第168話 優秀な家臣が増えていく麻夜ちゃん。
「はい。麻夜様を主人として支えるようにと命をいただきました」
「大丈夫なの?」
つい聞いてしまったってばよ。
「はい。私も驚きました。ですが私のようなものはまだ数名おります故」
「え? ベルベさん、麻夜のになったのん?」
「はい。そうでございます。ご主人様、いえ、外では麻夜様とお呼びしたらよろしいですね?」
「うんうんそだね-」
うわ、麻夜ちゃんにんまりしてるよ。あの表情、どこかで見たことあるな。
「詳しくは終わったらまたねということで、ベルベさん」
「はい。調査でございますね?」
「察してくれるの嬉しいのよん」
麻夜ちゃんはゲーネアスさんからもらった手書きの地図を手渡した。
「ここ、調べられる?」
「はい。何が気になっておいでですか?」
「あのね、『ただの水を売ろうとしているのか?』とね、『魔石の行き先』」
「かしこまりました。明日の朝までお時間をいただけたなら」
「お願いねん」
「かしこまりました」
「そこは『御意』でしょ?」
「御意」
麻夜ちゃんの満足げな表情を見たからか、ドラマで見た忍者のように、あっさり消えるベルベリーグルさん。
「うっは、メイドさんだけじゃなく、忍者さんも手に入れてしまったのですよん」
「なんとまぁ麻夜ちゃんらしいというかなんというか、……さておき。確かに調べるのはまず、魔石の行き先だもんな」
「そっそ」
「お役に立てず、申し訳ありません」
別にさ、ゲーネアスさんが謝る事じゃないでしょ?
「いやいや、できないことは仕方ないって。それよりもさ、ゲーネアスさんにはやって欲しいことがあるんだ」
「兄さん、何をしてもらうのん?」
「この国の王族ってさ、うちの母さん罵倒した人たちでしょ? 俺にとっても敵じゃないの?」
「うん。処す? 処すの? もしかして」
だから嬉しそうにしないの。
「いーや、もっと痛い目に遭ってもらう」
「……もしかしてあれ、やるのん?」
「ダイオラーデンでやろうとしてたことね。千人しかいないなら、ある日突然、……ね」
「うはー、まじですかー」
「今回はまじです」
俺たちはおそらく、悪代官と悪事を企む廻船問屋の表情になってるんだろうね。ゲーネアスさんはきょとんとしてるから。
「ゲーネアスさんはとにかく、口の堅い人役人さんを、ご家族全員出席でお呼びしてほしいわけ。名目はお茶会でも何でもいいから。それで会議をしたいわけよ」
「……タツマ様のお考え、わかるようになってきました」
「明日中でいいよ。こっちはこっちで調べてることがあるからさ」
「はい。かしこまりました」
ベルベリーグルさんの調査が朝までって言ってたもんね。それも含めて、評価するべきだと思うんだよ。
▼
昨夜のうちに、俺はこの屋敷にあった水瓶と、続けて肉も野菜も穀物も『デトキシ』したわけよ。麻夜ちゃんの鑑定で悪素が消えてるのを確認してから料理をしてもらったんだ。まぁ、前のダイオラーデンよりは美味しかったかな?
朝食を終えて、お茶をもらったあと、麻夜ちゃんの背後にベルベリーグルさんが現れたわけ。
「麻夜様」
「あいあい。ありがとねん。兄さんに報告お願いしまっす」
「それでどうだったの?」
「はい。タツマ様。屋敷の中には、エドナ湖より水を引いていまして」
「うんうん」
「大きな作業場のような部屋に繋がっています。そこにあるのはかなり大きな水瓶。その中にはこのような形の箱が沈んでおりました」
ベルベリーグルさんは手書きでさらさらっと、かなりリアルな絵を描いてくれる。あれ? どこかでみたことが……。
「あ、これ」
「うん。これってコーベックさんのとこで見たよ、兄さん」
「まじか。ダイオラーデンの『連続解毒効能魔道具』か」
『魔石中和法魔道具』と呼ばれていたやつね。
「それってお母さんが言ってた、年額金貨20000枚の?」
「そのはず。あーそれでか。オオマス乱獲までしないと、支払いが追いつかなくなって……」
「ダイオラーデンという名は覚えがあります。私がダイオラーデンよりいらしたという特使の方を接待いたしましたので」
「うわ、まじかー」
「まじですかー」
「酒癖が悪く、酔うと下品になる方だったので覚えています」
「あー、まじかー。あのね、ダイオラーデンって」
「はい」
「もうないんだわ」
「はい?」
「俺たちが潰したんだわ」
「え?」
「兄さんが潰しちゃった」
「いや、麻夜ちゃんもいたでしょ?」
「麻夜なにもしてないもーん」
「何を言うかな、この
「おほほほ」
「あのお噂は本当だったのですね?」
ベルベリーグルさん、興味津々。
「そだよ。麻夜とね、兄さんと、ロザリエールさんでやっちゃったのよん」
「私も参戦したかったです……」
ベルベリーグルさんもバトル系かよ。
「さておき、ゲーネアスさんのほうのご予定は?」
「はい。今日中にこの屋敷へ招待するつもりでございます」
「やってみせたら納得するだろうからね。心配ないと思うけどな」
「そだねー」
ゲーネアスさんの話では、伯爵より上はダメだけど、子爵クラスは話を聞いてくれる。同じようにブラックな使われ方をしてるみたいだからな……。
「あとさ、ベルベさん」
「はい、なんでございましょう?」
「母さんにね、この人を呼んでいて欲しいってお願いしてくれる?」
「……かしこまりました」
「数日あればいけるでしょ? 母さんのことだから、荷物にしてでも持ってきてくれるはず」
「兄さん、何気にひどくない?」
「だって俺も、どっちかと聞かれたら猫派だし」
「どっちか?」
「うん。好きなペットはと聞かれたら『は虫類』って答えるかな? だってかっこいいからねー」
「セントレナたん、アレシヲンたん、ど真ん中じゃないですかー」
「そだね」
▼
さてその晩。ゲーネアスさんの上司にあたる子爵家とその部下にあたる男爵家。その部下にあたる三人。各家の当主本人とその奥さんとお子さん。総勢三十人ほど。集まった集まった。
「ゲーネアスさん」
「はい」
「この中で一番発言力の強い人って誰?」
「はい。こちらの子爵閣下の奥方様です」
「うーわ。それならうん。確かに美人さんだけど、尻に敷かれてるのね」
「……はい」
肘までの長い手袋。あの下は結構大変なことになっているはず。
「では皆さん、今宵集まっていただいたのは他でもありません。皆さんにこの国を裏切ってもらうためなんです。もちろん、対価はお支払い致します」
うん。ザワついてきてるね。
「兄さん、ストレートすぎ。大草原」
「こほん。ゲーネアスさん、手を前に」
「はい」
ゲーネアスさんは手の指を開いて前にかざす。するとざわめきが一瞬止まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます