第159話 仕事、早いねー。
「あ、そうだ。ダンナお母さんー」
「なんですしょう? マヤちゃん」
麻夜ちゃんは通りかかったダンナヴィナ母さんをみかけて追いかけてる。
麻夜ちゃんはプライヴィア母さんのことをお母さん。ダンナ母さんはダンナお母さんって呼んでるんだ。
「あのねあのね。お母さんにね、兄さんにあげた魔道書。『麻夜もほしいんだけど』って伝えて欲しいのね」
「わかりました。伝えておきますね」
「おねがいねー」
そういや麻夜ちゃん。俺の書斎にある魔道書、表紙の文字すら読めなかったみたいなんだ。俺も読めないから一緒なんだけど、麻夜ちゃんの魔法レベルが低いか、それとも俺たちとは系統が違う属性魔法の魔道書か、正直わかんないんだけどね。
「あれね、兄さん」
例の魔道書のことかな?
「ん?」
「麻夜の鑑定はじかれちゃうのよねん。多分、レベル足りないんだと思うんだけど、借りててもいい?」
魔道書を鑑定することで、鑑定スキル自体のレベル上げをするんだね。経験値入ったかどうかわかるのは、チートだと思うのよ。うん。
「いいよ」
「やたっ。それじゃ、準備してアレシヲンたんのとこで待ってるね」
「あいあい」
麻夜ちゃんの側に彼女の侍女ディエミーレナさんがいないところをみると、今ごろアレシヲンと一緒にセントレナもごはんを食べてるはず。さーてそろそろ出勤だね。
「タツマくん」
「はいっ」
昨日に比べたら朝から機嫌の良いプライヴィア母さん。
「今日は午後から例の捕虜のね、取り調べを行うからいいかな?」
「はい。麻夜ちゃんと一緒にギルドの地下ですね?」
「あぁ、頼むね」
「わかりました。じゃ、いってきます」
「あぁ、いっておいで」
やっぱり俺より20センチは大きいプライヴィア母さん。軽々と俺の頭を撫でるんだよ。ほんと、子供扱い。子供なんだけどさ。
階段で下の階まで降りて、セントレナたちの厩舎というかちょっとした倉庫みたいになっているところへ到着。
「ご主人様、おはようございます」
「タツマ様、おはようございます」
ロザリエールさん、屋敷ではもうこの呼び方だし。となりにいるのはマイラヴィルナ陛下。ギルド色のメイド服。良いのか? これで?
「おはようございます。陛下」
「マ・イ・ラ」
「あ、はい。マイラ陛下」
「マイラ・さん」
「はい。マイラさん。おはようございます」
「わかればよろしい」
なにそのどや顔。可愛いんだけど、困るんだってば。ロザリエールさん、吹き出しそうになってるし。
「おはよう、ロザリエールさん」
「お、お弁当です、……ぷぷぷ」
「ほんと、沸点低いよね」
「も、もうしわ――ぷぷぷ」
「ほらほら兄さん。もういくよー」
「あ、そうだった。ロザリエールさん、マイラ、さん。いってきます」
「はい。いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃい、ませーっ」
アレシヲンのとなりで苦笑してるみーちゃんことレナさん。苦笑してないで止めてってばよ……。
俺は麻夜ちゃんの前、プライヴィア母さんみたいにセントレナに乗った。すると彼女は立ち上がって、行き先がわかってる感で飛び上がっていく。
ロザリエールさん、マイラ陛下、ディエレーミナさん、アレシヲンに見送られて、俺たちは神殿に向かったわけね。
▼
「新・記・録っ!」
両手を突き上げて麻夜ちゃんが喜んでる。
「もしかして、聖属性魔法上がった?」
「うんにゃ。経験値的になんだけどねん」
「まじかー。それが見えるだけでも、凄いと思うんだけどさ」
「ありがとん。ささ、いきましょうか、お兄様」
「だから、ぞわっとするからやめてって」
「お疲れ様でございます。タツマ様、マヤ様」
「はい。あ――、忙しそうだなー」
「はいはいー、そだねー」
俺たちに挨拶終えたらささっと行っちゃったジェフィさん。神殿長でも仕事大変なんだろうな。なにせ毎日百人以上の人が悪素毒治療に訪れてるからね。
それでももう、半数は軽く超えてるはず。エンズガルドにいる虎人族さん、猫人族さんはワッターヒルズと同数くらいだって聞いてるし。状態のひどい人は残っていないはずなんだ。
水は魔道具使ってるし、水瓶の水もまだ持つみたいだし。野菜も肉も、ジェフィさんたちで毒素を抜けてるみたいだから、それなり以上に安全を確保できてるはず。
そろそろ目処をつけて一度ワッターヒルズへ戻らなきゃだけど、それは密漁の件が落ち着いたらかな?
麻夜ちゃんは麻昼ちゃんと連絡取り合ってるみたいで、スイグレーフェンは状態がいいらしい。エンズガルドやワッターヒルズよりは、悪素毒の影響低い地域だからね。麻昼ちゃんと朝也くんもいるから、そのあたりは大丈夫。
何せ、それなりの数の回復属性を持つ人がいるから、そのあたりは管理されてるっぽい。リズレイリアさん、抜け目ないからな。セテアスさん、パンクしてなきゃいいけどね。
まだ俺たち、いや、俺は外を歩くことを許可されてないんだ。結構俺のことをこっちの城下の人は知ってるから、大丈夫だと思うんだけどね。
ウェアエルズ側とのことが片付かないと、こっちの人に迷惑かけちゃうからだとは思うんだ。早く散歩したいもんだよ……。
こんなに近いけど、セントレナに運んでもらう毎日が続いてる。あ、あれ? なんでアレシヲンがいるの?
「麻夜ちゃん、これって?」
「あのね、お母さんに許可もらったのよん。国内だけならアレシヲンたんに乗せてもらっていいって」
「あー、それでか。今朝から慌ただしかったのって」
「そっそ。じゃ、アレシヲンたん。ギルドへお願いねん」
『ぐぅ』
「先行ってるねー」
なんていうか、楽しそうだ。俺は伏せて待ってるセントレナの背中にどっこいしょ。
「じゃ、俺たちも行きますかね」
『くぅ』
とはいえ、セントレナが飛び立ってほんの数十秒。あっさりとギルドの屋上へ到着しちゃうんだけどね。
――ってあれ? なんだなんだ? ギルドの屋上に仮設テントみたいな、いや、木造? みたいな小さな建物ができてるよ。
「兄さん兄さん」
「どしたの、あ」
ぺこりと頭を垂れる、ディエレーミナさん。
「仮設でアレシヲンたんたちの厩舎を作ったんだって。仕事早いよねー」
「まじですかー」
さっそくアレシヲンがお昼ご飯食べてる。
『くぅ』
セントレナもその場に伏せて、大きく口あいて待ってるし。
「はい、セントレナさんもどうぞ。あ、そうでした。下で閣下がお待ちです」
「そっか。母さんもう来てるわけね」
「いこっか」
「うん。待たせちゃまずいもんね」
俺と麻夜ちゃんは、ギルドの建物に入っていく。
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