第249話 さて、それじゃ。

「はい。驚きました。本当に、ありがとうございます。血色はこの通り、呼吸も戻っています。ですが、意識はまだ」


 システム的には成功したってことだよね? それなら十分おっけーでしょ。


「そっか。成功してよかった。それならついでに、『ディズ・リカバー病治癒』、『リジェネレート再生呪文』、『マナ・リカバー魔素回復呪文』に『フル・リカバー完全回復』、っと。これでどうかな?」

「……師匠。目蓋が今」


 なるほど、これまで生きていなかったから魔素は枯渇していた可能性が高い。だから蘇生は成功しても目を覚ましてくれなかった。となるともしかしたら、『マナ・リカバー』が効いたのかもしれないね。


「うん。動いたね」

「メアリ、メアリエータ、聞こえますか?」

「……ん? ……あ、おじさま? おはようございます」


 まるで今まで寝ていたかのように、身体を起こしたメアリエータという名の少女。おそらく十五歳くらいだろうか? 麻夜ちゃんより少し幼い感じがする。


 メアリエータ『ちゃん』でいいのかな? メアリエータ『さん』なのかな? 年齢わかんないからなー。彼女、状況がわからないからかな、きょとんとしてる。


 そりゃそうだ。ジャグさん泣いちゃってるんだもの。仕方ないなー。うん。仕方ないな。あのベルガイデにやられたのを、自分のせいにしちゃったくらいだもの。うん。仕方ないな。


 それにしても、凄いな『リザレクトこれ』。二、三日までなら余裕でいけるのは知ってたけど、まさかの三ヶ月は新記録じゃない? いや、俺の魔素量が半端ないからか? まさか、通常以上の魔素を消費する場合があって、そのときだけ効果が上がることもある。そうなのかな? でもいやまさかねぇ……。


 その後ジャグさんはメアリエータちゃんを神殿に預けて、安静にするように指示を出した。ジャグさんの従兄妹でもある彼女の親御さんたちをすぐに呼んで、後日事情の説明をするようにセッティング。ここまでほんの五分。すぐに神殿から出てきたんだ。


 いやはや俺なんて比べものにならない切れ者なんだろうなきっと。俺が師匠でいいのかよ、ほんとにさ……?


「師匠、この度はなんと申し上げたらよいのか迷いますが、ありがとうございます」

「いいっていいって。単なる思いつきだったんですってば。それにね、メアリアータちゃん、はさ、この世のシステムがまだ『生きてて良いんだよ』って言ってただけなんですからね?」

「はいっ、とにかく戻りましょう」

「うん。そうしようそうしましょう。これでやれることが増えてしまいましたから、……ね」


 セントレナとダンジェヲンに急いでもらって、俺とジャグさんは、麻夜ちゃんたちの待つ、岩山の頂上へ戻ったんだ。すると最初に迎えてくれたのはプライヴィア母さんだった。


「おぉ、戻ったね。で、どうだったのかな?」


 うん、いつも通り。失敗したなんてこれっぽっちも思ってない表情してるわ。


「はい。母さん。三ヶ月、成功しました」

「おぉおお、それは凄い」

「まぁ、兄さんのことだから、そうなるんだろうねって、お母さんと話してたのよねん」


 麻夜ちゃんとプライヴィア母さんが見合って頷いてるし。


「そうなると、あれ、だね?」

「そうだね母さん。ネータさん、いるよね?」

「はい、ここに」


 すると俺のすぐ前に片膝着いて姿を現す、俺専属で猫人族のドルチュネータさん。やっぱりいたよ。さっすがお庭番か忍者かって勝手に思ってる人。ちなみに麻夜ちゃん専属の、ベルベリーグルさんの実のお姉さんね。


「あのさ、この騒動が終わったらでいいから、さらわれたと言われてる残りの行方不明者を捜して欲しいんだ。もちろん、埋葬されていたらその場所をもね」

「かしこまりました。では、いってまいります」

「いやいやいや今じゃなくて、あー……」


 後日って意味なのに行っちゃったよ……。


「もうしわけございませぬ。姉上ですので諦めていただけたら助かります」


 俺たちの前に現れた弟のベルベリーグルさんが、苦笑しつつごめんなさいをしてくれた。


「べるさんべるさん」

「はい。麻夜様」

「麻夜からもお願い」

「御意にございます」


 そうしてあっという間に姿を消した、うちのあの姉にしてこの弟なんだよね。


 俺たちは、これからのことを打ち合わせを始める。集まったのは俺たちと、ジャグさん。あとはこの作戦に参加してくれている警備部の皆さん。


「えっと。まずはご報告です。ジャグさんの姪御さん。生き返りました」

「「「「「「「「「「……え゛?」」」」」」」」」」」


 ジャグさんを除いた他の皆さんは同じリアクション。久しぶりにドン引きされてる。麻夜ちゃんとプライヴィア母さんは、さもありなんって感じ?


「嫌だな皆さん。俺がそういう魔法使えるの知ってるじゃないですか?」


 ジャグさんが俺の隣で皆さんにお辞儀をしてる。


「おかげさまで、私の姪が目を覚ましました。家族も驚いて唖然としてはいましたが、今は再会を喜んでいると思います。本当にご心配をおかけしました」


 ジャグさんはまるで、姪御さんが長い病を患っていたかのように話してる。そりゃそうだよ。彼にとって、長くて悪い夢だったんだから。


 警備伯のアルビレートさんが手を上げてる。俺は手を差し伸べる感じに、はいどうぞ。


「その、タツマ様がですね、回復属性の魔法を極めているのは、ベルガイデの一件で存じておるのですがその、件の子はですね、三月ほど前に亡くなったと報告を受けているのです」


 あーそれって、周知の事実だったのね。ジャグさんは神殿伯で、その伯爵さんの姪御さんが亡くなったら、葬儀はそれなりになるだろうから。


 まぁ、亡くなって三月経っていた姪御さんが蘇生できちゃったのは、俺だって正直理由わけわかんない。


 そもそもだよ。あっちの世界でも色々と解明できていない摩訶不思議な現象と一緒でさ。俺が使ってる回復属性魔法が『なぜ効くのか』も同じなんだ。


 それってさ、この世のシステムがそう決めてるとしか説明ができないんだよね。


「正直俺も、この回復属性魔法がなぜ効くのか? そんなのわかんないんです。だから今回も、『やってみたらできるんじゃないかな?』って、ただそれだけでした。違っていたのは、あの子を蘇生した際、俺は意識を失ってぶっ倒れたんです。それはいつも消費していたものとは比べものにならないほどの、大量な魔素を使ったのが原因だったみたいなんですよね」


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