第250話 なんとやっぱり。

 ジャグさんが手を上げてる。こうして発言権を移さないと、収拾が付かないからこうすることにしたんだよね。ということで、はいどうぞ。というかたちで手を差し伸べる。


「なるほど。師匠が使われる蘇生呪文は、その状態によって消費する魔素が変動するということでしょうか?」


 これは結果的にその分の魔素が消費される感じだと思うんだ。


「うん。『リザレクト蘇生呪文』だけじゃなく他の呪文も、基本的な魔素の消費量はある程度決まっているんでしょうけど、それってときにそういうことも起こりえる。俺はそう思うんです。今ね、これまでに亡くなってどこかにいってしまった女性たちを探ってもらっています。もし彼女らが見つかって、もしかしたら蘇生できるかもしれない。どれだけ前に亡くなったかはわからないけど、やってみないとそれこそわかんない。だからやってみても、無駄じゃないと思ったんです」


 骨だけでも、灰だけでも残っていたら試せるんだ。ベルベさんとネータさんに、ある程度の情報を入手してもらえたら、あとは監禁していたヤツを締め上げて、白状させたらいいだけのこと。


「……ところで、タツマ様は、……お幾つなのです?」

「えっとまだ三十一、だったはず?」


 マリアジェーヌ公女殿下が、隣りに座ってる麻夜ちゃんに質問してる。


 麻夜ちゃんってばを見て、首を傾げて質問してくる。同じようにして公女殿下も見てくるんだ。だから俺は二人にわかるようにして頷いたんだ。


「……そのように、まだ、幼子おさなごとも言える、お年だというのに、すでに回復属性を、極められて、いらっしゃる? 本当にそうなの、ですか?」


 ゆっくりはっきり、それでも長く話していらっしゃる。キラキラした眼差しで、かなり興味津々な表情だし。


 あーそっか。俺たちは魔族の人からみたら、お子ちゃまなんだっけ? ジャグさんとこの、メアリアータちゃんと同じような感じかな? うん多分同じ扱い受けてると思うわ。


 あちょっと待って。三十一の俺を『幼子』と呼ぶってことはさ、マイラ陛下やロザリエールさんレベルじゃなくて、もしかしてジャグさんと同じようなお年だったり?


 てことは俺たち、スーパー小学生みたいなものか? まいったなもう……。


 で、マリアジェーヌ公女殿下のお年を聞いて納得したいけど、怖くて聞けない。ロザリエールさんいたら、絶対に怒られるからさ。


 見た感じいかにも『公女殿下』という落ち着いた女性で、年齢的には二十代?


「そうなんです。うちの兄さん麻夜よりかなりおかしいので」


 ちょっと待って、おかしいってそれ言い過ぎ。麻夜ちゃんより、ってことは麻夜ちゃんも多少そういうカテゴライズだって思ってる? もしかして?


「……そうそれで、これほど見事に、悪素毒を、治療できたという、わけなのですね?」

「麻夜もですね、最初は驚いたんですよ」


 いつの間に仲良くなってるのよ? マイラ陛下のときもそうだったけど、どんだけ麻夜ちゃん、コミュ力高いんだか。俺と同じぼっち気質だって、聞いてたんだけどなぁ……。


 ちょっと気になってプライヴィア母さんを見ると、『まだみたいだね』という感じに苦笑するような笑みを浮かべて頭を振ってる。あちらから匂いが動いていない。状況の変化があったわけじゃないってことね。


「あ、そうそう兄さん」

「ん? どしたの?」


 マリアジェーヌ公女殿下と仲よさそうに、ガールズトークを楽しんでいた風な麻夜ちゃんが俺に話を振るわけ。


「あのねあのね」

「うん?」

「公女殿下さんね、マイラヴィルナお姉さんの駄目なパターンなんだってばさ」

「何それ?」


 公女殿下が下向いてる。セントレナとかプライヴィア母さんみたいに明後日の方向じゃなく、下向いちゃうパターンかな?


「あのね、公女殿下さんね」

「うん」

「……あの、実は、聖属性と、回復属性を、持っている、のです」

「え?」

「そそそ。聖属性のレベルがね、なんと3なのよ3。マイラヴィルナお姉さんもそうだったけど、ほんっと驚いちゃった」


 麻夜ちゃんの『鑑定』では、聖属性はレベル3、回復属性はレベル2とのこと。麻夜ちゃんは聖属性レベル4だからちょっと低い?


 いやそれでも、レベル3って普通は上がらないはず。麻夜ちゃんが言うには、聖属性は上がりにくいって話だし。


 ジャグさんだってつい最近、俺が上がりやすい方法教えてレベル3になったばかり。まぁ、聖属性よりは上がりやすいのかもしれないけどさ。死にそうになりながら、ギリギリ回復属性魔法で命を繋いだパターンか。確かにマイラヴィルナ陛下の上位バージョンだわ。


 さておき、俺が治しちゃったから今はもうわからないけど、なんでも背中までびっしり真っ黒け。それでも痛みを自力で誤魔化しながらなんとかしてきた。誘拐されている間も、一緒にいた女性たちの痛みを取り除いてあげてたらしい。


 うん、確かにマイラ陛下よりもさらにの駄目なパターン。言い得て妙だね。


「やっぱりあれかな? 同じ聖属性持っていてもさ、麻夜ちゃんより効果が高いとか? その分、悪素から受けるノックバックも大きいとか?」

「……あの、です、ね」


 あれ? いつの間にか、さっきの公女殿下じゃなく、最初に出会った公女殿下に戻ってる気がする。


「駄目でしょ兄さん。さっきの公女殿下さんはたまたま。普段はね、対人恐怖症レベルでガチの人見知りなぼっちさんなんだから」

「……まじですか?」

「まじのまじまじ。でも兄さんの魔法には興味があったんだと思うのよ。だからさっきみたいにね」

「あぁ、そういうことか」

「それなのにものすっごく無理をして、エンズガルドもそうだけど、付き合いのある国に浄化活動を兼ねた交易までしてたんだもの。だから兄さんと話すときはほら、声を絞り出すみたいにしてるでしょ?」

「うん。確かに。なんか悪いことしてるみたな気持ちになってきたよ」

「野菜はヤツらにかすめ取られてたけど、麦だけはお気に召さなかったんだって。だからね、沢山収穫できる麦をね、買ってもらう代わりに浄化をしてた。そういうわけなのね」

「あー、なるほど。そうしないと、国の運営が、……か。だからエンズガルドも、お得意さんだったわけですね」

「そう。でも、今年は公女殿下さんの体調が悪かったんだって。痛みが強くなってきていて、結局はほら。マイラヴィルナお姉さんの悪いパターンに陥っちゃったというわけ。とにかく麻夜と兄さんがなんとかするから。もう少しだけ我慢していてくださいね?」


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