステータスがちょっとだけど、乗っかるんだ。ましてや上位ジョブは、経験値が重い代わりにステータスの伸びが良い。イケる、これはイケるぞ。


「あのさあ、サワ。悪い顔はいいから、そろそろ行くよ」


 了解っす。



「日程的に70層は無理でしょうから、せめて60層だけでも踏んでおきましょう」


「要はエルダー・リッチをぶっちめるってことかい」


「もちろんですよ」


 56層に来たところで、3日が経過してる。70層は流石に無理だ。10日は持つ準備はしたけど、地上を心配させるのは申し訳ないしね。


「予定変更した分、59層までのマッピングをしっかりしておきましょう」



 ◇◇◇



 55層にあった昇降機は59層まで繋がってた。いいねいいね。55層でレベリングして、59層でゲートキーパーをぶっ飛ばすって流れが出来上がる。

 大手クランや『世の漆黒』『高貴なる者たち』なら、55層まで来られるかもしれない。となれば、これは大いなる飛躍だよ。ヴィットヴェーンの冒険者が一気に強くなる。


「男湯と女湯、作らないと」


「何言ってるのよ」


「ん? 55層の話。リッタ、もう一個お風呂よろしくね」


「なにそれ」


 リッタのツッコミが心地いい。それくらい気分がアガってるってことだね。



「さて、59層だね」


「おう、負けないぞ」


 ターンも気合が入ってる。なんてったって、あの忌まわしきエルダー・リッチだ。ブチのめすぞ。


「とりあえずマッピングから行きましょう、4パーティで東西南北ってことで」


 パーティが分かれて探索を開始した。エルダー・リッチの影響か、この階層はゾンビが多い。それが逆に探索を楽にしてるね。燃えやすいし、レベルは35相当だし。


「ただ、途中でゼ=ノゥが混じるのはねえ」


 わたしとターン、キューンとポリンの攻撃がほぼ同時に繰り出された。

 うん、レベルが上がってターンとキューンについてける。



「特に怪しい場所は無しか」


「後はゲートキーパーね、やるんでしょ?」


「当然です」


 ウィスキィさんが確認してきた。


「相手は第1次氾濫の元凶です。だけど今のわたしたちなら勝てますよ」


「誰からやるの?」


「それはもちろん『ルナティックグリーン』です。この中で最弱なんですから」


「良く言うわねえ」


「まあ、見ててくださいよ」


 さて、やったるか。



「アタッカーはターンとキューン。ヘリトゥラは後衛、ガードにズィスラ。わたしとポリンは取り巻きを食ってからボスに攻撃」


「おう」


「じゃあやるよ!」


 敵はエルダー・リッチと、取り巻きのゾンビが30体くらいだ。

 これがいっぺんに攻撃判定入るんだから理不尽だよね。


「『BFW・MAG』『BF・INT』」


 ポリンのエンチャントがヘリトゥラを強化する。じゃあわたしは。


「『BFW・SOR』『ラン・タ=オディス』」


 全体の向上と自動回復だ。


「やれ、ヘリトゥラ」


 ターンの指示が飛ぶ。格好良いぜ。


「『活性化』『克己』『芳蕗』……『バドヴ』」


 レベルとINTを上げたヘリトゥラの致死魔法が飛んだ。一撃死は8割ってとこだ。そこにわたしと、ポリンが切り込む。


「『BF・STR』『BF・STR』『BF・AGI』『BF・AGI』」


 ヘリトゥラのエンチャントがターンとキューンに降り注いだ。


「やるぞキューン」


「うん!」


「『ハイニンポー:ハイセンス』」



 超速でもってキューンがエルダー・リッチを切りつけた。当然相手は『ショートテレポート』で回避する。だけどそこにはターンがいるんだよねえ。

 視線と挙動を追って、到達地点を予測したんだ。


「『イガニンポー:影縫い』」


 たった数秒を稼ぐ、それだけのスキルだ。だけどそれで十分。


「おおああ『シュバルツ』!」


「『セーフリームニル』!!」


 わたしの斬撃と、ポリンの打撃が炸裂した。

 それはエルダー・リッチ『ノーライフ』を突き破り、致命傷に到達する。


「キューン、ターン。ゾンビの掃討」


「おう」


 どうだよ。わたしたち『ルナティックグリーン』はエルダー・リッチに完勝してみせたぞ!



「やったわね」


 扉の向こう側で、ウィスキィさんが祝福してくれた。他のメンバーもだ。

 ゲートキーパー部屋は、わたしたちが居なくなるまで入れないんだよね。見物はできるんだけどさ。


「サワ、これ」


「『死霊のサーベル』だね」


 ポリンが手渡してくれたのは片手剣だ。うん、いいねえ。誰に使ってもらおうかな。


「サワ、あれ」


「どしたのキューン」


 キューンが指さした先には60層への階段と、ひとつの扉があった。

 ゲートキーパー部屋にそんなものは、普通ない。だけどわたしは知ってる。これは多分、アレだ。


「どうしたんだ、サワ」


「多分大丈夫です。わたしたちがあの部屋に入ったら、ゲートキーパーがリポップすると思うので、後に続いてください」


「本当かい?」


「ええ。じゃあ先に行きますね」



 言い残して扉に向かう。一応警戒しながら開けてみた。


「やっぱり居た」


「敵か?」


「大丈夫、ターン」


 部屋に居たのは灰色のローブを目深に被った人物だ。年齢も性別もはっきりしない。だけどわたしはこの人物を知っている。


「ガル・ハスター」


『マピマハロ・ディマ・ロマト』



 次の瞬間、わたしたち『ルナティックグリーン』は地上にいた。


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