第112話 さて、俺の出番だ。
プライヴィアさんがドアを開けると、中には嗅いだことがない匂いが漂ってくる。でもすごくいい香り。見ると、お香が焚かれてるみたいだ。
天蓋付きのベッド。あぁこれはきっと、あっちから来た人が伝えたんだなと思ったよ。いかにもというベッドだったから。思ったよりも俺、落ち着いてるな……。
ベッドに眠ってるのは、マイラヴィルナさんだね。プライヴィアさんと比べると、二回り以上も小さくてすごく幼く見える。まるで『眠りの森の美少女』だよ。目元が似てるかな? でも俺より年上なはず。それは間違いないだろうね。
お腹の上に手が組まれるようにされてる。もちろん、目はしっかりと閉じられてる。眉から感じる表情は、やや辛そうな感じがするな。
幸いここには俺たち以外いない。ある意味助かったよ。
「ロザリエールさん」
「はい。鍵は閉めてあります」
「さっすが」
「お褒めにあずかり光栄にございます」
俺はロザリエールさんと麻夜ちゃんに手招きをした。ふたりはすぐに近寄ってくれる。
「俺が蘇生させるからさ」
「はい」
「うん」
「そのあと服を脱がせてさ、隅々まで調べて欲しいんだ。麻夜ちゃんは同時に鑑定して詳しい状況もお願い。すぐに治してしまうとさ、駄目なんだよ。原因がはっきりしないとまたこうならないとも限らないから。その間俺はもちろんあの部屋に入ってるから」
指差した先にはドアがある。おそらくはね、マイラヴィルナさんの服とか私物が置かれてるウォークインクローゼットみたいな部屋だと思うんだ。
「わかりました」
「りょーかい」
「プライヴィアさんたちにはさ、ロザリエールさんから説明してくれる?」
「お任せください」
確か、あの旧ダイオラーデンの阿呆どもも、死んでそんなに時間が経ってないはず。3人蘇生して、軽くふらっとしたくらいだから。まぁ、なんとかなるでしょ?
インベントリからマナ茶を取り出し一気飲み。
「『
よし、準備完了。
「じゃ、始めます」
「頼んだよ」
そう言う
「大丈夫、任せてください」
ロザリエールさんを見ると頷いてる。麻夜ちゃん、サムズアップは違うでしょう?
俺はそっとマイラヴィルナさんに近寄る。組まれた手に上から両手で覆うようにする。『個人情報表示』謎システムに見える魔素残量を見て思ったんだ。さて、どれくらい持っていかれるかな?
「『
あ、顔色が戻った。呼吸も戻ったっぽいからか、胸元がゆっくりと上下してる。まぶたも動いた。とりあえず大丈夫っしょ?
「これでいいでしょ。んじゃ、ロザリエールさん、麻夜ちゃん。あとはお願い」
「はい」
「あいよっ」
俺はドアを開けて、隣の部屋に入ってすぐにドアを閉めた。……あー、ウォークインクローゼットじゃなく掃除用具置き場でした。なんでまたこうなのよ……。
この部屋専用の道具があるわけね。シーツなんかも棚にストックされてるよ。身動き取れないくらい狭くなくてよかったわ。
▼
『ぺこん』
「――うぁっ」
寝てた? それもしゃがんだまま? あ、ポケットにスマホ入れてたんだ。
『聞き取り終わったなう。出てきていいよー』
ロザリエールさんもいるし、プライヴィアさんも、ダンナヴィナさんもいるんだし。でもとりあえず、確認しとくか。
俺はドアを叩いた。『どんどんどん』と音がするように。そっと透き間を開けておいて。
「出てもいいですかー」
「あぁ、大丈夫だよ」
プライヴィアさんの返事だ。良かったよ。それでもゆっくりドアを開ける。透き間から大丈夫かどうかを確認しながらね。ラッキーなんとか系のどっきりとか、この場ではさすがに勘弁だからさ。
うわー、みんな駄目な子を見る目で俺を見てるよ。なんでだろう? なんとも生暖かい。
「あの、出ても大丈夫と言われたので、出てきたんですけどー」
あぁ、よかった。マイラヴィルナさん、服着てた。さっきまでのパジャマっぽいやつだけどね。
俺はとぼとぼと、ベッドの前へ。あ、椅子を用意してくれたんだ。
「椅子、ありがとうございます」
どっこいしょと座って、マイラヴィルナさんの顔色をみる。痛みは消えてるだろうから、穏やかというか不思議そうな表情してるというか。ま、仕方ないよね。
「マイラヴィルナさん」
「はい?」
「ご自分が亡くなったということは覚えていますか? おそらく記憶はあったと思うのですがね」
「はい。姉さんより伺いました。あなたに蘇生していただいたのですよね?」
「えぇ、そうです。んー、マイラヴィルナさんが亡くなって半ひとつ時」
「はい」
「現在痛みは消えていると思いますがどうですか?」
「そうですね。痛みは感じません」
「よかったです。ただそれは、一時的なものです。ひとつ時持つか、ふたつ時持つかはわかりません」
「はい」
俺は麻夜ちゃんを手招きした。麻夜ちゃんは椅子を持って俺の隣りに座った。
「彼女は、俺の家族で、妹みたいな子です」
「挨拶はしたよー?」
「そなの?」
「うんっ」
「なら話は早い。どうだった?」
「うん。はっきり言っちゃっていいの?」
「そりゃそうだよ。そのために、隅々まで調べてもらったんだからさ」
あぁ、スマホにメモしてたわけね。
「えっと。右足、つま先から股関節の付け根手前2センチあたりまで。左足、つま先から股関節の付け根手前3センチあたりまで」
「うわー……」
「右腕、二の腕の半分あたりまで。左腕、脇のあたりまで」
「まじですかー」
「うん。まだまだいくよ。背中、まだらに黒ずみあり。お腹、おなじくらい。パンツの下聞く?」
「いや、そこまでは、遠慮します」
「おっけ。これが見た目ね」
「うん」
「鑑定結果は、身体の56%が
麻夜ちゃんの声は、かなーり呆れてる。そりゃそうだろう。俺も、今までみた人で一番酷いんだから。
「プライヴィアさん」
「なんだい?」
「お二人以外にご
「2人だけだよ」
「ご両親は?」
「悪素毒でね、30年ほど前に」
「そうだったんですね」
寿命じゃないのに、亡くなったのか……。ロザリエールさんのご両親と同じだよ。もうそういうのは嫌だ。
「マイラヴィルナさん」
「は、はいっ」
「今年の初めくらいは、指先どの程度でした?」
「……はい。2つ目の間接まで黒くなっていました」
プライヴィアさんが、立ち上がりそうになったけど、俺が手で制したんだ。
「おじさん」
「ん?」
「麻夜ね、もしかしたらマイラヴィルナさんみたいになってたかもしれないんだよね」
「どうして?」
「だってさ、マイラヴィルナさん、聖属性魔法持ってるでしょう?」
「……なぜ、それを?」
「うん。見えちゃうんだ。麻夜ね、こうみえても、違う世界から来た勇者だった、からねー」
マイラヴィルナさんはプライヴィアさんを見た。すると彼女は、肩をすくめて『あぁ、間違いないよ』という。
「そっか。確か、『聖化』だっけ? 水を清める、いわゆる『聖水』をつくることができる初期の魔法だっけか?」
「うん。あれは嫌な作業だったなー」
あれがそうだったんだね。どうりで、水が綺麗だったわけだ。
「俺も、この世界の人間じゃないんです。だからこうして、マイラヴィルナさんを蘇生するまでに至った。回復属性魔法のレベルを、一応最高レベルまで上げることができたんだと思います」
「ほほぅ。そのせいもあったんだね?」
「そのあたりは、また後日。えっと、厨房の水、水差しの水。グラスの水。麻夜ちゃんが調べたところ、悪素が感じられなかったんです。だからこちらへ来る前に、ふたりで『おかしい』って悩んだんですよ。これで繋がりました」
あー。マイラヴィルナさん、めっちゃ俯いちゃったよ。
「マイラヴィルナ」
「はい。姉さん」
「龍人族との間に交わした『約定』は、どうなったんだい?」
「あー、
怒っちゃ駄目よ? という感じにおどけて見せた。
「あぁ、ごめんね。そうだった」
「とにかく、原因はなんとなくわかりました。さっさと治しちゃいましょう。『
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