第252話 麻夜ちゃんと公女殿下ってさ。その1

「これってさ、何故かとかは置いといてね」


 麻夜ちゃんはまた『置いといて』の仕草。


「レベルが上がっても消費量は変わんなかったからさ、おそらくは通常の状態で行使される魔法に関して言えばね、麻夜と公女殿下さんも、兄さんとジャグさんも、消費量は変わらないはずなのよ」

「んっと、俺が使う『デトキシ解毒』も、ジャグさんが使う『デトキシ』も、魔素の消費量は同じかもしれないって言いたいの?」

「そそそ。それを踏まえてまた『置いといて』ね。麻夜たちが知ってる水の沸点とかあるじゃない?」


 また『置いといて』、ね?


「うん」

「それってさ、高度や湿度みたいな、ある程度の条件下ではさ、同じになるわけじゃない?」

「そだね」


 そう学校で教わったし、理科の実験で体験してるからちゃんと覚えてる。


「それって誰が決めたんだろう?」


 え? あ、ちょ、誰が? んー……。


「そういう『お約束システム』の上に成り立ってるから、としか言えないんだよね」

「じゃぁさ、これまでのことを踏まえてだよ? 兄さん」

「うん」

「あっちの世界はわかんないけどさ。こっちの世界って、死んだ人の魂って、なぜすぐに散らないんだろうね?」


 魂? 散らない? え?


「え? どゆこと?」

「兄さんがさ、死んでも生き返って、その上記憶まで鮮明に残ってるとかって、魂が肉体から離れてないから、としか思えないわけでしょ? そうは思わない? じゃないと兄さんが生き返ったら、兄さんじゃなくなっちゃわない? 麻夜が死んだときもさ、生き返ったら麻夜だったんだよね? ここにいる麻夜は、ずっと麻夜なわけなのよ」

「あー……。『個人情報謎システム』、か? もしかして?」

「そそそ」


 麻夜ちゃんは、『個人情報謎システム』を構築した人は間違いなくいる。それが神様か、それとも違う存在かは置いといて。


 俺たちがいたあっちの世界も、今いるこっちの世界も。全ての現象は、誰かが構築したシステムの上で成り立ってる。システムがあるから基本的な動きは同じになる。そう言いたいわけなのね。


「だからさ兄さん」

「うん」

「試してみない?」

「何を?」

「お母さんのお母さん」

「え? 母さんのお母さんを『リザレクト蘇生』するってこと?」


 俺と麻夜ちゃんは、プライヴィア母さんを見た。急に話を振られたからか、きょとんとしてる。


「……いやいや、私の母はほら、亡くなってもう30年は経つんだよ。ジャグルートさんの姪御さん、彼女の三ヶ月とはわけが違うと思うんだが?」


 腕組みをして何かを考えてたプライヴィア母さん。でも、残念そうな表情になったんだ。


「あ、そうなのね。30年、……お母さん、変なこと言ってごめんなさい」

「いや、いいんだよ。私にはそれが無理だと説明することができないからね」

「ありがと、お母さん。さておき兄さん」


 まーだ何か考えてるな? 麻夜ちゃん。


「うん?」

「今べるさんたちが探してる、亡くなった龍人族の女性ひとたちは試すんでしょ?」

「うん。そのつもり」

「ならさ、あっちに帰ったら、試さない? もちろん、ロザリエールさんのお母さんたちもね」


 そっか。ロザリエールさんのご両親の居場所ははっきりしてる。黒森人族集落跡地に、まだ眠ってるんだろうね。そう考えたらそうかもしれない。


「……そっか。こっちの世界に『輪廻転生』的なシステムが存在していたとして、誰かに生まれ変わっていない限り、可能性はゼロじゃない」

「そそそ。魂の質量的な保存の法則がない限り、転生させないとこっちの世の理が壊れてしまわないのなら、転生してなければあり得るわけなのね」


 俺が死んですぐ、ほんの数秒かもだけど、俯瞰ふかんで俺自身を見られるわけじゃない。ってことは強制的に魂を切り離されるわけじゃない。


 何らかの条件はあるんだろうけど、ほら。ジャグさんの姪御さん、メアリアータさんがその理由になるはずだ。


「麻夜の『鑑定』があればさ、亡くなってからどれだけ経ってるか、わかると思うのよ」

「そっか。うん、あとはあれだ」

「うん。兄さんの魔素がそれに耐えられるか?」


 俺がメアリアータちゃん? いやさん? どっちにしても彼女を蘇生したときに、ごっそり魔素を持って行かれたけど全部じゃなかったんだよ。亡くなった人の日数に対して、どれだけの魔素が必要か。全部検証しないとわかんないんだ。


 それにほら、魔素が足りなきゃリザレクトかかんないかもだけど、足りない分を俺の生命力で補填できたらどうなるかとか? いや、されちゃって代わりに俺が死んだりとか? うわ、まじでわくわくしてきたぞこれ……。


「そうそう。お母さんから預かったあの『棒』、じゃなくて『聖銀せいぎんの杖』。お、出てきた出てきた」


 麻夜ちゃんの手のひらに、30センチほどの長さがある聖銀ミスリル製の杖が出てきた。この魔道具ありありな世界で、案外地味な杖というかなんというか。魔法少女が変身する前の地味なバージョンな感じにしかみえない。


「これさ、麻夜たちの概念なら『魔法を増幅する杖』だと思うじゃない?」

「うん」


「確かにね、前に魔法の効果が増幅されたのよ。でもね、あ、兄さんちょっと持ってて」


 俺に『聖銀の杖』を麻夜ちゃんは持たせる。すると地面に向かって指先を向けたんだ。


「『エア・バレット風の弾丸』」


 ボスっと小さな音を立てて、雪が覆い被さった地面に丸く穴が開く。直径3センチくらい? これであの殺傷能力は、凄いと思うわけよ。


「はい。ちょうだい」

「うん」


 麻夜ちゃんは杖の先を地面に向けた。まるで昔、テレビドラマで魔女がそうしていたみたいな感じに。なにせ、アニメや漫画みたいないかにもな感じじゃなく、なんの飾りもない棒。ドラムスティックと菜箸を足して2で割ったみたいな、地味な杖だからね。


「『エア・バレット』」

「……あれ?」


 地面の雪に穴が開かない。


「『エア・キャノン風の砲弾』」


 しーん。なにもおきないのであった……。みたいな状態。別に遊んでいるわけじゃないのが麻夜ちゃんの表情からもわかるんだ。


「残念だけどさこれね、射出系の魔法には使えないっぽいのよねん」

「まじですかー。『デトキシ解毒』には使えたから、万能かと思ったのに」

「うん。聖属性か回復属性とか、杖の周りに作用させる系だけっぽい。まじ残念なレアアイテム」


 いやそれでも、かなり使えると思うんだけど。




=== あとがき ===


新作はじめました。

タイトルは『海岸でタコ助けたらスーパーヒーローになっていた。 ~正義の味方活動日記~』です。

https://kakuyomu.jp/works/16818093084234929540

よかったら読んでみてくださいね。

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