第251話 え? そうだったの?

 麻夜ちゃんはプライヴィア母さんを見て『あ、お母さんもいるんだった。こういう場面だとすっごく助かるよねん』って言うし。プライヴィア母さんは麻夜ちゃんに手を振ってる。なんだか機嫌良さそう。


「……いえ、その。助けて、いただいた、のは、私たち、ですので」


 そう、絞り出すようにマリアジェーヌ公女殿下は言うんだ。


「いいのいいの。麻夜は兄さんさらったあいつらが許せなかっただけ。麻夜はあいつらをぶっ潰すことは考えてたけどさ、公女殿下さんを助けることになったのはね、その後。だからついでよついで」

ひどい言い方するなぁ」

「だって麻夜が助けたわけじゃないんだもん」


 はっきり言うよね。そりゃ確かに、俺たちは陽動で暴れてただけ。実際助け出したのは、ジルビエッタさんたち救助部隊だし。ベルベさんとネータさんは手助けしただけって思ってるだろうし。花を持たせるわけじゃないけど、俺と麻夜ちゃんがそうお願いしたからね。


「……いえ、その。麻夜様。私たちは、麻夜様と、タツマ様に、助けて、いただいた、のです」

「ちょっとまってうわ、まじですかー」

「うんうんうんうん。まじなのよー」


 公女殿下が、俺たちを『~様』だもの。そりゃ、国の規模的にはここアールヘイヴ公国のが大きい。暮らしている皆さんも多いはず。


 ただ単純な国力? 戦闘力で言うなら、エンズガルド王国うちなのかもだけど。そういう意味で公女殿下は、俺たちをそう呼んでたわけじゃないような気がするんだ。


「何で公女殿下さんが麻夜たちをそう呼ぶか、わかる? 兄さん」

「うん? いやーな予感がビシバシ来るんだけど?」


 俺たちが今回の作戦を指揮したから? それとも俺と麻夜ちゃん、ジャグさんが悪素毒を治療してるから? でもやっぱり、『あれ』、だよなぁ……。


「当たり。兄さんは『聖人様』。麻夜は兄さんの妹。だからだよん」


 うわ、やっぱりそっちかいな……。


「うっそ。でもそれを言うなら麻夜ちゃんは『聖女様』じゃないのさ?」

「いやいやいや、実績と名声から言っても『竜の聖女様』な公女殿下さんには敵いませんって。それに麻夜ってば、公女殿下さんやマイラヴィルナお姉さんみたいに魔法の効果強くないもん」


 それは聖属性魔法の効果のことでしょ? レベルは麻夜ちゃんのが上じゃないのさ? いったい何を競い合おうっていうのさ? 麻夜ちゃん。


「それならほらほら。ジャグさんだって悪素毒治療できるようになったんだよ? それならやっぱしジャグさんも、聖人様って呼ばれなきゃおかしいんじゃないかな? 俺の弟子なんだし、そうだよね?」


 うん。俺ばっかりそう言われるのはいくない。ジャグさんも巻き込むべきだって。それが弟子の役割ってもんでしょ?


「あのね、兄さん」

「うん?」

「ジャグさんね、今後はそのうち『竜の聖人様』って呼ばれるみたいだよん」


 麻夜ちゃんはジャグさんをちらっと見るんだ。それで口元を手のひらで押さえて『うぷぷぷ』状態。


「うわ、まじですかー。なんともジャグさんお気の毒、なむなむ」


 俺がジャグさんに向かって手を合わせたら、『呼びました?』みたいな表情してるし。


「だってジャグさん、『聖人様』な兄さんのお弟子様だもんねー」

「……えぇ、そういうものなの? こっちでも。でもそれ知ったら、ジャグさんドン引きするかもよ? あ、いや、ジャグさんの奥さんが、か。痩せただけで、不法侵入扱いしてたくらいだし。いやそもそも、『聖人様その』ネタ、ここの人も知ってるの?」


 ジャグさんの奥さん『誰ですか? あなた?』みたいに、マジ顔で疑ってたもんな。


「そりゃそうでしょ。噂くらいは流れていてもおかしくないよ。天人族あいつらだって、兄さんのこと危険視してたくらいだもん」

「確かにそうかも。俺、それが理由で誘拐されたんだっけ……」


 いやでもその『聖人様』な話、俺、ジャグさんに言ってないよ? ってことは麻夜ちゃん、公女殿下に話したな? ネタにしちゃってくれてまったくもう……。


「馬鹿だよねー。兄さん誘拐しちゃうなんて、それがあいつらの、破滅の序章だったなんてね」

「それじゃ俺、魔王みたいじゃないのさ……」

「魔王のが可愛いような気がするって、ロザリエールさんが言ってたような?」

「あのねぇ……」

「ところでねぇねぇ、聖人様な兄さん」

「なんだねにぃにぃ、聖女様な麻夜ちゃん? 何をどうしたって言うのかな?」

「それじゃ『お兄さん聖女様な麻夜』って意味じゃないのさ?」

「麻夜ちゃんだって、『お姉さん聖人様な』って意味になってるってば」

「本当に、仲がいいね。君たちは」


 呆れるようにツッコミを入れるプライヴィア母さん。麻夜ちゃんの隣りに居るマリアジェーヌ公女殿下も、こくこくと頷いてるし。


「そうじゃなくて」

「うん」

「あそこにいるジャグさんのさ、姪御さんだっけ?」

「あー、うん。姪御さんだね。確か名前はメアリエータ、ちゃん? いや、年齢わかんないからさん、なのかな?」


 そうなんだよね。姪御さんとはいえ、ジャグさんがほら179歳じゃない? かなり若そうには見えたけど、実はまた俺よりも年上だったりするわけだから。


「とりあえず兄さんその、メアリエータちゃんさんの年齢はこっちに置いといて」


 ちゃんさんってあのね。パントマイムみたいな、まるで何かを持ち上げてとなりへ置く仕草をする麻夜ちゃん。案外うまいのね。


「うん。置いといて」

「兄さん、新記録更新したんだよね? 『リザレクト蘇生呪文』のさ」

「うん。三ヶ月。俺も驚いたよ、だからほら。ベルベさんたちに調査してもらってるんじゃない?」

「うん。それを踏まえてなんだけどさ、兄さん」

「うん」

「麻夜が使ってる魔法って、魔素の消費量が決まってるものがほとんどなのよ」

「うん。俺もそれはわかってたよ。『リザレクト』は10だもの」


 『パルス脈動式補助呪文』で繰り返されてる消費量は、今も変わんないし。


「それってさ、多分だけど麻夜たちだけだと思うのよ」

「どゆこと?」

「前にマイラヴィルナお姉さんにも聞いたんだけどね」

「うん」

「『個人情報表示』ではね、そこまでわかんないんだって」

「え? なにそれ?」

「そもそも、体内に有する魔素の総量が数値化されてるのは、麻夜と兄さん、麻昼ちゃんと朝也くんだけかもってこと」


 麻夜ちゃんの隣で、公女殿下がうんうん。振り向いてプライヴィア母さん見たら苦笑したような表情で頷いてる。


 うわ、まじですかー。



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