第176話 敵の拠点を叩いて壊す虎姫様。

「そういやベルベさん」


 麻夜ちゃんの家臣のひとり、猫人族の忍者でいいよね。そのベルベリーグルさんに話しかける。


「はい。なんでございましょう?」


 俺の呼びかけにも応えてくれる。嬉しいね。ジャムさんに俺も一人、……ロザリエールさんに怒られるからやらないけどさ。でも相談してみよっかなー。男の人がいいんですよー、気軽に頼めるからさー。


「母さんを含め、俺たちの匂いって今回は相手に」

「はい。筒抜けでございますね」


 ですよねー。相手も獣人、狼人族だもん。


「……ということは」

「大騒ぎになっているかと、思います」

「うーわ。それで、ここに残ってる人数はどれくらい?」

「はい。おおよそですが100人ほどになるかと思われます」

「なるほどね。王家と上位貴族、その取り巻きで100人。それを1000人が支えてた。そりゃあジリ貧になるわけだわ」

「あぁ、全くだよ。国の運営に失敗しているとはまさにこのことを言うんだ。あのダイオラーデンの二の舞だね」


 プライヴィア母さんが『やれやれ』という感じに肩をすくめて呆れたような声で言うんだ。

 確かに残ってる人数も、ダイオラーデンと似たり寄ったり。環境的にはこっちのが酷いから、なんともうーん……。あまり考えないようにしないと。また麻夜ちゃんに心配させて、ロザリエールさんに怒られるわ。


「なんとも辛辣なご意見、ありがとうございます。母さん」

「どういたしまして」

「麻夜、よくわかんないー」

「わかってる癖して」

「えー」


 麻夜ちゃんほど計算高い子ならわからないわけがないでしょ?


 城下を練り歩くこと二十分ほど。本当に誰もいなかったよ。ブラックな環境と悪素毒からの解放。天秤にかけたらこのざまだね。


「さて、百対二。やれるかい? マヤくん」

「兄さんのサポートありなら余裕ですよ、お母さん」


 あっちの世界、MMOゲームで遊んでいたとき。二人で特攻した『無限湧きモンスターボックス』に比べたら、数的には確かに余裕だけど。いいのか? それで。


「じゃ、母さん、麻夜ちゃん。これ飲んで」

「なんだいこれは? あぁ。マナ茶だね」

「うんうん。甘くて美味しいよねー」


 二人が飲んでいる間に俺は『マナ・リカバー』をかけておく。


「おー。これはフルバフ状態」

「どういうことかな?」

「いくら魔素を使ってもすぐに回復しちゃうってことです。はい」

「なるほど。それは頼もしいね」


 なんでも、虎人族は種族特性があって、身体能力強化に魔素を使うらしいんだ。このプライヴィア母さんさ強化されたら、どうなっちゃうんだろうな? まじで。


「ほら、出てきたよ。さぁ、いこうか」

「はいっ」


 わらわらと騎士らしき姿が見える。皆剣を、槍を持ってるからる気十分なんだろうけどね。


「――『エア、カッター』っ!」

「え?」

「え?」


 横殴りに振り払われた麻夜ちゃんの右手。それはまるでプロレスの逆水平チョップのよう。既視感のある状況、あれは確かダイオラーデンでの戦闘だったはず。


 首が飛んだり、胴が真っ二つだったり。走ってきた、斬りかかろうとしていたはずの5人ほどがぐったり動かぬ『ただの屍』になってるわ……。

 あれって確か、風属性魔法の最低レベルのはず。初期は攻撃力あんなにないはずだから、どれだけレベル上げたんだか。


「てへっ」

「これが『あのときの』。なんとも頼もしい限りだよ」


 麻夜ちゃんの頭をぐりぐり撫でてる。プライヴィア母さんは気に入ったみたいだけど。


「『てへっ』じゃないでしょ? あーもう。あ、ベルベさんたちがもう動いてる。いやいや、あっちから来た人たちが二の足踏んでるよ……」


 ひっくり返して手足を縛ってる。確かに打ち合わせではそう指示したけどさ。誰もが俺の蘇生を見たことないはずなのに。


「俺、仕事してから行きますから。先行ってていいですよ」

「あぁ、頼むね」

「お願いね、兄さん」

「そうそう麻夜ちゃん。間違って死んだりしないようにね。もし死んだらスマホで撮って保存するからね?」

「それ嫌……。死なないようにしよっと。さぁいきましょう、お母さん」

「あぁ。マヤくん」


 のっしのっしと歩いてく。その姿はまるで、無双系ゲームの主人公、ふたりプレイの画面だわ。


「ジャムさんごめんね。うちの破壊神が」

「いえいえ。話には聞いていましたから」

「……あ、そこ、一緒にしないで。そうそうう離してね。融合すると怖いから」

「融合、といいま――」

「『リザレクト』」


 胴体真っ二つが、時計を巻き戻すように繋がっていく。


「おぉおおお。これがそうなんですね。生まれて始めて見ましたが、これはなんとも興味深いです」

「そうですね。では、私は麻夜様を追います」

「お願いね。ベルベさん」

「御意」


 しゃがんでは『リザレクト』を繰り返して、俺は二人を追った。万が一は起きても大丈夫だけど、やっぱり気持ちのよいものじゃないからね。


 二人を追いかけていくと、ベルベさんと同じ黒子さん服装をした人が俺を王城へ案内してくれた。通路を入るとあれま死屍累々。忙しそうに黒子さんが右往左往。


「タツマ様、こちらにございます」

「ちょっと待ってて、見える範囲でやっとかないとあとで面倒だからさ」


 ベルベリーグルさんが待ってた。彼の案内で進むとやはり死屍累々。彼に言ったとおり『リザレクト』をかけていく。見えない場所はあとでやればいいやと放っておくことにする。

 それなりに入り組んだ階段を上がったり下がったり。途中、破壊された物体が転がっていたりして『リザレクト』しつつ、やっと到着したのはちょっとした大広間。おそらくは謁見の間とかに使われるやつじゃないのかな? やたらと豪華な調度品や天井壁、床材。

 そこに立ってたのは二人だけ。我が家の破壊神、プライヴィア母さんと麻夜ちゃんだった。


「たいしたことなかったねー」

「まぁ、油断していたらこんなものだよ」


 二人ともつやつやテカテカ。やりきった感が伝わってくる。

 母さんの純白戦闘服ドレスは、白い部分が少ないくらいに返り血を浴びてる。遠目からだと白地にバラの花びらでも散らしたかのようなデザインになってるんだよ。

 麻夜ちゃんは基本遠距離だから汚れることはないにしても、満足そうな表情してる。どれだけ斬りまくってたんだか。二人ともおっかねー。


 ここに来るまで蘇生した人数は50人くらいだったかな? 見えない部分を含めると6~70人くらいだろう。何か会議が行われていたのかわからないけれど、30人はいそうだね。ベルベリーグルさんの報告からいえば、それくらい残っていたら辻褄があう勘定かな?


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