第120話 まじですか、まぁそういうことで。
食堂から出てすぐ中庭へ、そのままロザリエールさんに案内してもらって、厩舎へ来てたんだよね。セントレナたちの食事も終わってて、それじゃブラシだけでもと思ったんだけど、顔を見るなり俺たちの服の袖を銜えて引っ張るんだ。
2人の仕草は、『さぁブラシをかけてちょうだい』だと想ったんだけど違うんだ。口をあんぐり開いたまま閉じようとしないんだよ。
「セントレナ」
『うぁ』
口を開けたまま器用に声をだすこと。
「ご飯食べたんだよね?」
『うぅ』
「でもなんで? あ、もしかして、またパンと肉?」
『くぅっ』
一度口を閉じて、わかりやすく答えたと想ったら、またあーんと口を開ける。
「なんでもですね、ご主人様から食べさせてもらえるものは」
「うん」
「おやつのような感じらしいのです」
「うっそ」
『ぐあ』
「アレシヲンもかよ」
『ぐぅ』
結局甘えるふたりに負けて、俺とロザリエールさんはパンと串焼き肉と根菜を用意して、ホットドックのようなものを作って食べさせてあげることにしたんだ。
「そういやさ、ロザリエールさん」
「はい。なんでございましょう?」
ギルド、神殿から帰ってすぐに食堂へ通されて、食後もプライヴィアさんと少し話してから、そのままこっちに来ちゃったもんだから、すっかり忘れてたんだけど。
「俺の部屋ってどこ?」
今朝方仮眠とってたのは、確か客間だったような気がするんだけど。
「はい。後ほどご案内いたしますがこのお屋敷はですね、空いている部屋数が多いとのことでして、あたくしもお部屋をいただきました。ダンナヴィナ奥様の隣りなんですよ」
すっごく嬉しそうなロザリエールさん。そうなんだ。元々ダンナさんと数人で維持管理しながら住んでるっぽい感じだったから。ここってさ、うちの屋敷が何個入るのか想像できないくらい、ただただでかい屋敷。もはや城と言ってもおかしくないくらいなんだ。
『くぅ』
『ぐぅ』
「セントレナ、アレシヲン。おやすみ」
「おやすみなさい。セントレナさん、アレシヲンさん」
そういや、もふり大好きな麻夜ちゃんが来なかったな。そう思いながら、中庭を抜けて屋敷の中へ。
ホールを抜けて、突き当たりを右へ行けば食堂。左は厨房。右に曲がってすぐ左を向くと、そこには今朝プライヴィアさんに抱えられながら麻夜ちゃんと降りてきた階段があるんだ。
階段へ上がらずにそのまま奥へ行くと、風呂があるんだってさ。一応、1階と2階にあるそうだから、俺は基本1階を使うようにとのこと。本来は使用人とお客さん用なんだってさ、1階はね。
「こちらの階に、あたくしの部屋もあるんです」
階段を上りながら、ロザリエールさんは説明してくれる。
2階は客間やら、使用人さんの部屋があるんだって。倉庫なんかもあるらしいよ。
3階はプライヴィアさんと俺の部屋があるんだって。なるほど、俺も3階か。階段を上がると左右に廊下が伸びてる。ここに数えるくらいしか人が住んでないとは思えないほど、無駄に部屋数が多い。
「プライヴィア様のお部屋と書斎は左の奥に、ご主人様は右の奥に用意していただきました」
かくんと右折して、あれ? 確かここって、中庭をコの字に屋敷が囲ってなかったっけ? あぁ、突き当たりをまた左折。うっそ、俺の部屋らしいとこまで20メートルくらいないかな?
「あのさ、ここに来るまでそれなりに人とすれ違ったんだけどさ」
「はい」
「ここって住んでるの俺たちだけなの? もしかして?」
「そうですね。プライヴィア様、ダンナヴィナ様。ディエミーレナさんと数名の侍女さん以外は、通いだと聞いておりますが」
「まじですかー」
ちなみにダンナさん、ロザリエールさんの部屋。麻夜ちゃんもこの階。彼女付になったディエミーレナさんもこの階に移ったんだってさ。元々はおそらく、通ってきた部屋のどこかなんだろうね。
明らかに空き部屋のほうが多すぎる。やっと突き当たり近くまで来て、あと10メートルという感じの場所に扉があるんだ。そこでロザリエールさんは立ち止まると、ノックするんだよ。なんで? 誰かいるの?
「ロザリエールです。タツマ様がお戻りになりました」
「へ?」
ドアを開けてくれて、その場で横向きになってお辞儀するロザリエールさん。すると何やら話し声が聞こえるじゃないのさ?
「あ、やっと帰ってきたねー」
「麻夜様麻夜様、このお方が、若様なのですか?」
「若様? んー若様? やっぱりそうなるのかな?」
誰よ? 若様って? 麻夜ちゃんはソファに座ってでお茶を飲んでるし、やや斜め後ろには、給仕をする猫人族の女の子の姿。あぁ、この子がそうなんだね?
するとぺこりとお辞儀をして俺をじっと見て、彼女は笑顔になった。
「初めまして。麻夜様付の侍女となりました、ディエミーレナと申します」
「あ、俺はタツマ。なんだろう? ここの息子、でいいのかな?」
「はい、よろしくお願いいたします」
「みーちゃんって、呼んであげてね」
麻夜ちゃんが補足するんだけど、いや俺は無理でしょ?
「いや、ちょっとそれは。せめて、ディエさんかレナさんで」
「はい。両親にはレナと呼ばれていましたので、それでお願いいたします」
「むー、みーちゃんのが可愛いのにぃ」
女の子に見えても実は、俺より年上なんでしょ? そうだよね?
「とにかく、麻夜ちゃんをよろしくね」
「はい、かしこまりました」
それより何より、この広さはどういうこっちゃ? 前にテレビで見た、海外のどこかリゾート地の、高級ホテルのスィートルームみたいにだだっ広い。
中庭が見える窓際に大きなソファとテーブル。右には何やら扉があって、左にも扉があるのよ。
すると左の扉が開いて、そこから聞き覚えのある声が。
「おや? タツマくんが戻ってきたんだね?」
「あらあら、タツマちゃん。おかえりなさい。疲れたでしょう?」
「な、なにしてんですか?
「いやなに。こっちは君の寝室と書斎があってだね。書斎にある書棚にね、例の魔道書を置いてきたんだよ」
「あー、なんていうかありがとうございます。ちょっと待って、寝室と書斎?」
俺はプライヴィアさんたちが出てきた扉の奥へ行ってみた。な、なんじゃこりゃ? またリビングみたいな広間があって、扉が2つ並んでる。左は開け放たれていて、ベッドが見えるから寝室なんだろうけど、右が多分書斎なのかな?
「ちょ、なんだよこの広さは?」
「そうかい? 私の部屋よりは狭いよ?」
「ここより広いんかいっ!」
思わずツッコミ入れちゃったよ。
右側の書斎と思われる部屋の扉を開ける。そこには総支配人室にもあった机が。壁には書棚があって、ぽつんと10冊ほどの古めかしい本が置かれてる。
「これ全部?」
「あぁ、私にも読めない魔道書だよ」
「なんとまぁ……」
俺は書斎の扉を閉めると、一度麻夜ちゃんのいた最初のリビングっぽいところに戻ってきた。
「タツマ様。皆様さきほど、食事を済ませてしまいましたが」
「あー、遅くなってごめんね」
「いえ。こちらでお食事をとられますか? それとも食堂へ行かれますか?」
「そうだね。食堂へ行こうかな?」
「そうだろうそうだろう。部屋に食べ物の匂いが残ると、落ち着けないからね」
「それと、明日からの予定も話しておきたいんで」
「そうだね」
プライヴィアさんもそう言うんだ。俺もなんとなくそう思ったからね。
「では皆様。一度食堂へお願いできますでしょうか?」
「うん、わかったよ」
「あぁ、そうしよう」
ぞろぞろと連れだって1階の食堂へ。
みんながお茶を飲んで寛いでいる最中、俺はぼっち飯を決め込んでる。まるで残業帰りのお父さんの気持ちにならないのは、まだみんながいてくれるからなんだろうね。1人じゃないってなんかくすぐったいよ。
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