第187話 プレゼントとチートとお見送り。
「あのね兄さん」
「うん」
「朝也くんもね、誕生日同じなのよ」
ホームに連れられてきたとき、親がいないんじゃそうなるよな。
「あぁ、そういうことか」
「そっそ。麻夜たちがホームに預けられたのが今日。だからね、麻夜たちの誕生日も今日なわけね。朝也くんがホームに来たときも同じくらいだったそうだから、それなら一緒に祝おうってなったわけ」
「なるほど。プレゼント用意できてないんだよな。もっと早く教えてくれてたらよかったんだけど、……あ、そうだ」
「どしたの?」
「麻夜ちゃん、麻昼ちゃん、朝也くん」
「どしたの? 兄さん」
「なんでしょう? おじさん」
「なんですか? おじさん」
「虫歯、ある?」
三人ともあったみたい。こればっかりは生まれ育った初期の運なんだよね。
そのあと即席歯医者さんが始まったけど、『
「うーわ。兄さんマジチート」
「甘いものが染みて染みて、……こちらでどうやって治そうかと、これだけは悩んでいたんです」
「やたっ、これでもう堅いもの噛んでも怖くない」
歯の矯正はできないけど、元には戻せるんだ。三人とも、甘いものや堅いものを我慢してたらしいんだよね。麻夜ちゃんに至っては、魔法で痛みを散らしてるらしいし。
「あの、おじさん」
朝也くんが手招きをするんだ。どこか相談あるのかな?
「ん?」
「その、僕の、あれがですね……」
察した。光の速さで察した。うん。確かにそう思ったけど。俺はかろうじてセーフだけど。残念なんだ。この魔法はそうじゃないんだ。
「うん、わかった。皆まで言わなくてもいいよ。でもね、再生はできるけど、矯正は無理なんだ。そこまで便利な魔法じゃないから、さ」
朝也くんのあれがどの程度なのか見ないとわからないけど。それにこの世界に割礼という習慣があるかどうか。実にナイーブな問題だったりするんだよね。
無痛手術は可能だろうけど、切りかた知らないし。切ったそばから変に癒着したらまずいだろうし。加減が効かない駄目な魔法にも思えてくるんだよな。
「……はい、そうなんですね。とりあえず自分でなんとかしてみます」
「どうしても駄目なら相談に乗るよ。一緒に考えよう」
「ありがとうございます……」
前向きだ。実に前向きだよ朝也くん、それはきっと年齢とともになんとかなると思うんだ。どうしても駄目だったら、なんとか考えようね。
イケメンリア充な朝也くんにも悩みありか。天は三物以上は与えないものなんだね。うんうん。負け惜しみじゃないからな?
コーベックさんの作ったウォーターサーバ型魔道具と、回復属性持ちの魔法で微妙に釣り合いのとれた悪素毒対策。このスイグレーフェンはなんとかそれで乗り切っていけそう。時折こうして俺たちが訪れては、悪素毒を麻夜ちゃんの経験値に換えるだけでいいと思うんだ。
こうして一泊二日という短い滞在になったけど、俺と麻夜ちゃんは二人に見送られてスイグレーフェンを飛び立った。
「寒くなったね-」
こうして空を飛んでると、遠くの高い山が真っ白になってるのがわかるんだ。ついでに上空はかなり空気が冷たい。
「スマホでは四月なのにねー」
あっちの世界とこっちの世界では四季にずれが生じていた。あっちも秋でこっちもそんな感じだったんだけど、やたらと冬が長いんだよ。
「たぶんね、この惑星の公転周期が影響してるんだと思うのよねん」
「え?」
「麻夜はわかるのだ」
「うーわ、そこまでわかるの?」
「んむ。ちなみに、例の『個人情報表示謎システム』ではね、一日の時間を補正してくれているっぽいけど」
「え?」
「実際は26時間くらいあってね、24で割って補正してくれてるみたいなのよねん」
「え゛?」
「ついでにね、一年は932日あるっぽい」
「まじですかー」
「スマホにはね、あちらではどれだけ経ってるのか差分表示をしてくれるモードがあるから」
「あるんかい?」
「んむ。だから今日は麻夜の誕生日だったってことなのよん」
「まじですかー」
「麻夜には丸見えだったのです。はい」
鑑定凄すぎ。まじチートだよわ。
「ついでにねん」
「ん?」
「アレシヲンたんたちも、レベルが上がってるから」
「レベルあるんかい?」
「アレシヲンたんも、セントレナたんもね」
「ん」
「竜属性持ってるのよん」
「竜属性って?」
「種族的な属性だと思う。さすが飛竜になっただけはあるのよねん」
「あ、そうなんだ」
これだけ大きな体格をどうやって浮遊させてたのか、そういうものがあったってことなんだ。竜の属性か、色々と幅広いんだな。
「もちろん、各部ステータスも上がってるから」
風属性にもジャンルがあるってことか。もしくは種族の補正みたいな?
「それが見えるのはとんでもないね」
「んむ。だからこんなに速く飛べるようになったのよねん。まぁ、兄さんが治したのもあるんだけど」
「もしかして『リジェネレート』かけたときかな」
あのときから確かに、見違えるほど速く高く飛べるようになったから。プライヴィア母さんも驚いてたもんな。
「たぶんねー、でも」
「ん?」
「残念なお知らせがあります」
「な、何が?」
「セントレナたんは主人が兄さんなのに、アレシヲンたんは麻夜じゃなくてお母さんなのですよ……」
「そんなことまで見られるのか」
「お母さんはあくまでアレシヲンたんを貸してくれただけ。麻夜は麻夜の走竜たんをもらえ、そういうことなのかなぁ……」
プレゼントにはならなかったってことか。そりゃプライヴィア母さんだっていざというときに移動手段がなくなると困るから。それはわからないでもないわ。
『ぐぅ』
「あ、ほら。ワッターヒルズ見えてきたよ」
「そうだね。お疲れさん。セントレナ、アレシヲン」
『くぅ』
『ぐぅ』
「『ぜんぜん疲れてないよ』だって。セントレナたんは『寒くなかった?』って心配してるですよ、兄さん」
「ちょっと待って、翻訳機能まであるの?」
「昨日の夜にね、レベル5に上がってたのよん。完全じゃないけど、近いものは手に入れたのです。はい」
「うわ。まじか。俺はなんとなくわかる程度なのに」
「だからさっきね、アレシヲンたんが『ごめんね』してくれたのですよ……」
「なるほど。それは仕方ないと思うぞ。母さんだってまだあちこちいかなきゃだから」
「それはわかってはいるんだけどねん」
ワッターヒルズ上空から直接屋敷の庭へ。すると俺たちが来ることを飛文鳥で送ったわけじゃないのに、下で迎える人影があったんだ。
「お疲れ様でございます。お館様、麻夜様」
「あ、コーベックさん。お疲れー」
「お疲れ様なのですよん」
「例の魔道具解析の件ですが」
「おぉ、早速?」
「いえ、その。お願いがございまして」
なんだろう? 珍しいな。いつも謙虚なコーベックさんがお願いとか。
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