第71話 有意義な時間の過ごし方。
「ロザリエールさん」
「はい、なんでございましょう?」
「俺さ、あと5日こっちで治療続けたら、一度ワッターヒルズに戻るけど」
プライヴィアさんに話したとおり、今後のスケジュールを説明する。
「もちろん、ご一緒しますが?」
「そりゃそうだよね。そしたらさまず、調べて欲しいことがあるんだ」
「はい」
「あのケルミオットって執事の指、どうなってるんだろう? って、すっかり忘れてたんだ」
「はい。明日にでも締め上げて――」
「あー、そこはなるべく穏便に。俺は治療しにいくの、めんどくさいし」
「はい。治療の必要ない程度にいたします」
「うへぇ」
「大丈夫でございます。ダイオラーデンでは、王族も貴族も、ひとり以上の神官や巫女のような回復属性魔法が使える者がいるようですから」
「まじですかー……」
「はい。まじでございます」
「だから俺の回復属性がさ、珍しくないって言われたのか……」
「そうだったのかも、しれませんね」
いやちょっと待て。あの魔道具。あの効果がもしだよ?
「それってさ、もし『
「十分に考えられますね」
「そこであれだ。魔道具を止めても、麻夜ちゃんたちに」
「はい。そのために召喚したと考えたら不自然も自然になり得ます」
「まだ仮定でしかないけど、とにかく証拠を集めよう。ひっくり返すにしても、確固たる証拠が必要だ。じゃないとただの侵略行為にしか過ぎなくなる。俺は別に構わないけど、正直言えばあの国王は好かないから」
「えぇ、あたくしも嫌いです」
国策でやってるとしたら、とんでもないことだ。いくらこちら側の人間じゃないからといって、それはもう、人間扱いしちゃいないかもしれない。
「それとなくさ、あの子たちの様子もうかがっておいてもらえるかな?」
「かしこまりました」
何よ? ロザリエールさん。その駄目な子をみるような目。
『しっかりと見ておかないと、危険ですね。ジュエリーヌさんたちの言ってることは間違いではないかもしれません』
「え?」
「いいえ、なんでもございません。さて、これからどういたしましょう?」
「ロザリエールさんは?」
「その、よろしければですが」
「あぁ、女子会みたいなものか」
「『じょしかい』でございますか?」
「あぁ、女子会っていうのはね、女性だけで食事をしたり、お酒を飲んだり。男性がいたら話せないような会話を楽しんだりする集まりのことだよ」
「はい。そのようなものですね」
「そっか。行ってきたらいいよ。俺はそうだね、セントレナの様子をみてくるから」
「お優しいのですね、やはり」
「だってさ、アレシヲン、帰っちゃったんだから、ひとりで寂しくしてないかなって」
あのお馬さんたちよりも、頭が良いから。ひとりでぽつんとしてると思うとね。
「確かに、あの馬たちよりも賢いようですから。では、セントレナさんのことお願いできますでしょうか?」
「うん。わかった。じゃ、いってらっしゃい」
「はい。いってきます」
すごく嬉しそうなロザリエールさん。色々ストレス抱えてたからね。女子会は必要だと思う。
まだ時間が早いから、ちょっと買い物をしに外へ。そういや、ここで俺、インベントリにある串焼きを買ったんだっけな。たしかこっち、そうそう。この食料品を沢山扱ってる場所。この奥の、あったあった。
「こんばんは」
「おう、聖人様じゃないか」
ここでも結局そう呼ばれるわけね。まぁ、なんでもいいけどさ。
「この串焼き全部、味付けないでお願いしていいかな?」
「いつもの買い置きかい?」
「そそ。旅先でも助かってるんだ。こう買っておくとね、野営したときも食べるものに困らなくてさ」
「じゃ、少し待っててくれるかな?」
「ほいほい、あ、串は抜いてもらえる?」
「あいよ」
ここの串焼きは、何度も買ってるんだ。今でもかなりの量がインベントリに残ってる。けどそれって、味がきっちりついてるんだよ。もしかしたらさ、セントレナには塩分が多すぎるかもしれないからね。
5分ほど待って、屋台にあったおおよそ半分の本数を買い込んだ。全部はさすがに営業妨害になっちゃうから。これだけ長い期間店を続けてるってことはさ、それなり以上に
商業区画から戻って、宿屋の前を通り過ぎ、ギルドの前を通ったんだけど入り口は閉まってた。さすがに営業終了だよね、この時間じゃさ。今ごろ楽しく飲んでるかな?
厩舎に着いたけど、やっぱり入り口は閉まってる。宿直室の受付へ直行。すると、姿を現したのは、昨日と違う男性だった。40代くらいかな?
「おや、聖人様?」
ここでも結局それかいっ。ツッコミは心の中だけにしておかないとね。うん、この人もなんとなく覚えてるわ。それなり以上に進行してたからね。そっか、この人もここの人だったんだ。って、もしかしたら、ギルドの関係者かもしれないんだけどね。
「こんばんは。奥の厩舎に用事があってですね」
「今開けるから、ちょっと待っててくださいね」
奥の厩舎はおそらくだけど、俺とプライヴィアさんしか使わないんだろうから。それだけで伝わっちゃうんだろうね。ゴゴゴゴという音を立てて開く重厚そうな扉は相変わらずだわ。
「どうぞ、お入りください」
「んじゃ、お邪魔します」
通路を通って、一番奥へ。インベントリから鍵を取り出して、鍵穴へ入れて回す。カチリという感触。鍵を戻して扉を開けると。
「うぉっ!」
び、びっくりした……。扉のすぐ前に、セントレナの顔があったんだよ。そういや、竜が爬虫類かどうかわかんないけど、あの種は嗅覚が鋭かったって、何かで読んだことがあったっけ? ってかセントレナさんや、あんたはクメイさんかいなって?
『くぅ?』
「はいはいはい。そりゃ、ダイオラーデンには、ここの職員か俺くらいしかここ開けないだろうからね。よくわかったな、それでも」
『くぅ』
「セントレナ、ご飯食べた?」
『くぅ』
横に
「肉、好き?」
『くぅっ』
「そっかそっか」
おそらく、ここにいる馬さんたちは、肉の匂い嗅いでも騒いだりしないだろうから大丈夫だと思う。
俺は大きめの皿を出して、その上にさっき買った味付けなしの串焼きをとりあえず5本分。となりにまた大きめの深い皿に、水を入れておいた。
「はい、どうぞ。焼いたばかりだから、熱いから気をつけるんだよ?」
『くぅっ』
はぐはぐと2つ3つばかりかけらを口にする。顔を持ち上げてしっかりと
『くぅっ!』
「そっか、これ、うまいよね」
『くぅっ』
また、はぐはぐと食べて、水を喉鳴らして飲んで。またはぐはぐと食べて、あっという間に皿は空っぽ。
『くぅっ』
ついっと鼻先で皿を押し出す。
「はいはい。お代わりだね?」
『くぅっ』
こうして俺も、セントレナとの楽しい時間を過ごしたってわけ。もちろん翌朝、お約束のように二日酔いだったロザリエールさんは、申し訳なさそうにしてたんだ。
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