第190話 最強のゼロ





「ソルジャーとメイジは、まあ省略しましょう」


「理由は?」


「貴族の誇りが拒否するって聞いてますけど」


「いまさらだ。やるぞ」


 こっちこそいまさらだよ。なんだその偉そうな態度は。

 ベンターさんとヘックスさんをレベル40までもっていった夜、協会事務所の会議室で今後の打ち合わせが行われてる。


 こちら側の参加者は『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』『ライブヴァーミリオン』、加えてハーティさんと会長だ。

 なんでこんなメンバーかって言えば、明日から『ライブヴァーミリオン』が外れて、最強3パーティでレベリングすることにしたからだね。『ライブヴァーミリオン』はお勉強のためにここにいる。



「ではお言葉に甘えて」


 甘えてるのはそっちだろうけど、まあそう言っておく。


「順序はどうとして、取るジョブは決まっています」


「ほう?」


「前衛後衛共通なのはソルジャー、メイジ、ウォリアー、パワーウォリアー、シーフ、カラテカ、プリースト、ウィザード、ハイウィザード」


「9ジョブ、か」


「いえいえ、前衛はそれに加えて、ファイター、ソードマスター、グラップラーが欲しいですね。あと2人に1人はエンチャンターも。最後はガーディアンかホーリーナイト、ユーグ、ホワイトロード、ロード=ヴァイのどれかでしょうか」


「……ならば後衛は」


 聞いたことのないジョブが混じっていたようで、ベースキュルトの顔が歪んだ。


「全員がエンチャンター、ビショップ、モンク、そしてエルダーウィザード」


「エルダーウィザードが全員だと!?」


 流石に椅子を倒して立ち上がっちゃった。どうでもいいから話を続けよう。


「ソルジャー、メイジ、カラテカ、ファイター、エンチャンター、ビショップ、モンクはコンプリートレベルで十分です。他はレベル40くらいでジョブチェンジしたいですね」



「ベンター」


「なんでありましょう!」


 ベースキュルトがベンターさんを指名した。


「貴様のジョブ遍歴は?」


「はっ、ソルジャーとメイジはコンプリート。ウォリアー、パワーウォリアー、シーフ、カラテカ、グラップラーは全てレベル50台です。昨日プリーストが40となりました」


「話が違うではないか」


 こっちを睨んでも知らないよ。初回特典だと思って。


「生贄にされたんですから、それくらいの恩恵がありませんと。それにわたしたちも忙しいのです。あまりこの件で時間を使いたくありません」


「私はブルフファント侯爵令息だぞ」


「こっちは現役の筆頭子爵です。ほれ、抗命権」


「……」


 ざまあ。



「それに明日から投入する『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』は『訳あり令嬢たちの集い』でも最強の3パーティです。普通なら金銭などでは靡きませんよ」


 とはいってもわたしとターン、キューンは第5王子のレベリングだけどね。


「仕方あるまい」


「では明日、迷宮前で。ベンターさんとヘックスさんはエンチャンター。ベースキュルト卿はそのままホワイトロード、それ以外の方もレベル40まで引っ張ります」



 ◇◇◇



「ではみなさん、気合入れて見てください。いいですか、手出し無用です。ですけど見てください。それが目的だと心がけてください」


 ベースキュルト組が55層で戦闘参加なんかできるわけない。だけど見ることくらいはできる。

 どれくらい自分たちが目で追いきれなくって、未熟で無力か思い知るだろう。だけどそれでいい。


 レベリング対象が28人で、こっちは15人。背負子レベリングはできないけど、2人から3人パーティを組める。そのあたりはリッタが調整してくれる。なんの心配も要らないね。



「じゃあこっちも始めますか」


「どこかでかちあいそうだね」


「そのための変装じゃないですか」


 第5王子は髪の色を変えた挙句、メガネをかけて髭を剃った。普段は付け髭で過ごすそうな。

 カクラーさんとスケルタンさんも髪色を変えて、逆に付け髭をしてる。さらに、さらにさらに。


「宝物だからね」


「あ、ありがとうございます」


 キューンから『シャドウ・ザ・レッド』、ポリンから『シャドウ・ザ・グリーン』をそれぞれ貸し出されたのだ。怪しさ爆発。



「わたしたちまで55層だと渋滞は目に見えてます。なので『ライブヴァーミリオン』は56から57層、わたしたちは58から59層が担当です」


「大丈夫なのかい?」


「そのための防具ですよ」


 第5王子たち3人は『訳あり』謹製の革鎧だ。あえて色を茶色にして、そこらの防具と似たような雰囲気にしてある。

 もしかしたらダメージもらうかもだけど、今の彼らなら大丈夫、のはずだ。もしくらったら、即治すだけのコト。


「では行きますよ」


 本日の彼らはシーフだ。さあ、今日中にレベル50台までいけるかな。



「4セットで全員レベル40を超えたわ」


 その日の夜は当然ミーティングだ。総合プロデューサーのリッタが端的に述べた。

 流石は55層、レベリング効率はバツグンだ。できればみんなでシェアしたいね。


「だけどね」


「どうしたの?」


「戦闘に参加したがるの。『痛くなければ強くなれないって』」


「……死なない程度にやらせてあげて」


 中々見上げた根性じゃないか。間違っちゃいないよ、それ。

 時間を無駄にしない程度で頑張ってくださいな。


「『クリムゾンティアーズ』にはごめんなさい」


 ちなみに『クリムゾンティアーズ』は50層から54層を担当してる。


「お貴族様なんてごめんだよ」


 アンタンジュさんの談だけど、ウチにはそのお貴族様が結構いるんだよねえ。

 ほら、そこでセリアンズを撫でくりまわしてる王位継承者4人とか。



 ◇◇◇



「レベル0!?」


 カクラーさん、もうカクさんでいいや、その彼が驚いていた。


「ええ、わたしたちだってジョブチェンジくらいしますよ」


「ですが、レベリング中ですよね」


 スケルタンさん、スケさんでいいね、彼も問いただす。


「わたしたちもレベリング中です」


 そう言うわたしはエインヘリヤル、ターンとキューンはラマだ。ジョブがラマの時は革鎧の上から、特別に薄いマントみたいなラマ服を装備してるよ。それが彼女たちの近接武器だし。

 キューンはモンク系3次ジョブ網羅だね。ふふふ、どうするのかな。


「それはそうだが、ステータスは大丈夫なのかい?」


「ご安心ください、ポリィさん」


 そこでわたしは、久々にステータスカードを取り出した。


 ==================

  JOB:EINHERJAR

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :662


  VIT:205

  STR:270

  AGI:198

  DEX:267

  INT:127

  WIS:131

  MIN:61

  LEA:17

 ==================


「これなら大丈夫ですよね」


 大丈夫どころか、前衛基礎ステータスが普通に200を超えてる。これがジョブチェンジの力だ。はっきり言って、高レベルのエルダーウィザードくらいにしか負ける要素がない。

 ああ、読みにくいかもしれないけど、エインヘイヤルだよ。


「むふん」


 ズパット擬音を立てるかのように、ターンもステータスカードを差し出した。


 ==================

  JOB:LAMA

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :649


  VIT:211

  STR:278

  AGI:222

  DEX:252

  INT:78

  WIS:129

  MIN:66

  LEA:19

 ==================


 あれ、INTとDEXで勝ってるけど、AGIヤバくない?

 これってわたし、ターンに絶対勝てないんだけど。しかもターンは、ここからラマとエルダーウィザードだ。普通にWISも負けるぞ。あがががが。


「INTも上げるぞ」


 ふんすと鼻を鳴らすターンに恐怖を覚えた。



「はい」


 気を取り直してキューンだ。気持ちはわかる。自慢したいもんね。


 ==================

  JOB:LAMA

  LV :0

  CON:NORMAL


  HP :534


  VIT:144

  STR:183

  AGI:128

  DEX:193

  INT:114

  WIS:107

  MIN:39

  LEA:16

 ==================


 INT凄え。ターン超えてるじゃん。エルダーウィザードを80台まで引っ張ったもんね。

 キューンは後から来たから、結構早い段階でレベル50ジョブチェンジを実践してる。その結果がこれだ。いやあ、ひたひたと後ろから足音が聞こえるよ。



「ポリィさんのステーテス、見せてもえますか」


「あ、ああ。君たちの後だと気がひけるね」


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :40

  CON:NORMAL


  HP :104+154


  VIT:57+24

  STR:69

  AGI:32+106

  DEX:37+91

  INT:25+53

  WIS:22

  MIN:18

  LEA:15

 ==================


「十分じゃないですか」


「そ、そうかい?」


 AGIが100を超えてるなら、戦闘も見えるだろう。ちゃんと目に焼き付けてくださいね。


「ええ。ここからガンガン上げていきますよ。覚悟はいいですね」


「ああ、任せるよ」



 確かにわたしたちはレベル0だ。だけどそれは、レベル50相当のレベル0なんだ。

 これが『ルナティックグリーン』。これが『訳あり令嬢たちの集い』ってわけさ。どうだ、まいったか。まあ、全員とは言わないけどさ。


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