第253話 麻夜ちゃんと公女殿下ってさ。その2

「あー、だから今日。使ってなかったわけだ。なんで麻夜ちゃんこれ、出さないのかな? と思ってたんだよ」


 確かに、麻夜ちゃんが持っているのに、あの乱打戦で使わなかったのは今思えば不思議だったような気がする。


「そっそ。お母さんには前に話してたのよね」

「そうだね。麻夜くんには使えるから、そのまま持っていてもいいよと伝えておいたんだ」


 プライヴィア母さんがうんうんしながら。『そうなんだよ』という表情をしてくれた。


「なるほど母さん。そういうことだったんですね」

「これさ、兄さん」

「ん?」

「兄さんの『記録更新』のさ、増幅にならないかな? って思ったのよ」


 効果作用に消費魔素の節約、……だね。


「あ、確かにそれはやってみる価値あるかも」

「でしょでしょ?」

「うん。さっすが麻夜ちゃん」

「えへー」


 確かにこの杖を使って増幅することで、『リザレクト』の限界突破の底上げになるかもしれない。さすが麻夜ちゃん、俺も気づかないことを思いつくのに恐れ入ったよ。


「麻夜くん、……タツマくん」


 プライヴィア母さんのちょっと呆れたような声。


「はい?」

「はい?」

「君たちはとんでもないことを口にしてるって、気がついているのかな?」

「だってイフIFでしかないんだもんね、兄さん」

「そだね。あくまでも可能性論だもんね、麻夜ちゃん」

「でも成功しちゃったらさ」

「ん?」


 麻夜ちゃんがにんまりとした、含み笑いのような表情で俺を見てくるわけ。


「それってもはやあれだよ。聖人様じゃなくて生き神様だってばさ」

「それを麻夜ちゃんが言う?」

「うん。言う。だって麻夜ってば、まだ『聖女様』の入り口だもん」


 ほんの数分だったかもけど、かなり濃い話になった感じがあるよね。


 ジャグさんを見ると、まだ治療を続けてるみたい。俺がやったら一瞬だけど、ジャグさんが任されてるんだから、彼の仕事を取っちゃまずいんだよね。彼に任せるのが一番だと思う。俺の弟子だし、新しい『聖人様』になるんだからね。


 麻夜ちゃんと公女殿下、二人に視線を移すと、何やら楽しそうに内緒話をしてるみたいに見えるんだ。こうしてみるとね、彼女らがあっという間に仲良くなったのに、正直改めて驚いた。そこでふと、思い出したことがあったんだ。


「そういやさ麻夜ちゃん」

「ん? 何? 兄さん」

「麻夜ちゃんのほうがさ、公女殿下よりもレベルは高いわけじゃない?」

「聖属性のレベル? うん、そだね」


 公女殿下も麻夜ちゃんの隣でゆっくりと頷いてる。


「麻夜ちゃんはスイグレーフェンに来たばかりのときはさ」


 俺は麻夜ちゃんを見て頷いた。彼女も頷いたからわかってくれたでしょ。


 『スイグレーフェンに来たばかりのとき』、というのは、こっちの世界に来たって意味ね。


「うん」

「聖属性のレベル1から始めたわけじゃない?」

「あ、そだね」

「でもあっさり公女殿下のレベルを追い越してる。ここまではおっけ?」

「おっけだよん」


 一年とたたずにレベル4になった。けど公女殿下はまだレベル3。


「これってさ、麻夜ちゃんとか俺とか、麻昼ちゃんと朝也くんもそうだけど」

「うん」

「レベルが上がりやすいかもだよね?」

「うん、確かにそうかも」

「ジャグさんを例に挙げるとさ、俺よりも治療した人数は多いはずなんだよ。俺だってスイグレーフェンに来たときはさ」


 あー、俺は麻夜ちゃんのレベル表記より10倍になってるんだ。あっぶね。


「麻夜ちゃんと同じくらい、確か3だったかな? 俺は今のジャグさんと同じくらいだったけど、あっちこっちで治療したから、『あれ』になったんだけどさ」

「カンストね?」

「しーっ。ま、俺たちしかいないから大丈夫だろうけどさ。確かに俺たちの年齢とジャグさんたちの年齢の差を考えると、あり得ないほどにレベルは上がってる。けど、どうなんだろう? レベル3のときの俺と、今のジャグさん。どっちが悪素毒を治療できたんだろう?」


 一人直すのに、あのときの魔素ほとんと使い切ったもんな。


「あ、そういうことね。麻夜はほら、レベルは上だけど、あんなに水を清めたりできないと思う。うんうん確かにあれだ。魔法の出力というか、魔法の効果はマイラヴィルナお姉さんや公女殿下のが上かもしれない。兄さんは『お化け』だから、ジャグさんと比べちゃだめよ?」

「人を『お化け』言わない」

「あ。その兄さんの『お化け』についてなんだけど」

「何を? まぁ今更何を言われても驚かないけどさ」

「兄さんが受けてる経験値、麻夜には見えないけど、カンストしたらさ、受けた経験値の分だけ魔法の効果が上がったり、広がったりとか、……ないよね?」

「まさか、うーん。『個人情報表示謎システム』に、レベルについて何もかかれてないんだよね……」

「まさか、ねぇ?」

「うん。まさかだよねぇ」


 そんなことしてる間に、天人族あちら側の空はしらっと明けてきてる。時間的にもうすぐ夜明けなんだ。


 暗視の薬の効果が切れているけど、辺りの様子は俺にもなんとなく見えてる。けど、俺たちは湖のほとりに下がってきてるから、天人族の町は見えない場所にいるんだよね。


「母さん、どうかな?」


 俺はプライヴィア母さんに確認。腕組みをしながら俺たちの話を聞いていた彼女は、あちらを向いてすぐにこっちへ向き直ったんだ。すると、


「……そうだね。まだ大きな動きはないみたいだよ」


 プライヴィア母さんは虎人族だから、匂いで天人族てきの動きをある程度察知できる。俺からするとチート持ちだったりすいるわけね。


「ありがと、母さん」

「どういたしまして」


 勇み足で調査に出てしまった、俺直属で猫人族のドルチュネータことネータさん。苦笑しながら仕方なく彼女を追った、麻夜ちゃん直属のベルベリーグルことベルベさん。


 二人が戻るまでは待つべきなのかな? ま、動きがあったらプライヴィア母さんが教えてくれる。


「ねーねー兄さん」

「麻夜ちゃん、お姉さんなんだかお兄さんなんだか、わからなくなる呼び方しないの」

「兄さんそれ南国の方言でしょ? もっとわかりにくいってばさ」

「そっか……」

「そんなことで落ち込まないの。それよりさ」

「ん?」


「麻夜のウィルシヲンたん、兄さんのセントレナたん、お母さんのアレシヲンたんたち、走竜さんだけどさ」

「うん」

「ウィルシヲンたんだけ『鑑定』ることができたんだけどね」


 『鑑定』ることができた? それってやっぱり。


「『鑑定スキル』、さっすがチート――」

「それは置いといて、ね? 麻夜はウィルシヲンたんはよく見えるけど、セントレナたんやアレシヲンたん。他の走竜たんたちはね、あまり見えないわけ」


 あ、麻夜ちゃん笑ってない。これちょっと、やらかしたかも。


「……えっと、何が?」

「やっと真面目に聞いてくれた。兄さんほんと、そういうところ、駄目だよ?」

「あ、はい。ごめんなさい」




=== あとがき ===


新作はじめました。

タイトルは『海岸でタコ助けたらスーパーヒーローになっていた。 ~正義の味方活動日記~』です。

https://kakuyomu.jp/works/16818093084234929540

よかったら読んでみてくださいね。

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