第247話 さて、どうするかね?
「いやいや、いいんだ。天人族は共通の敵として認識してるし、それにこの子はほら、ちょっとばかり特殊な子だから」
『ぷぷぷ。ほら、お母さんの前で変身ヒーローみたいに「とうっ!」とかやったんでしょ? だからお化け扱いなのですよきっと。ね? お・兄・様』
『わかってるってば。個人的にかなりやらかしてるのは、自覚してるってば』
俺はジャグさんに近寄って『
「師匠、ありがとうございます」
「とにかく続けて続けて」
「はい」
囚われていた女性の一人の治療を再開する。
「麻夜ちゃん、とにかくさ」
「さっき見たからわかってるよ。うん。ほぼほぼ瀕死、ヤバい状態。もう少し悪くなったら、あのときのマイラのお姉さんとどっこいどっこい? 正直よく立っていられると思うかな」
「……え? ワタクシ、……大丈夫、ですが?」
ぎくりという表情。これって知ってるんだ。うちのプライヴィア母さんもたまにやってた。確か、アレシヲンもそうだったよね。
「公女殿下、女同士だから? はいちょっとごめんなさい」
「……え? ど、な、何を、されるのです?」
麻夜ちゃんは服の襟元から覗き込む。ときどき『わぁお』とか言いながら、じっくり見てる。ややあって満足したのか、うんうん頷いてる。
「殿下、ありがとうございます」
「……いいえ、どう、いたしまして?」
麻夜ちゃんは顔の前で腕を交差させる。
「ぶっぶーっ。ざんねーん。あちこち、なんとも、『驚きの黒さ』でした。翼の根元も真っ黒だってばさ。これまでで一番酷い状態。麻夜が見た数字は嘘をつかない。これほんと」
数字というのは麻夜ちゃんが『鑑定』した、悪素毒含有量のパーセンテージなんだろうね。怖いな、それ。
そういえばゆったりとした服装で誤魔化してはいるけど、コンパクトに折りたたんでいる翼がほぼ真っ黒。まるでセントレナのみたい。
「やっぱりね。うん。うちの母さんたちもそうだけどさ。なんでこう、偉い人って我慢するんだろうね?」
「我慢しないで欲望に忠実な人ほど、圧政しまくってるんだけどさ。ほら、ダイオラーデンみたいに」
「うんうん」
俺はジャグさんの隣りに椅子を持ってきて、どっこいしょ。麻夜ちゃんが椅子を持ってきて、俺の隣りに座った。
「ジルビエッタさん、いいかな?」
「はい。マリアジェーヌ殿下、お座りください」
「……いえ、ワタクシは」
腕力はジルビエッタさんのが強いみたいだね。無理矢理座らせちゃった。彼女は『タツマ様、あとはお願いします』みたいな表情。はいはい。承りました、っと。
「失礼でなければ、お手をよろしいですか?」
「……あの、そういえば、さきほど」
「はい」
「……ジャグルートが、あなたのことを、師匠と」
ジャグさんが、俺のことを師匠と呼んでることね?
「えぇそうです。師匠はこの世でただ一人、回復属性魔法を極めております。それを知り、私はその場で弟子にしていただいたのです。その結果、こうして悪素毒治療を始めることができたのです」
「……なんと、そうだったの、ですね」
公女殿下は驚いてる。でも、しゃべり方は変わらない。けっして作っているわけじゃないってことなのね。ロザリエールさんみたいに、驚いたら素が出ちゃうとか、そういうのはないと。うん。疑ってごめんなさい。
俺は右手で公女殿下の右手を預かってる。麻夜ちゃんは、じっと手を『
「麻夜には手に負えません。マイラのお姉さんよりちょっとマシなだけ。袖とかまくったらきっと、肘とかそんなところまで、……んー。もしかしたら、背中あたりまで真っ黒なんじゃないかな?」
すると公女殿下はびくっと跳ねるような反応。そんな感じが俺の手にも伝わってくる。
「麻夜ちゃんが駄目なら俺が治しちゃっていいね?」
「うん。降参です。兄さんに譲ります。あ、公女殿下をじゃないよ? 悪阻の治療を、だからね」
「わかってますって」
麻夜ちゃんは両手をあげてばんざい。ジャグさんは、彼女が神殿で治療をしていたのを知ってる。だからすぐにわかったんだろうね。手を止めてじっと俺の治療が始まるのを見てるんだ。
「えっと『
「……え? え?」
「麻夜ちゃん、ジルビエッタさんと一緒に確認してもらって。確認の箇所は
「かしこまりー」
麻夜ちゃんは立ち上がって敬礼して、公女殿下を連れてジルビエッタさんと一緒に入口が閉まるほうのテントへ。プライヴィア母さんも、公女殿下に話があるからと一緒に行っちゃった。
「
「いつものことですからね。もしかしたら千回を超えたんじゃないかな? というあたりで考えるのをやめました。ひたすら続けてきましたからね。別に大したことはないんです。あ、もちろん皆さん同様、飛べるように治療を施してありはしますけどね。それに俺はほら、『人の治療専門』ですから。水や土地を清めたりするのは苦手なんです。だからこの程度までなんですよね。ま、俺のことはいいから、さっさと続きをやってくれますか?」
ジャグさんにはレベル4を目指してもらってるんだ。一回一回の呪文行使が経験値になってるんだろうから、無駄にしちゃいけないからね。
「は、はい、師匠」
このアールヘイヴで誰もなしえなかった、いや、俺以外この世界でもたどり着けなかったかもしれない。レベル3への領域。目に見えて悪素毒が散らされているこの実感。正直、いまだにジャグさん、信じられないだろうねきっと。
俺たちがマナ茶をかなりの数で持たせてあるから、例の糖質たっぷりカロリーどろーりな
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