第72話 やっぱりそうなのかー。
ダイオラーデンに来て3日目の夜。セントレナのところへ寄ったあと、夕食を食べ、俺の部屋でいつもの報告会。
「残念ながら、ケルミオットの指先に黒ずみはみられませんでした」
「まじですかー」
執事ってことはさ、少なくともあの家の使用人を束ねるナンバー1ってことだから、それなりの扱いを受けてたってことなんだろうけどさ。
「あの家にいる他の使用人はどうなんだろう?」
「はい。締め上げて白状させましたが」
「さっすがロザリエールさん」
「お
いや、褒めてないから……。期待を裏切らないって意味だけど、ある意味、褒めてるかもだけどさ。
「それで?」
「はい。おそらくは出ていないだろうとのことです。あの糞当主――ごほん。失礼いたしました。筆頭貴族の家だけはありまして、亡くなった先代当主はそれほどではなかったようですが、あの家は体面を気にする家だったようです。あの男は病的だったとのことでした」
「プライヴィアさんから聞いてたけどさ、貴族ってそういう生き物がいるんだね、やっぱり」
「えぇ、そうでございますね。そのためでしょうか? 水は基本、新しい水だけしか飲まないようにしているとのこと」
「新しい水って、なるほど。毒を抜いた水のことだね?」
「おそらくは」
「今は麻夜ちゃんたちが『練習』した水、なんだろうな。うぁ、腹立ってくるわ……」
「はい。推測でしかありません。もしかしたら、その『練習』という名目の水は、王家だけで利用しているかもしれないですね」
「え? どういうこと?」
「実は、締め上げた結果、あの家だけで使っている、水差しに入る程度の小さな魔道具があるとのことなのです」
「うげっ。そこまでするか?」
「はい。ただ、二晩ほどおかないと解毒ができないのでは? という程度の弱いもののようです。おそらくは、試作品で、小さな魔石で運用できるものがあったのでしょうね。それなりに多く」
そりゃそうだろうな。それでも、料理なんか、風呂もそうだ。間に合わなくなったから、勇者召喚をしたってことなんだろうな。ちくしょう、腹立つわ。
「それとですね、普通の使用人であっても、季節ごとに回復属性魔法の治療を受けているとのことでした」
「なるほど、予想通りか。魔道具と弱い回復属性魔法で、なんとかしてたってわけか。自分たちの安全のために、わざわざ『寄付金が高くなる』だなんて噂を流してまで。それだってバレちゃいけないから、麻夜ちゃんたちにも多分使ってない。そうだとしたらもう、酷いとかいうレベルじゃないよ……」
「証拠を集めろ、でございますね?」
「うん。まだ証言だけの、状況証拠でしかないからさ。脅されたって言えば、とぼけられる可能性だってあるんだ」
「そうでございますね……」
あぁ、両肩持ち上げて呆れた表情してる。ここまで腐ってるとは、ロザリエールさんも思ってなかったんだろうな。
「他にはさ、なにかあったかな?」
「はい。極刑と思われたあの男は、客観的にみて駄目でしょうけど、あの家には跡取りがいるとのことです。グリオル侯爵家は、取り潰しを免れるとのことですが、伯爵へ
「ぶふっ!」
やべっ、吹いちゃった。まさか、ロザリエールさんが駄洒落を言うとは思わなかったんだよ。
「も、申し訳ございませんっ」
「やられた、……う、うん。なかなかのお手前でございました。まさかそうくるとは思わなかったよ」
「ご報告の際、少しでも喜んでもらえるかと思ったものですから、つい」
顔に出てたのかな? 逆に俺が元気づけられちゃったよ。
「ありがとう。そういやロザリエールさん」
「はい」
「魔石ってさ、買ったことある?」
「いいえ。魔石は、魔獣を狩って、解体して手に入れるものだと思っていますが?」
「まじですかー」
ロザリエールさんの話は確かに間違ってはいない。今まで気にしなかったから調べようとしなかったけど、ギルドの冒険者は上位になると、魔獣討伐が基本なんだそうだ。その分危険性は高く、怪我どころか命を落とす場合もあるらしいけどね。
「あたくしはギルドに属さないハンターでした。属していなくても、倒した魔獣の買い取りはしてもらえましたので」
「うん」
「はい。かなり前の話ですが、そのときから『ロザリア』の名前は通っていたのかも、しれませんね」
「なるほどね」
「ですが、件の魔道具だけは、どれだけお金を貯めようとも、手が届く気がしなかったのでございます」
「うん、金額はプライヴィアさんから聞いたよ」
そりゃそうだ。年間金貨20000枚だもんな。それも買い取りじゃなくリースで。
「そうでございましたか。あたくしは噂を追いかけ、その金額に届けといつの日か、魔獣では稼ぎが足りず、始末人を生業とするようになりました」
「うん」
プライヴィアさんから聞いた金額と、ロザリエールさんが耳にした金額は、リースだとほぼほぼ誤差はなかったんだ。買い取りなら100万枚とか、どんだけぼったくってるんだよ? 全く。
さすがに今夜は自粛するとロザリエールさん。ここ数日、毎日二日酔いだからね。
「年齢が違ってはいてもですね、これまで話の合う同性の友人がいなかったもので、楽しくて楽しくてつい、飲み過ぎてしまうんです……」
「そりゃさ、ロザリエールさんは長い間、ひとりで頑張ってきたんだから、俺は別に構わないと思うんだよ」
「ご主人様はその、毎日飲みに行かれたのですか?」
「あの酒場でしょう?」
「はい」
「俺はね、6日目働いて1日休みになってたじゃない?」
「はい」
「休みの前の晩だけ飲みに行ってたかな? あとは持ってるお酒を少しだけ飲んで、眠くなったら寝る感じ?」
「まじですか?」
「うん。まじもまじまじ。最初は俺、自腹で飲んでたんだもの。ワッターヒルズに移る前あたりだよ? 酒代もギルド持ちになったのって」
「なんてこったい、……でございます」
俺が呟いてる言葉を覚えてくれてるのかな? 実に気持ちの表れた、落ち込みようだこと。
「俺、お酒も常に、持ち歩いてるようなものだからさ。ほら、こんなふうにね」
手のひらを上にして、インベントリからお酒を取り出す。容器が室温より冷たいものだから、徐々に結露してくるのがよく冷えてる証拠。
「では、あたくし」
「うん」
「ご主人様が休みの前の日にだけ、飲みにくると伝えてきますね」
「あぁ、いってらっしゃい。俺はここで飲んでるからさ」
「はい。すぐに戻ります」
そう言って、ロザリエールさんは出て行った。俺は出したお酒を開けてぐいっと飲む。これ案外いけるんだよ。お酒を柑橘類っぽい果実水で割ってあるだけ。その状態で、冷やしの魔道具でじっくり冷やしてあるんだろうね。缶チューハイの炭酸なしみたいな感じ。
確か在庫が、……はい。まだ57本ありましたとさ。こんなお酒でも、10本は飲めない。潰れる。案外アルコール度数は低くないんだ。飲んだ感じ、10%くらいはあるのかな?
「ぷはっ、うまっ」
つまみも、飽きの来ない串焼きも、果物の乾物もあるし。いつでも飲めるんだよね、実のことをいうと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます