第61話 改めて自己紹介。
俺は、リズレイリアさんに、支配人室の人払いをしてもらった。ここにいるのは、俺とロザリエールさん、リズレイリアさん、プライヴィアさんの四人だけ。ソファに座って、説明を始めたわけなんだよね。
「えっと、俺はですね」
ロザリエールさんを見ると、ひとつ頷いてくれる。
「この世界の人間じゃないんです」
あれ? リズレイリアさんもプライヴィアさんも、顔色一つ変えない。
リズレイリアさんは『なぜ黙ってたんだい、この子は?』みたいな、駄目な子を見るような表情。反面、プライヴィアさんは、ものすごく嬉しそうな表情をしてるんだよ。
「やはりそうだったのですね」
「え?」
「そうだろうそうだろう。そうじゃないと、説明がつかないものが多すぎると思ったんだよ、なぁ? リズレイリア」
「えぇ、そうでございますね」
「えぇっ?」
ある意味予想外な普通すぎる反応で、逆に驚く俺。さもありなんという表情で肩をすくめるロザリエールさん。
その後は、かくかくしかじか。ある程度の説明を終えて今ここという感じ。
「――結果的に、そのお貴族様、いえ、侯爵が黒幕だったというわけです」
リズレイリアさんは、頭を抱えるようにして項垂れてしまった。
「どうしたんです?」
「いえね、その貴族。グリオル家の当代が亡くなってるとは思わなくてね」
「当代、あぁ、あの『ハウリなんとか』の亡くなった父親ですか」
長くてめんどくさい名前だからなー。
「そうだね。その当代が、あの魔道具の運用、制作指揮をしていたと聞いているんだよ」
「あれま」
あの魔道具というのは『魔石中和法魔道具』のことだろう。
「どっちにしてもですね、勇者でもなんでもない一般人の俺の犠牲になって、亡くなったことが許されないとかなんとか。ね? ロザリエールさん」
「えぇ、そうでございましたね」
召喚されたときに、俺は魔法陣の外に落っこちて、高い位置から踏んづけてしまったのを付け加える。
「だから言っただろう? 『貴族とはそういう生き物もいる』んだって、ね?」
「はい。これがそうかー、って呆れました。とっ捕まえて、縛り上げて、刺したり折ったり踏み抜いたり、死ぬほど痛い目に遭わせても――あぁ、ちゃんと回復させたので、擦り傷一つ残しませんでしたけど」
「この温厚そうなソウトメ殿が、そんな残忍なことをしたのかい?」
プライヴィアさんは、ロザリエールさんに聞いた。すると彼女は。
「えぇ、ドン引きでございました」
「あははは。それは愉快だ。……でもね、ロザリアさん。彼は、自分のことだけならその場から逃げだして、我関せずを決め込むと思うよ?」
「そうでしょうか?」
「おそらくはね、君のために怒ったんだと思うんだ」
「ちょ」
ネタバレイクナイ。勘弁してちょうだい。
「ソウトメ殿は、そんなことを言ってなかったかい?」
「こほん、……『あのさ? うちの大事なロザリアさんに何してくれてんのよ? 切羽詰まった彼女の状況を弄んで、楽しいか? ん? 答えろよ?』と……」
「ちょ、ロザリエールさんってば、やめてっ、お願いだから勘弁してっ」
死体蹴りだよ、死体蹴り。声まねまでして、再現しなくてもいいじゃないの? 微妙に似てるのが恥ずかしいよっ。
「なるほどなるほど、大事にされてるねぇ」
だからにんまり笑わないでくださいってば、プライヴィアさん。あぁ、リズレイリアさんまで……。
「はい、嬉しゅうございます」
だ、駄目だ。早く話を戻さないと。
「そそそ、それでですね。気持ち悪いくらいに心が折れなくて、……結局決定打になったのは、プライヴィアさんの書いてくれた委任状だったわけです、はい」
「そうだろうそうだろう、うんうん」
プライヴィアさんが言うとおり、貴族って気味の悪い生き物もいるもんだ。俺たちとは考え方が違う。攻める方向性も違うってことなんだな。
「プライヴィアさんは、『魔石中和法魔道具』を知っていますよね?」
「さっき君たちが言ってたやつだろう? もちろん知ってるよ。やたら高いだけで効果の低いあれだよね?」
「まじですか」
「そうだよ。以前、ワッターヒルズにも売り込みにきたんだけどね、金額以上の効果を感じられないから、断ったんだ」
「効果が低かったんですか?」
「あのね、このダイオラーデンとワッターヒルズではね、悪素の影響が違いすぎるのを知らないんだろうね。それこそ、倍以上は違うはずだよ。それにね、買い取りじゃなく貸与なんだ。年額にして金貨20000枚だよ? とてもじゃないけど割に合わないさ」
「まじですかー」
買い取りじゃなく、貸与。レンタル、リース契約かよ。それに、こっちとワッターヒルズでは、水などに含まれる悪素の含有量が違いすぎるのか。だから悪素毒被害もあっちのが大きかった。
あれ? ちょっと待て。もしだよ? ロザリエールさんがあの魔道具を手に入れたとして……。あ、ロザリエールさんを見たら、暗い顔してる。
「だ、大丈夫だから。あんな魔道具より俺がいるからさ」
「は、はい。ありがとうございます」
「何のことだろうね?」
「いえ、色々あるんですがこっちのことです。それよりもですね、この国の魔道具が、魔石の高騰が理由とかで、昨年末から動いていないかもしれないって、リズレイリアさんから聞いたんです」
「ほほぅ……」
プライヴィアさんが怪訝そうな表情になった。
「国全体が滅んでいくなら、仕方のないことでしょう。この世界にも、あり得ない話ではないでしょうから」
俺は『ごめん』という気持ちを持って、ロザリエールさんを見た。彼女はかぶりを振って、柔らかく微笑んでくれたんだ。
「ですが、この国の、貴族と王族には、ある疑惑が考えられたんです」
「それはなんだろう?」
「はい。俺が巻き込まれた『勇者召喚』という儀式ですが、もしかしたら、自分たちが生き残るためだけに行われたのではないかというものです」
「それはどういうことだろうね?」
「召喚する勇者を見つける条件が『光属性と聖属性の者』だった。その二つの属性があれば、勇者だと聞かされたんです。空間属性と回復属性しか持ってなかった俺が、勇者ではないと断定されたのがその理由でした」
「なるほどね」
「俺の他に、勇者になった少年がひとり、少女がふたりいます。少年は光属性、少女二人は聖属性を持っていました」
「確かに。過去に人族が召喚したと記録に残る条件がそうだったと、私も昔、読んだことがあるね」
「そうなんですね」
「あぁ。彼らの子孫はいたとしても、もう、何百年も前の話だからね」
「なるほどです。それでですね、『ハウリなんとか』の責任を問うために、国王に会ったんです」
「うん」
「国王にも、プライヴィアさんの名前を借りて、脅しておきました」
「あははは。それは愉快だね」
「はい。溜飲が少しだけ下がりました。その際、『相応の処分を検討する』と返事はもらったんです」
「それはなによりだよ」
「問題はそこに至る前、謁見の準備が整うまで待合室に通されたんです。そこで、勇者になった三人と再会しました」
「元気にしていたのかい?」
「はい。もしかしたら、奴隷のような扱いを受けちゃいないか? それだけが、心配だったんです。過去に、『そういう物語』を読んだことがありますから……」
「世知辛いお話だね」
「はい。見た感じ、首輪も腕輪も、足枷も、それらしいものは見当たりませんでした。もちろん、辛い目に、酷い目に遭ったりしてない? と聞いてもみたいです。それは杞憂でした」
「そうなんだね」
「いえ、ここからが大問題でした」
「ほぅ?」
「心配しすぎかもしれないとは思ったんですが、少女のひとりのほうの手を見せてもらったんです」
「もしや?」
「はい。その通りでした。彼女の爪と皮膚の間に、わずかでしたが黒ずみが、悪素毒の浸食跡がみられたんです」
「なんてこった……」
プライヴィアさんにはなんとなく理由がわかったんだろう。俺と同じように悔しがってくれてる。
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