第2話 俺やっぱりぼっちなのね。

 そりゃ俺だってそういう分野では負けてない。うちはブラックじゃないから、土曜日曜に祭日はほぼ休み。その間は、どっぷりMMOにINしてるもんね。


 だから『魔法』というキーワードに、反応しないわけにはいかない。それでも、気にしないふりをする必要が、あるとは思っていたんだよ。なにせこの女性がさ、『勇者は三人と聞いてる』って、不穏なことを言ってたからさ。


「まずは口に出して『個人情報表示』と唱えてください。あなた方の視界にだけ、現在の情報が表示されることでしょう」

「『個人情報表示』」

「『個人情報表示』」

「『個人情報表示』」


 三人は素直に唱えるんだね。恐る恐る、一拍遅れて俺も続いてみた。


「『個人情報表示』」


 おー確かに、ゲームのステータス画面っぽいのが、簡易的に表示されてる。あちら側が透けてるように見えるから、AR拡張現実みたいな感じかな? でもなんで『ステータス』とか、『ステータス表示』じゃないんだ? あぁでも、『個人情報セルフステータス』か、あながち間違ってはいないかもね。


「その情報にですね。属性というらんがあると思います。その属性とは、魔法の属性のことです。『勇者様』には、そこに『光属性』、『聖属性』のどちらかがあるかと思うのですが、ご確認願えますか?」

「はい。ありますね」

「はい、ワタシにもあります」

「ですねー。麻夜にもありますよ」


 え゛? ……俺にはないんですけど? ということは俺やっぱり、勇者様じゃないとか?


 空間くうかん属性? あと、回復属性ってのがあるな。どこを見ても探しても、光属性も聖属性もないんだ。俺、勇者じゃない、確・定!


「ではこちら、広げた手の形になっていますよね? この形に合わせて、手を置いていただけますか?」


 この女性は、三人のところへその板を持っていく。各自受け取って、手のひらを合わせてる。それを女性が横から見て、何かに記入してる感じかな?


「こう、ですか? あ、光、火、水、風、地の五つ出てる。全部レベルは1ですか?」

「次はワタシ。 聖、あとは朝ちゃんと一緒? レベル? 同じかも。1と出てますね」

「麻夜はね、聖、あとは朝也くんと同じかな? レベルもたぶんいっしょ? 1って出てるね」


 朝也、麻昼、麻夜の若い三人を見て、女性は安堵の表情を見せる。でもおかしくないか? だってさっき、『個人情報表示』で確認したんじゃないのか? わざわざあれで確認する必要ってあるのかよ?


 付き添いの男性が、ベッドに寝てた俺の前に、そのタブレットもどきをもってくるんだけど。俺もやれって言ってる? 言ってるね、間違いなく。いや、これさ、俺が勇者じゃないのを確認しようとしてないか? 何気に酷くないかい?


 仕方なく俺は手を置いた――って、おい? 属性やらだけじゃなく、年齢、名前に至るまで、表示されるじゃないか? もちろん、男性が俺の情報を横から覗いて何かに書き写してるし。


「個人情報、ダダ漏れじゃないかっ!」

「ぷぷ」

「あはっ」

「あははは」


 三人とも、俺が言ってる意味わかってるっぽいね。これってスキミングの一種じゃないのか? もしかして。


「はいはい。空間くうかん属性、でいいのかな?」

「はい、間違いありません」

「そうなんだ。その空間属性が1、あとは、回復属性が1? 以上、かな? 光属性も聖属性も、見当たらないけど?」

「こちらのお三方が勇者様で、あなたは」

「俺は?」

「も、」

「も?」

「申し訳ございませんっ。我々はあなたを、巻き込んでしまったようです」


 やっぱりかー。麻夜ちゃんだけは、状況がわかってるみたいだ。多分そんなアニメを見てるんだろうな。


「わかっちゃいましたが、そうだったんですねー。あ、ところで、俺勇者じゃないんでしたら、帰してもらえますか? 仕事あるんで。冷蔵庫に、銀座の某店限定スィーツあるから、酒の肴にしながら、MMO週末イベントやるつもりだったんで」

「……いえ、そのっ」


 あ、この女性。顔が青ざめてる。もしかして、ここまでテンプレだったりするのか?


「テンプレ?」


 あのね、麻夜ちゃん。思っていても口に出さないのが、お約束というものなんだから。


「麻夜ちゃん、テンプレってなに?」

「んっとね、テンプレートの略でね、よくあるパターンのことを言うんだよね。ここで言うテンプレは多分、『元の世界に帰れない』もしくは、『元の世界の麻夜たちは、死んじゃったかなんかして』。どっちにしてもあっちにはもう、戻れないのかもしれないね。てやんでいこんちくしょう、ってやつよきっと」

「麻夜ちゃん、説明ありがと。そかそか、なるほどねー」


 はい。その通りです。案外ポジティブな考えができるんだね。


「そっか……」

「帰れないのか……」


 麻昼ちゃんと、朝也くん。落ち込んでる。麻夜ちゃんは、何やら前向き、二人のために強がり言ってるのかもだけど。


「あのですね。皆さまを送還できる方法を見つけ出せるよう、努力することをお約束いたします。いつ、とお約束はできかねてしまうのは、申し訳ないところでございます」

「ところで、彼女たちを召喚したのは、どういう理由なんですか?」


 大人の俺が代表して聞くしかないんだよな?


「はい、実はですね。現在この世界は『悪素おそ』という『生きた呪いのような害悪』に浸食されようとしています。その原因を探り、共に解決していただけるよう、光属性と、聖属性を持つ勇者様を探し、召喚させていただいたのは事実でございます」

「こうなってしまっては、仕方ないんだろう。どちらにしても、ね」


 麻昼ちゃん、麻夜ちゃんを見て、朝也くんは自分をも納得させるように言うんだ。男の子だね、やっぱり。


「勇者様方は、これより国王陛下、王妃殿下、王女殿下との謁見がございます。そちらで改めてお話があるかと思います。ですが今ここで私が、簡単な説明をさせていただきますね」


 忘れ去られる前に質問せねば。


「あ、あの」

「はい。なんでしょう?」

「空間属性と、回復属性ってなんですか?」

「はい。空間属性とはいわゆる『空間魔法』のことですね。術師の内側に、特殊な空間を作り出して、そこに物を保持、保管することができる魔法になります。回復属性は、文字通り、回復魔法の属性でございます」

「それって、重要なものじゃないんですか?」

「そうでもありません」


 うげっ、あっさり否定された?


「空間属性は、百人にひとりの割合で、持つ者がいるとされています。物を持たずに運べるという利点から、そのほとんどの人が商人になりますね。回復属性につきましては、王女殿下を始め、神官、巫女の一部が使える魔法、回復魔法を使うことができます。それ故に、それほど珍しいものでは、ないんです」

「あらら……、それで、『勇者じゃない』ことがほぼほぼ確定している俺は、今後どうしたらいいんでしょう?」


 墓穴というか、核心に迫るというか、放っておかれたら悲しいからね。まじで。身の振り方を考えておくのは、社会人として当たり前でしょう? そうだよね?


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