第115話 毒消し毒消し解毒毒消し。

 すごいな、これ。国宝級じゃないの? もしかして。


「『デトキシ』『デトキシ』『デトキシ』『デトキシ』『デトキシ』、……どう?」

「おー、悪素検出なっしんぐ」

「そりゃすっごい」

「あ、でも。少し先は70%」

「ですよねー」

「どうやって混ぜるかだね、とにかく手の届くところを解毒しちゃおう」


 小一時間後、貯水池を1周しながら『デトキシ解毒』連発。いやはや、5000人の1年分だから、とんでもなく大きい。深さも結構あるし。


「どう?」

「んー、深いところが80%、いあ、90%」

「そっかー、どうしよ……」


 深いったって、数メーターあるんだよ。棒を突っ込んで攪拌かくはんするわけにもいかない。マイラヴィルナさんはきっと、毎日やってたんだろうな……。


「おじさん、それ貸して?」

「これ?」


 俺は聖銀製の杖を麻夜ちゃんに渡した。すると麻夜ちゃんは、水に杖を突っ込んでなにやら狙いを定めてる。


「んっと、なんだっけ? あ、あったあった。『ウォーターバレット水弾』。……お、85%届いてるっぽい」

「え? 今のって」


 底の方が、一瞬だけ泡だったような気がしたんだ。


「うん。水属性魔法だよ。初歩の呪文のひとつ」


 あーそっか。麻夜ちゃんは全属性の魔法使えるんだっけ。


「これさ」

「ん?」

「俺が思うになんだけど、腐食しない何かにさ、魔法陣刻んで、解毒と攪拌繰り返したらいいんじゃないかな?」

「それ無理でしょ」

「へ?」

「どうやって悪素がなくなったって確認するのかな? かな?」

「……わたしが悪うございました」

「ふふふん」


 してやったりという表情の麻夜ちゃん。


「結局、あの魔道具をあちこちに設置する方が、現実的ってやつなんだね」

「そだねー。おじさんと麻夜がここに常駐するなら別だけど」

「あーでも、年に一度ならいけるんじゃない?」


 これまで小一時間の作業だったからね。


「水、減ったらまたやるの?」

「はい。浅はかでした。ごめんなさい」

「麻夜の勝ちっ」


 俺はプライヴィアさんに報告。結局、無駄ではなかったけれど、甘かったことを伝えたんだ。


「あのねぇ。タツマくんだって限界があるんだからさ」

「はい。甘かったです。とりあえず、貯水池の水は悪素がない状態までもっていきましたけど……」

「ほんとうに、君は……。あの貯水池はね、飲み水だけじゃなく、畑にも使うんだから。減ったら補充しなきゃいけないんだよ」

「やっぱり。……ところで、この国には何人の回復属性魔法使いがいるんです?」

「どうだったかな? ダンナ」


 あ、そか。ダンナさんってプライヴィアさんの秘書だっけ。


「はい。そうですね。5人はいるかと思います」

「へー、そんなに。それだけいたら、マイラヴィルナさん治療はできたんじゃないの?」

「あのね、タツマくん」

「はい?」

「君が規格外だって、気づいていないのかな?」

「え?」

「あのね、タツマちゃん」

「はい。ダンナさん」

「お母さんって……」

「はい、ダンナ母さん」

「うふふふ。嬉しいわ。あ、そうそう。実はねわたくしも、回復属性魔法を持っているんですよ」

「へ?」

「けれどね、まだ2なんです」

「レベル2ですか?」

「えぇ、そうですね」

「あれ? ちょっと待って。ダンナ母さんって、母さんより、年上って聞いてたんだけど」

「おじさん。ロザリエールさんに『女性の年を聞くものではありませんよ』って怒られちゃうよ?」

「あ、そうだった、ごめんなさい――ってあれ? ロザリエールさんは?」

「ロザリエールくんなら、マイラの部屋にいるよ」

「そうだったんですね」


 多分、友達にでもなったのかな? 同じような歳だから。


「タツマちゃん。わたくしはね、今年で153歳になるんですよ」


 プライヴィアさんよりも20歳年上ってこと? それなのに、レベル2?


「え? それならなんでそんなに……」

「あのね、さっきも言ったようにね。魔法のレベルというのはね、そうそう上がるものではないんだよ」

「え? 俺、治療してるだけでがっつり上がりましたけど?」

「だから君は、いや、君たちはこの世界から見たら規格外なんだと思うよ」


 麻夜ちゃんみたら、うんうんしてる。そっか、麻夜ちゃんも上がりやすいんだ。


「そっか、俺、変だったんだ」

「うん。おじさんは変だよね」

「いや、麻夜ちゃんも同じだって」

「あーれれー? おっかしーなー?」


 俺なんてまともに使えるの回復属性魔法だけなんだから。聖属性と四属性、鑑定まで使えるのはもっとお化けだってばさ。


「まぁいいや。そしたらうん。麻夜ちゃん」

「はいな」

「『あれ』何個持ってきてる?」

「んっと、3つ?」

「それなら厨房にひとつ置いておこっか。ダンナ母さん、説明するから厨房に」

「はいはい」


 俺たち四人は、厨房へ。あぁ、ここもそうなんだ。魔石で動いてるらしいけど、くみ上げるだけの魔道具が裏で動いてるって聞いたっけ。解毒サーバ型魔道具を流し台の近くに設置してもらった。


「これはですね、上が水タンク、んー、水瓶になっていて、下をこうすると」


 グラスを取り出して、水を入れてみせる。ボタンぽちっ。


「これが解毒済みの水です。あーでも、これ駄目か」

「そうだねー。ここは90%だし、ワッターヒルズは50%だったからね」

「麻夜ちゃん、これしまっちゃっって」

「んもう、わがままだなー」


 どのアニメの台詞なんだ? それって。


「あのね。とにかく、調整し直さないと駄目なんですけど、水を解毒できる魔道具が、俺たちの家族で作れるようになったんです」

「……はい?」


 そりゃ驚くよね。ただ、悪素が取り除かれてたとしても、目に見えないからなぁ。


 ちょっとがっくりしながら、また食堂に戻ってきた。


「あ、そうだ。母さん」

「なんだい?」

「ここにもギルドはあるんですよね?」

「あぁあるとも」

「明日からしばらくの間、ここで治療をしますから」

「そうしてくれると助かるよ」

「タツマ様」


 振り向いたらロザリエールさんがいた。マイラヴィルナさんも一緒だわ。


「どしたの?」

「そろそろお昼の支度をしますので、ここの厨房を使っても大丈夫でしょうか?」

「大丈夫じゃないかな? 何か言われたら、……って誰も言わないと思うけどね」

「では、準備にかかりますね」

「では、あたくしはお昼の準備をしますので、また後ほど」

「あ、ロザリエールさん」


 こっち見ていつものお辞儀。顔を上げたとき、なぜかいつも以上の笑顔。そのまま厨房に行っちゃった。一緒に来たマイラヴィルナさんは、こっちに歩いてくるよ。


「タツマさん」

「はい、なんでしょ?」

「末永くよろしくお願いいたしますね」


 あれ? ロザリエールさんと同じ、スカートを両手でふわっと持ち上げてするお辞儀。俺が好きだって知ってるから、いつもやってくれるんだけど。同じお辞儀をするんだけど?


「え? ど、どういうこと?」

「ロザリエールさんとの秘密です」


 何やらものすごーく楽しそうにしてる。同時に、背筋がちょっとざわっとするんだけど。


『あのさ、麻夜ちゃん』

『なにかな?』

『ロザリエールさんって何気にコミュ力高過ぎね?』

『禿同』


 ネトゲ廃人な俺たちは、どっちかというとぼっち気質。こっちへきて異世界デビューしたのはいいけど、やっぱり素質って違うんだなって思ったよ。まじで。


 ちょっと遅めの昼食の後、俺はギルドに行こうとしたんだけど、ダンナさんに止められた。


「あのね、タツマちゃん」

「はい?」

「あなたはね、わたくしたちの息子、つまり王族なの。ただでさえ人間さんは目立つのに、王族のあなたが徒歩でお散歩してしまうと、騒ぎになったら困るでしょう?」

「そうなんですか?」


 なんだかんだ丸め込まれて、馬車に乗せられていまここという状態。


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