第63話 新しいお友達。

 ところ変わって、ギルドの管理してる厩舎のある場所。支部の建物がある場所から先へ進んだあたりにあった。俺たちがここへやってきたときに連れてきてくれた、馬たちと馬車も預けられていたんだね。


 そこにいくとあれ? どこを見ても俺たちが乗ってきた馬車がないんだ。


「あれ? 俺たちが乗ってきた馬車がない」

「あぁ、あれはね。こちらの冒険者に依頼して、ワッターヒルズまで届けてもらってるんだよ」

「まじですか。俺たちどれで帰ればいいんです?」

「まぁ、話を聞きなさいって」

「あ、はい」


 俺の案内をしてくれてるプライヴィアさん。ここまで歩いてきたんだけど、誰も驚いたりしないのね。だって、人間以外はプライヴィアさんだけ。それも凄く目立つんだよ。逆に俺のほうが驚いたくらいだって。そしたら、彼女、ここでは結構有名らしいんだ。


 数年に一度は、各地にある支部を訪れるのも仕事らしくてさ、あまりにも特徴的だから城下の人たちも記憶に新しいんだって。改めて『ファンタジーだな、おい』って思っちゃったよ。


 ってことはあれか? エンズガルドの名前を出したらビビってたのは、プライヴィアさんが訪れた報告を聞いていて、彼女を知ってたってことだ。そりゃビビるわな。俺だって知らない人だったら、怖いもんね。


 ここって厩舎というより、駐車場という感じがあるんだ。なにせ、獣くさくない。牧場にありがちな、『踏むと大変』になるあの臭いがしないんだよね。通路の地面も綺麗だし。間違っても『踏んではいけない』ものが転がってない。そういや、ここへ来るまでにも臭いは全くなかったんだよね。


「ここって厩舎ですよね?」

「あぁそうだよ」

「なんで厩舎によくあるあの匂いがしないんですか?」

「それはね、君も知ってる魔道具を使ってるんだ」

「へ?」

「元々はね、ここのような場所で使う『臭いの中和』や、『腐食によって発生する毒素の中和』など、それらを目的とした魔道具から始まったんだよ」

「ということは、昔からこの国の魔道具は有名だったんですか?」

「いや」

「へ?」

「ここで作られた『魔石中和法魔道具』は、これらの亜種でしかないんだ。中和の魔道具は、ここではない別の国が考案したんだよね。それを改良したという意味では、よく考えたとというか、よく読み解いたというか。その功績自体は立派だと思うけどね。ワッターヒルズで利用することを考えたらね、効果が弱すぎると判断したというわけだったんだね」


 物語に出てきた魔道具の、ネタバレパターンのひとつだよ。すげぇ。……でもさ。


「魔道具を改良とか、そんなことが可能なんですか?」

「そうだねぇ。簡単に言えば、魔道具は魔法の効果を魔法陣などで具現化するための道具。実際、その効果を発生させているのは、魔法陣がほとんどなんだ」

「ま、まじですかー」


 魔法陣って、あれだ。ここへ召喚されたときのヤツや、俺が『パルス』なんかを覚えた魔道書のあれだわ。そっか、魔道具も基本は似たような理論で動いてるのか。


「確かに、馬や人の気配はそれなりにございますね」


 馬車を引く馬と世話をする人のことかな? 俺の後ろを歩くロザリエールさんは、狩りの経験があるとかいう話だったから、そういうのにも敏感なんだろうね。


「――えっ? これは? ど、どういうことでしょう?」

「どうかしたの?」

「あの、馬だけではなく、なにか、とてつもない気配を感じるんです」

「とてつもないって?」

「あたくしは実際に目にしたありませんので、なんとも表現のしようはないのですが、……」

「ほほぅ。よく気づいたね。さすがは『ロザリア』さんだ。それなり以上に、魔獣などと相対したことがあるんだろうね?」

「どういうことですか?」

「見たらわかるよ。ほら、その一番奥が、私専用の厩舎だから」


 馬が通るには狭すぎる。馬車を通すには、更に狭すぎ扉がある。プライヴィアさんが開けると、そこには黒と白の色味を帯びた、何かがいるのは間違いないんだ。


「私に子はいないが、私の家族だ。紹介するよ。白いのがアレシヲン。黒いのがセントレナだ」


 金色? いや、黄色? どっちともいえない四つの目が俺を見るんだ。


「も、も、もしかしてこれは、あのりゅっ」

「そうだね。竜種のひとつといえるかな?」

「そうだったのですね。どうりで感じたことのない気配だったかと……」


 体高はどれくらい? おそらく2メートルは超えてる。折りたたんだ翼があって、体表は細かい羽に覆われてる。背中には、2人は乗れそうな鞍がつけられてる。


 それでも顔つきは蛇というよりトカゲに近い? いや、空想上のドラゴンってイメージありありだよ。だから確かに竜と言われたら竜なんだ。けどね、フォルムはなんていうか、立った姿がニワトリそっくり。黒い羽だから烏骨鶏かな? ワイバーンみたいな翼竜と違って、足がしっかりしてるんだよ。だからニワトリにそっくりだと思ったんだ。


「この子たちはね、『走竜そうりゅう』と呼ばれてる。セントレナが雌竜めりゅうで、アレシヲンが雄竜おりゅうだね」


 あれ? そういえば、セントレナと呼ばれてる黒い走竜には、鞍は長めのが。アレシヲンと呼ばれた白い走竜には、短めの鞍がつけられてるんだけど?


「セントレナ。彼が私の息子になったタツマだよ。よろしく面倒見てくれるかな?」

『くぅ』

「――うがっ」


 俺に歩み寄って、頭に顎を乗せてくるんだ。ちょっともふっとしてて気持ちいいんだけど、びっくりしたよ。


「こらこら、彼は私たちのように大きくないんだ。少しは手加減してあげないと、……壊れたりはしないだろうけどね」


 あれ? ロザリエールさんが笑ってるよ。


「セントレナはね、元々うちのダンナの子だったんだけど、乗る機会もなくなったからね。先日取り上げたんだ。ちょっと寂しそうにしてたけどね。仕方ないさ。うちのダンナは、高いところが苦手だからね」


 まじか。虎人族さんにも高所恐怖症の人がいるのか……。


「だからね。セントレナと仲良くしてあげて欲しいんだ。どうだろう?」

「……俺なんかで、いいんでしょうか?」

「いや、十分じゃないかな? 初対面でそこまで優しく接してるのは予想外だからね」

「どういうことですか?」

「うちのダンナは、撫でようとした手をかじられたんだ」

「え?」

「ちょっと、血が出てたかな?」

「まじですかー」


 ロザリエールさんが、セントレナの背中を撫でても、噛まれることはなかった。ニワトリみたいに座り込んで、気持ちよさそうに撫でられるままになってるんだよ。


「この子たち走竜はね、地竜や水竜と違って、翼竜の仲間なんだろうけど、空を飛ぶのが苦手でね、その代わり、走るのは得意で、跳ねるのも得意なんだ」

「そうなんです――うげ」


 かじられた。あたま。でも甘噛みなんだよね。


「滑空することができてね、少しだけなら高度も上げられる。けれどね、身体の構造上、翼がやや小さいものだから、高くは空を上がれないんだよ」

「だから『走竜』なんですね」

「そう。走竜だけにね。あははは」


 ロザリエールさんがぼそっと呟くんだよ。


『本当の親子みたいですね』


 駄洒落か? 駄洒落のセンスが似てるのか?


セントレナとアレシヲンこのこたちなら、半日もあればこことワッターヒルズを行き来できるだろうね」

「まじですかー」


 本日何度目の『まじですかー』だったことか。驚きの連続だったんだ。


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