第175話 虎公爵様部隊進軍中。

「ベルベリーグルくん」

「はいっ、プライヴィア閣下」

「よくやってくれた。君の活躍なくしては、此度の作戦、成功はなかったと聞いてる」

「ありがたき幸せにございます」

「これからもうちのマヤくんを、よろしく頼むよ」

「はい。この命尽きるまで」


 重たい、重たいんだけどいいよな。かっくいい。でもそれ、忍者じゃなく騎士だって。あ、忍者もそうかな?


「さて、タツマくん」

「はい」

「ダイオラーデンの話は本当だと思っていいんだよね?」

「……あー。麻夜ちゃんとロザリエールさんがぬっころしたのを蘇生したやつですか?」

「あぁ、そうだとも」

「母さんも実際に見てるでしょう?」

「もちろん、再確認のためだよ」

「はい。この魔素が尽きるまで」

「兄さんパクりはかっこ悪い」


 麻夜ちゃんにツッコミ入れられた。仕方ないでしょ。ベルベリーグルさんが言ったさっきの『はい、この命尽きるまで』がさ、俺的にすっごくかっこよかったんだかららさ……。


「ちぇーっ」

「あはははは。さて、タツマくん、マヤくん」

「はい」

「なんでしょ?」

「打って出るよ」

「は?」

「処すの? お母さんもしかして処すの?」


 麻夜ちゃん興奮しすぎ。フラストレーション溜まってるのはわかるけどさ。


「あぁ明日、落とすよ」

「まじですかー」

「処すの? まじで処すのね?」


 うーわ。プライヴィア母さんと麻夜ちゃん。まるで魔王とその側近だわ。ロザリエールさんもダンナ母さんもドン引きしてる。レナさんもベルベさんもちょっと引き気味。


「混ざらなきゃいいけどなぁ」


 あ、ロザリエールさん、俺見てドン引きしてる。


「混ざると危険な煙が出るの?」

「麻夜ちゃんそれ違うから」


 ▼


「うわぁ、兄さん兄さん」

「うん。かっこいいわ」


 プライヴィア母さんの戦闘服。これがまた凄いんだ。純白のドレスに純白の外套。普段スカート履かないからか、下には白い細身のズボン。身体が大きくて筋肉質だけど、スタイルはもの凄くいいみたいなんだ。だから似合ってる。それで『ザ・女王陛下』みたいな威厳があるんだよ。


「でもお母さん、なんで純白なのん?」

「あぁ、これを赤く染めてこそ、国を力で牽引し、民を守るという証になるだろう?」

「うーわ、それはちょっと」

「あ、兄さん、ダンナお母さんがドン引きしてる」

「うん。ロザリエールさんも、あ、マイラさんは苦笑してるよ。知ってるんだね多分」

「ところで麻夜ちゃんその衣装」


 病み系魔法少女みたいなダークパープルのゴスロリ風味。


「えへへー。ダンナお母さんとロザリエールさんに縫ってもらったんだー」


 くるくると回って俺に見せてる。


「うん。似合ってはいるけど」

「あー大丈夫、履いてるから」


 ひょいとスカート持ち上げて、俺にスパッツ見せるんだよ。黒のね。


「駄目でしょ? 女の子がそんなことしちゃ」

「アクションシーンありはこれが定番でしょ?」


 悪びれることなくけろっとしてる。


「それはさておき、なんで病み系なの?」

「なんとなく、かな?」


 さておき、打って出るのは、プライヴィア母さん、麻夜ちゃん。回復補助に俺、ジャムさん、ベルベさん。この5人だけ。この精鋭部隊で打って出ることになったんだ。

 プライヴィア母さんはとりあえず置いといて、麻夜ちゃんは言わずもがな。ジャムさんは猫人さん部隊を引き連れて色々と援護してくれる。一番の被害者でもあるから文句を言いたいと言ってたから。ベルベさんは道案内だね。

 ロザリエールさんはプライヴィア母さんが彼女の魔法を知ってるからか、『戦況を決めてしまうのは面白くないからね』とお留守番。ダンナ母さん、マイラ陛下と一緒に夕飯作って待ってるってさ、……ってことは夕飯前に終わるってこと?


 ジャムさんがいない間、色々と忙しくなってしまったギルドの実務はクメイリアーナさんが請け負ってくれている。『なぜ私が?』と言っていたのは仕方のないこと。いる人を使うのがプライヴィア母さんだからね。


 二台の馬車に分乗してウェアエルズへ向かう。その間、俺も麻夜ちゃんも疑問に思っていたことがあったんだ。


「ねねね、お母さん」

「なんだね? マヤくん」

「お母さんの得物、何なのかな?」

「やっぱり気になるよね。うんうん」

「得物、……あぁ、武具のことかな? 我々虎人族には、これがあるからね」


 いつもは優しいプライヴィア母さんの指先に、ネコ科特有の爪が見えるんだ。そういえば前に、ジャムさんが見せてくれたっけ?


「これって」

「あぁ。我々は手に魔素を込めると、こうすることができる。なかなかにしてよく斬れるんだ。虎人族は古来から、戦闘種族だったのかもしれないね」


 こ、これは痛いかも……。麻夜ちゃんは横で逆水平チョップのような素振りをしてるし。殺る気満々だな……。


 あ、馬車が停まった。正門、誰もいないね。ゲーネアスさんたち勤務してないもんな。


「いいかい、マヤくん」

「はい。お母さん」

「ダイオラーデンでも同じだったと思うけどね、建物、調度品は傷をつけてはいけないよ?」

「はいっ。戦利品、麻夜たちのものになるからですよね?」


 落とすってあれだ。やっぱり国盗りだったのか。


「よくわかってるね。いい子だ」


 かいぐりかいぐり。撫でられてる。そういうものなの?


「逃げだそうとする者は、問答無用でやってもらって構わないよ」

「はいっ、お母さん」


 麻夜ちゃんの魔法による遠距離攻撃、期待してるんだろうね。


 二度抜けたことがある門を抜けると、確かに人っ子一人いない。気配も感じられない。


「べるさんべるさん」

「はい。麻夜様」

「気配、ある?」

「今のところ動く者はおりません」

「ありがとん」


 麻夜ちゃんの『ありがとん』で一度姿を消す。ベルベリーグルさん、プロだわ。


「プライヴィア閣下。あちらが伯爵家でございます」

「どうするかね? 王家は逃げやしないとは思うけど」

「空間属性持ってなければ、馬車じゃないと持ち出せないでしょう? 確か、魔石を管理しているのも伯爵家だと聞いてますからね」

「なんとも、あの報告を聞いて呆れたね。まさかあの魔道具を契約していただなんて」


 プライヴィア母さんが蹴飛ばして帰した旧ダイオラーデンの営業マンみたいな使者。そりゃあの枚数の金貨が毎年じゃ、……なるほどね。乱獲しないと間に合わないってか。


「協力者さんもその話をしていました。なんでも接待をさせられたとか。そこで『俺と麻夜ちゃんでダイオラーデンを潰した」と教えたらぽかーんとしていましたよ」

「そだねー」

「あはははは」


 豪快に笑うプライヴィア母さん。


「犬人族さんは、オオマス食べたかったんだそうです」

「そうだったんだね」

「ですが、食べると罰せられる法があったらしくて」

「なんてことだ……」

「埋めても腐ってしまうので、いつからか焼くしかなかったというわけだったんです」

「そうだったんだね。それにしてもあの匂いは」

「よだれ、出ますよね」

「うんうん」

「間違いない」


 相手の出方を探りつつ、目的の場所へ向かうプライヴィア母さん。全く緊張感のない会話が続いてたんだ。


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