第248話 まだ間に合うかもしれない。

 ジャグさんは治療を再開。彼の場合は、何度も何度も『デトキシ解毒』を重ねがけしなきゃならない。俺や麻夜ちゃんみたいに、レベルが上がりやすくはないから、数をこなすしかないんだよ。


 それでも、麻夜ちゃんたちが戻ってくる前に、五人全員の治療を終えることができたんだ。その後俺が『リジェネレート』をかけさせてもらったんだけどね。


 治療をしながらだけど、その間に色々とジャグさんが聞いてくれたんだ。予想通りやっぱり思った通り、根菜や葉菜の毒抜きをさせられてたみたいなんだ。


 なんともまぁ、予想通りというか。それでもそのせいで、衰弱して命を落とした人がいるのは間違いない。ジャグさんが震えているのを宥めるのが俺の仕事だった。


「俺がさ、もう少しここへ早くさらわれていたならって、今更ながら思うこともある――」

「兄さん」

「あ、うん。ごめん。抱えすぎだよね? わかってはいるんだ。でも、攫われて亡くなった人たちも、ジャグさんの姪御さんも。俺がいたら救えたんだよ。だからもっと蜜に、エンズガルドとアールヘイヴで連絡を取り合ってさえいたなら――」


 麻夜ちゃんは俺の頭を彼女の胸元に抱き寄せてぎゅっと抱いてる。とくん、とくん、って彼女の心音が聞こえてくる。


「兄さん。兄さんは神様じゃないんだから。無理言っても仕方がないんだよ」


 なんでも、幽閉されて居る間に、攫われた人が亡くなったというのが、最後が昨年の雪が降る前だったらしい。そんな前じゃ、俺はこっちに来ていないから――


「ごめん。麻夜ちゃん。ありがと。俺、まずいパターンに落ちそうだったわ」

「うん。気をつけようね、兄さん」


 麻夜ちゃんは俺をやっと解放してくれた。ちょっと名残惜しい感はあるけどね。おかげで、思いついたこともあったんだよ。


「そうそう、そうだ。ジャグさん」

「はい。どうしましたか? 師匠」

「ジャグさんの亡くなったのって、姪御さん。いつ?」

「兄さん、日本語おかしい。落ち着いて落ち着いて」

「あー、ごめん。……すぅ、……はぁっ。えっと、ジャグさんの姪御さんは、いつ、亡くなったのかな?」

「はい。今年の雪が降り始めた、あたりになりますかね。かれこれ三月みつきほどになるかと思いますが」

「兄さんっ、雪深くて寒い地域だから」

「うん。麻夜ちゃん。もしかするかも」

「うんうん」

「ジャグさん。アールヘイヴでは、火葬? それとも土葬?」

「地に還ってもらうため、我々は亡くなった者を石棺に寝かせて埋葬しますが?」

「うん。もしかしたら」

「うん。間に合うかも?」

「え? どれはどういうことですか?」

「ジャグさん。姪御さんが埋葬されてるところに、連れて行ってくれる? あー、天人族あっちが動いたりしたら、どうしよう」


 プライヴィア母さんが肩をぽんと叩いてくれる。


「行っておいで。ここは私たちがみているから。もし駄目だったとしても、足止めくらいはできると思うよ。もっとも、すぐに戻ってくれると助かるんだけどね」


 プライヴィア母さんは自信満々な表情でそう言うんだ。やっぱり凄いな、うちの母親はさ。


「わかりました。すぐに戻ります。セントレナ」

『くぅ』

『ぐぅ』

「ダンジェヲン、うん。わかったよ」

「兄さん、麻夜はここでお母さんと待ってるから」

「うん。じゃ、行ってくる。すぐ戻るからね」

「あいあい」


 俺はセントレナに、ジャグさんはダンジェヲンに。そのまま岩山の頂上から、落ちるようにして急降下。時速にしてどれだけ出ていたかは予想もできない。マッハは超えるんじゃね? もしかして?


 予想以上の早さで地上に到着。あれでよく地面に刺さらないと思うよ。


 そのままジャグさんはダンジェヲンに指示をする。俺はセントレナに任せっきりで追尾中してもらってる。


 公都の外れにある墓地。そこでダンジェヲンは足を止めた。


「ジャグさん。ここ、なんだ?」

「はい。メアリエータはここに眠っています。あれ? 師匠。もしかして?」

「うん。ダメ元だから期待しないでほしい。それに亡くなった人の墓を荒らすことになるんだ。んー、まじでごめんね。俺は俺の知識欲のためだけに、こんなにあり得ないことをしようってんだ。こんな騒がしいことになっちゃってほんっとに、ごめんなさい」


 俺は手を合わせて、ごめんなさいをしたんだ。実際、亡くなって三ヶ月経ってる。その間、姪御さんの魂はどこにいたのかわからない。この『リザレクト蘇生呪文』がシステム的にどう動いているのかも俺にはわからない。


 だから、もしかしたら生き返ったりするんじゃないの? 俺の魔素が尽きない限り、ね。試してないからいけるかもしれない。そう思っただけなんだよ。


 ジャグさんがあっち側。俺がこっち側を持って、どっこいしょと石棺の蓋を持ち上げる。するとそこには、綺麗な化粧を施された、龍人族の女の子が眠っていた。極寒の時期だったからか、腐敗も進んでいないようだ。まるで眠っているだけのようにも見えるんだ。


「メアリエータ……。すまないね。墓荒らしのようなことをしてしまって」

「俺が主犯です。ジャグさんはこれっぽっちも悪くありませんから。……さて、これからは俺も初めてなので、どうなるかわかりません。人以外なら、色々な状態から蘇生を試してはいたんですよ。その検証結果からぶっちゃけ、何かが残っていたなら蘇生はできるんです。えっと一応『マナ・リカバー魔素回復呪文』。マナ茶も飲んでおいて、うん。これで準備完了」

「……はい」

「ではいきます。もし駄目なら一緒にごめんなさいして、そっと元の状態に戻してくれたら助かるかな?」

「いいですよ、師匠。ここまできたら、私も同罪です」


 深呼吸。うん。この子の両手の手の甲にそっと触れて。


「『リザレクト蘇生呪文』」


 すると俺の手に魔素が集まって、いつもの色の効果が広がっていく。あ、ちょっとまって。やばい。なんだこれ? あ――


(……知らない天井? じゃなくて床か)


 俺は一瞬意識を失ったっぽい。『個人情報表示謎システム』では生命力に変化はない。それでも魔素の総量が半分以下になってる。久しぶりにここまで減ったから? その反動で倒れたのかもしれないな。


「師匠。何やら具合が悪そうでしたが、大丈夫でしたか?」

「あ、うん。大丈夫。それで、どう?」


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