第62話 報告と懸念材料。
「症状を聞くと、風呂に入ったとき、軽くしびれる程度だそうです。なので、俺はその場で治療しました。もちろん、他の二人にも指を見せてもらいました」
「うん」
俺はプライヴィアさんへ、これまでロザリエールさんに集めてもらった情報と、俺が見て感じた懸念材料まで包み隠さず細かに報告してる。リズレイリアさんは、そんな俺たち二人のやりとりを黙って聞いてくれていた。
「彼女らは双子で、もう一人の少女にも同じような黒ずみがありました。ですが少年にはなぜか、黒ずみがなかったんです。不公平にならないように、二人とも同じように治療をしておきました」
「うん、いいと思うよ」
「一人目の少女は、俺と少しばかり打ち解けることができています。もう一人の少女と、少年には、俺のこの
「うんうん」
「その後です。一人目の少女は、『鑑定』という能力を持っていると、教えてくれたんです」
「ほほぅ」
プライヴィアさんは身を乗り出すように興味を示したんだ。
「もちろん、その鑑定によって、彼女自身に起きていた黒ずみが
「あぁ、あの伝説のスキル。本当に持ってる人がいるとはね」
あれって伝説だったんだ。俺にはなかったんだよね。いつか手に入れる方法があるだろうって思ってけど、麻夜ちゃんに『勇者専用かも』って聞いて、トドメ刺されちゃった感じなんだよね。勇者ってことはさ、麻昼ちゃんと朝也くんも持ってるってことでしょ?
何が条件なんだろう? 光属性を持っているか? 聖属性を持っているかが条件? まさか歳? もしそうなら、無理ゲーだよ。
「鑑定の能力があれば、目に見えない悪素を見ることが、あるかどうかを確認できるんです。彼女と友好的な関係を続けられたとしたら、いずれ悪素の調査を手伝ってもらえるかもしれない。俺はそう思ったんですね」
「それが叶うなら、どれだけ助かるかな……」
うん。俺もそう思います。
「さて、リズレイリアさんから聞いていた、『例の魔道具が魔石の高騰で運用できなくなり、動作を止めてしまっていたかもしれない』という話がありましたよね?」
「あったね」
「昨日まで、ロザリエールさんに調査してもらった結果、魔道具が稼働していない証言を得ることができたとので、ほぼ間違いないと思うんです」
「やはりそうだったんですね……」
リズレイリアさんが肩を落として俯いてしまった。彼女が一番懸念していたことだから。
「はい。それとは別のことですが」
「うん」
「勇者召喚の条件が、『光属性と聖属性』だったんです」
「うん」
「プライヴィアさんも、リズレイリアさんから『聖職者くずれを自称する者が現れた』という報告を受けていたはずです。その日を覚えていますよね?」
「もちろんだとも」
「その日は、俺たちが召喚された翌日あたりなんです」
「うん」
「これまでの、これっぽっちの短い時間で、少女二人に悪素毒の浸食があったという、あり得ない状況から察するに」
「ちょっと待っておくれ。……ダイオラーデンが勇者を召喚した、理由というのは?」
「はい。勇者付の事務官がですね、『悪素による浸食の原因を共に探り、解決をしてほしいから、光属性と聖属性を持つ者を探して召喚した』と教えてくれました。ですがもし……」
「そうだね。『自分たちが口にする水などから悪素を取り除く必要があるから、生け贄として利用するために召喚した可能性がある』。君はそう、言いたいんだね?」
「はい」
「それはもう、不愉快などという言葉で片付けることはできないよ」
「俺もそう思います。勇者となった少年と少女は、孤児だと聞きました。
「そう、なんだね」
「だからといってもし、その程度の理由でこのような愚行が行われたというのであれば、許されることではありません」
「まったくもって、その通りだね」
「だから俺は、あの王家に放り出された人たちを、今日この後も治療を続けます。その間、ロザリエールさんには、引き続き調査をお願いしています」
うん、一通り説明し終えたかな? 俺だけ抱えて、悩むには重すぎることだったんだ。だから悪いけど、プライヴィアさんたちにも背負ってもらおう。そう思ったんだ。
「それで、もしだよ? 王が王でないと君が判断したなら、君はどうするつもりなんだい?」
これまたどストレートだな。ものすごく、楽しそうな表情で聞いてくるし。
「そうですね。俺がもし、『有罪』と判断したらですよ? 母親になったプライヴィアさんは、どうしますか?」
「もちろん、喜んで加勢させてもらうよ」
「まじですか」
「あぁ、本気だとも」
まじですか、がちゃんと通じてる。まじですかー。
「それなら一択です」
「聞こうか」
「俺とロザリエールさんで、王城に侵入して国王を捕らえます。そこで改めて、国をもらい受けます」
「ほほぅ。それは面白そうだ。なぜその判断になったんだい?」
「はい。リズレイリアさん、ここの城下にいる人は、おおよそ2000人という話でしたよね?」
「あぁ、そうですね」
ありゃりゃ。微妙に丁寧な言葉使いが混ざっちゃってるね。
「城下の人を連れて、ワッターヒルズへ逃げるという選択肢もありますが、あまりにも人数が多すぎます。それなら、城下の人たちを、国民をなんとも思わない支配者側をやっちゃったほうが、簡単だと思ったんです」
「確かに正論だね。それで、どれくらいの援軍が必要かね?」
「いりません」
「ほほぅ」
「『ハウリなんとか』の屋敷に侵入した感じから言うとですね、俺とロザリエールさんだけで動いた方が、気づかれずに済むでしょう。時間はかかるでしょうが、攻略は可能かと思います。まぁ途中であれこれ飛び散るでしょうけど、あとでなかったことにできますからね」
うわ、ロザリエールさん、嬉しそうな表情してるよ。うん。それくらい、信頼してるから。
「その自信は何からくるんだい?」
「プライヴィアさんも見ましたよね? 俺の『奥の手』」
「あ、あぁ、あれは、……そうか。あはははは。不死の侵入者か。駄目だ、絶対にかなわない」
プライヴィアさんは『やれやれだぜ』という感じに、諸手を挙げて苦笑する。半分正解です。
「俺は絶対に殺されません。ミリでも意識が残っていたら、その場で戦線復帰できます。同時に、ロザリエールさんを死なせることはありません。まぁもし、死なせちゃったりしても、すぐになかったことにしますので。そうしながら、1人殺して縛って蘇生して。その繰り返しでなんとでもなると思うんです」
「なるほど。それで、国を乗っ取ったら、君が王座に就くのかい?」
「まさか」
「私はさすがに、ここまで遠隔の地だと治めることは難しいよ?」
「大丈夫です。そのときがもしあったら、リズレイリアさんを国王にしますから」
「……え?」
まさか自分に話が振られると思ってなかったんだろうね。きょとんとしてる。ウケる。笑いを堪えるのが大変だよ。
「国の運営をまるっと、ギルドでやっちゃえばいいんですよ。後ろ盾にエンズガルドがいるんだから、滅多なことは起きないでしょう?」
「ちょ、ちょっと待ってください。それはあまりにも」
「あはははは。それは良い考えだね。うんうん、リズレイリアならきっと、良い王になると思うよ」
「まるでもう、決まったような言い方ですね?」
「状況を考えてもみなさい。国の民をないがしろにし、長い間危険に晒しているんだ。かの王には、王たる資格は正直、ないと思うよ。それでも降りないというなら、君たちが力ずくで降ろしてあげるといいよ。そうだろう?」
「そうですね。まずは証拠集めからです。疑惑だけで動くわけにはいきませんから」
「そうだね。あ、そうそう。ある程度時間はかかるだろうから、あっちにも帰ってきておくれよ?」
「え? でも、馬車で二日は――」
「大丈夫。紹介するよ、私の『奥の手』たちをね」
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