第158話 そういや麻夜ちゃんってさ?

 うっは、でっか。プライヴィア母さんより頭1つでかい。興奮してていつもみたいに小さくなってないジャムさん。やっぱりでかいんだわ。


「ジャムリーベルくん」

「は、はいっ」

「タツマくんも、麻夜くんも困ってるから、座ってもらっても構わないんだよ」

「は、はい、申し訳ありません……」


 自分がやや興奮気味だったのに気づいて、恥ずかしそうに座ってちっちゃくなってるジャムさん。


「さて、麻夜くん」

「はーい、お母さん」

「タツマくんと明日も神殿で治療にあたってくれる予定なのかな?」

「そうですねー」

「それなら神殿の後にギルドへ寄ってくれるかな?」

「いえすあいまむっ」


 麻夜ちゃん、敬礼してるし……。プライヴィア母さん、笑ってるよ。出撃前と違って、機嫌良くなってるみたいだね。よかったわ。


「それでは皆もご苦労だった。ゆっくり休んでくれるといいよ。私も、これで失礼させてもらうからね」


 俺と麻夜ちゃん、ロザリエールさん。セントレナとアレシヲンを残して、颯爽と歩いて帰ってしまったプライヴィア母さん。


「あ、兄さん」

「うん、そだね」


 外をみたら、馬車に乗ったみたいだ。アレシヲンもきょとんと俺たちを見て『どうしたらいいのかな?』という感じ。


「兄さん、お先ね。それじゃアレシヲンたん、いこっか?」

『ぐぅ』


 あれれ? 麻夜ちゃんってばなにげに、アレシヲンとコミュニケーションとれてないかい?


「あ、うん。お疲れ様。また明日」

「おやすみなう。ロザリエールさんもおやすみなさい」

「はい。麻夜さんも、お疲れ様でした」


 アレシヲンに飛び乗って、夜の空へ消えていった麻夜ちゃん。ま、彼女もプライヴィア母さんも、帰る家は同じなんだろうけどね。


 俺はそのあと、ジャムさんと少し話してから屋敷に戻ることにしたんだ。気がついたらロザリエールさんがいない。周りの人に聞いたら、屋敷に戻ったみたいっぽい。

 残ってたセントレナに聞いたら、同じように『くぅっ』と返事してたからそうなんだろうね、きっと。


 セントレナの背中の上でスマホ見たらさ、『個人情報表示謎システム』上の時間はもうほぼほぼ午前様。詰め所を出たら寒いこと寒いこと。

 いくら俺は一晩くらい寝なくても大丈夫とはいえ、セントレナに無理をさせるわけにもいかない。そういや確かに、ジャムさんも眠そうにしてたっけ。


「遅くまでごめんね」

『くぅ?』

「あ、そっか。こういうときは違うか。ありがとう、セントレナ」

『くぅっ』


 部屋に戻ってセントレナはそのまま定位置で伏せて眠っちゃった。テーブルみたら、温めなおさなくても食べられる夜食が置いてあった。

 そっか、ロザリエールさん、これを用意してくれてたんだね。ありがとう。いただきます。

 インベントリにも温かいものは入れてあるけど、こう、作ってもらったものは比べものにならないありがたさがある。

 柔らかいパンの上にお野菜が敷いてあって、極限まで薄く切った肉がハムのように重ねられてる。バターに似た油と、俺お気に入りのマヨソース味。小腹がすいてるから、かなーり美味しかった。ごちそうさまでしたでした。


 セントレナにおやすみの声をかけて、そのままベッドに倒れ込んだ。


 ▼


 翌朝、朝ご飯食べ終わってお茶してるときにふと、麻夜ちゃんに質問してみたんだよ。


「そういや麻夜ちゃん」

「なんでしょ?」

「麻夜ちゃんってさもしかして、地属性の魔法使えなかったりする?」

「うん。素養はあるっぽだけど多分無理無理。使えるのは朝也くんだけだよん」


 そっか、だからあの伝声管のとき、自分でやってみるって言わなかったんだね。


「それってさ、麻昼ちゃんも?」


 聖属性魔法は持ってた。そう言ってた記憶はあるんだけど。


「どうかなー? 育ててなければ多分使えないはずだよん。麻夜と麻昼ちゃんは『聖属性』を持ってること、それだけが最初から使えた、ってことが重要だったからねー」


 正確には、『光属性』と『聖属性』を探してたって言ってたっけ?


「そっかぁ。俺より優遇されてたかもだけど、けっして万能ってわけじゃなかったのね」

「優遇もなにも、兄さんに追いつけるレベルの話じゃなかったってば」

「そんなことないってばー」


 謙遜してみた。麻夜ちゃんその『駄目な子を見る目』、それやめて。ロザリエールさんに教わったの? もしかして。


「それでも全属性を持ってた可能性が高いのは、朝也くんだけなんだよねー」

「やっぱりそうなの?」

「だってほらあのとき麻夜、『聖属性以外は朝也くんと似たような感じ』って言ったのおぼえてない?」

「だっけ? 俺はとにかくあの場から逃げることしか考えてなかったからさ。もう勇者じゃないことが決定してたわけだし。もしいらないって牢獄に入れられたらたまんないもんね」

「うん。必死だったのはなんとなく伝わってたねー」

「あははは。ところで麻夜ちゃんは結局何が使えるの?」

「麻夜はね、聖属性、風属性、水属性、空間属性」

「そうなんだ」

「表示的には火属性も土属性もあるんだけど、『無効化された表示ディセーブル』のままなのよねん」


 あれか。使えるようになると『有効化された表示イネーブル』になるやつ。


「麻昼ちゃんは火属性使えるみたいだけど麻夜はちょっと難しいかも」

「なんで?」

「風属性と水属性上げたからかもねん。いろいろ試さないとわかんないけど。『有効化』される方法があるはずなのよねー」

「まじですか? なんでそんなことがわかるの?」

「ほら、麻夜には『鑑定』があったから」

「まじですか? それってそんなことでもわかるのかー」

「あ、ってことはさ、麻昼ちゃんと朝也君には?」

「どうだろう? あるかもだけど、みつけてないかもしれないね」

「なんだそれ?」

「麻夜はほらMMOゲーム知ってたじゃない? だから例のメニュー画面の隅々まで調べてみっけたんだもん。麻昼ちゃんも朝也くんも、MMO詳しくないないじゃない? 細かく教えるの大変なわけ。わからない人にはさ……」


 うん。それはよくわかる。パソコンわからない人に『ウィンドウを開けてください』というのと一緒。実際に生徒さんが『教室の窓を開けちゃった』って逸話があるくらいだからね……。


「俺だって隅々まで調べたよ? でもそんなのなかったし……」

「それはなんというか」

「うん」

「残念だったね」

「……うん」

「でもおかげで麻夜は、あそこにいた人の嘘がある程度わかったってわけだから」

「うん。頑張ったと思う」

「まぁ、兄さんがあそこまでチートじゃなかったら、どうなってたかわかんないんだけどね」

「チート?」

「そでしょ。回復属性極めてるし、おまけに何やら変な補助魔法も手に入れてるし」

「あー、あれね。あれは回復属性のレベルが高くないと理解できないようになってたっぽいのよ」

「そなの?」

「回復属性持ってない母さんには全く読めなかったらしいんだね。おそらく、ジャムさんの真ん中のお姉さん、ジェフィリオーナさんも無理だったんじゃないかな? 読めたのは、カンスト手前だった俺だけ」

「まじですかー」

「実際は補助呪文というより呪いみたいなものだったんだけどね」

「え? なんでなんで?」

「だってあれは、『ディスペル解呪』の魔法じゃないと停止できないんだよ……」

「え? それってもしかして」

「うん。もし使えないレベルだったら……、魔素枯渇まったなし」

「そりゃ呪いだわん」


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