第114話 何年かぶりの姉妹の食事と……。
俺は格納した順番に、料理の盛られた皿を並べていく。テーブルにあったすべてのものを格納してきたからか、あっという間に賑やかな、良い匂いのテーブルに早変わり。パンも焼きたて。魚もそう。何もかもほくほくほかほか。
「これは見事なものだね」
「空間属性は、これが便利なんですよ。あ、ちょっと座って待っててください」
俺は厨房へ。そこには、ロザリエールさんがスープなどを温めなおしてた。
「ロザリエールさん」
「はい、なんでしょうか?」
「もう1人前って準備できそう? 全部で6人分になるように」
「余分に作ってありますから、大丈夫ですよ」
「助かった。ほら、マイラヴィルナさんがいるじゃない?」
「そうですね。準備しますので、食堂でお待ちください。麻夜さんもありがとうございます」
「いえいえー」
人数分の椅子を用意して、プライヴィアさんの隣りには俺の席じゃなく、マイラヴィルナさんの席にして。俺たちは4人並んで座るようにして、もう1人分の食事も準備してもらった。
湯浴みを終えて、着替えも済ませたまだ若き女王陛下。マイラヴィルナさんがダンナヴィナさんと一緒に食堂へやってきた。
「マイラ、ここへ座りなさい」
「はい。姉さん」
ロザリエールさん、俺、麻夜ちゃん、ダンナヴィナさんが並んで座った。グラスには、マイラヴィルナさんが清めたと思われる水じゃなく、俺がインベントリに入れて置いた果実水。これをしっかり解毒して、麻夜ちゃんにお墨付きをもらっためっちゃ安全な飲料水。インベントリのは全部解毒済みなんだよね。
プライヴィアさんが高くグラスを掲げる。
「では、マイラの復帰を祝って」
回復じゃなく復帰なのは、生き返ったからなんだろうね。
「「「「乾杯」」」」
「あ、ありがとうございます」
くいっと飲んで、驚くマイラヴィルナさん。おそらく知らないのは、ダンナヴィナさんとマイラヴィルナさんだけかな?
「それは、ワッターヒルズで売ってた果実水を、『俺が解毒した』ものです。もちろん、悪素はこれっぽっちも残っていませんよ?」
「……すべてバレていたのですね」
「はい。うちの家族がしっかりと調べてくれましたからね」
ロザリエールさんと麻夜ちゃんが笑ってる。
「あ、これ、すごく美味しいです」
それは、エビマヨ味のソースだね。旨いわけだよ。こっちにはない味だから。俺がお腹を痛めて生み出した、逸品だもんね……。あれは酷い目に遭った。
マイラヴィルナさんは確か、62歳になるっていってたっけ? ってことはさ、30年前にご両親が亡くなって、……成人がたしか、30歳くらいだっけか? 麻夜ちゃんくらいの年齢で即位したってことなんだろうな。
朝食が終わり、お茶を入れてもらって一息ついているとき。
「疑問に思ってるんですけど」
「なにかな?」
「なぜ、
麻夜ちゃんも、ロザリエールさんもうんうん。普通に考えたら、能力的にも年齢的にも、プライヴィアさんのほうがふさわしいような気がするんだけど。
「あのね、タツマくん」
「はい」
「王家にはね、子孫を残さねばならないという、義務があるんだ」
「それはそうですよね?」
「私はね、正直言えば、同年代と年上のね」
「はい」
「男性が苦手なんだ……」
「え?」
「毛嫌いという意味ではないんだ。ただ、子をなす行為が無理なんだ。私は男性よりも女性を好む傾向があってだね」
「え? それってもしや」
俺だってその、口には出せないけど、それ系のノベルも読んでたし、尊いと思うし……。口には出せないけど。
『とうとし……』
小声だからって聞こえてるよ、麻夜ちゃん……。
「だから、ダンナというパートナーを得ることになったんだよ」
「まじですかー」
あれ? おかしくないかい?
「俺はどうなるんです?」
「タツマくんはほら、まだ子供じゃないか? 100歳離れている私たちから見たら、君は小さな男の子、麻夜ちゃんも小さな女の子。私もダンナも、子供は大好きなんだよ。なぁ?」
「はい。そうでございますね」
子供ですかー。それなら納得するような、うーん。
「ロザリエールさん」
「はい」
「魔界の人って多いの?」
「そうですね。種族にもよるかとは思いますが、けっして少なくはありませんよ。それもまた、生き方のひとつでございますゆえ」
「そう、だったんだ……。世の中広いわ」
「タツマくんは、おかしいと思うかい?」
「いいえ。俺に母さんが2人できただけですから、俺は俺でぜんぜん問題はありませんけど。でもなんで、こうなるんです? あれ? そういえば、マイラヴィルナさんって、執事さんとかいないんですか?」
「あのね、タツマくん」
「はい」
「虎人族の王家はね、ある習わしがあるんだ」
「どんなものなんです?」
「パートナーはね、男性の執事や、女性の秘書を迎えるというのが昔からあるんだよ。例えば私なら、ダンナだよね?」
「あ、なるほど」
「マイラはまだ独身だから、執事を迎えてはいないんだ」
「あー、そういう意味だったんですか。ところでマイラさんは」
「わたくしは、普通ですよ。男性が好きです。もちろん、姉さんと、ダンナ姉様の関係は、微笑ましく思いますけどね」
あれ? 俺をじっと見て、目を反らしたと思ったらまた、上目遣いでじっと見てくるんだけど。
「あの、タツマさん」
タツマさん、って、あーそっか。俺は一応、マイラヴィルナさんの義理とはいえ甥になるのか。
「なんですか?」
「その、先ほどロザリエールさんにですね」
「はい」
「タツマさんの秘書だと伺ったのですが」
「はい、そうですね」
「その、奥様、なんですよね?」
「へ?」
ロザリエールさん、何か変なこと言ったの? 慌てて彼女を見たら、え? 俯いちゃってるんだけど?
「この国だとそうなるね。どうなんだい? タツマくん」
「いや、その、まだ、そういうわけじゃなくて。ロザリエールさんは俺の命の恩人だし」
「まだ、なのですね。……姉さん」
何をぶっちゃけちゃってるんだ? マイラヴィルナさん。
「なにかな?」
「わたくし、タツマ様の第二夫人になりたいですっ」
「へ? 第二夫人って?」
「側室のことだね。まぁそれは、タツマくん次第じゃないかな?」
「なんで第二夫人って、側室って?」
「だって、ロザリエールさんをいずれ、正室に迎えるということですよね? それならばわたくしは側室に迎えていただける可能性があるということではありませんか?」
「なななななな」
ロザリエールさん助けて、って見たら、うわ、まだ俯いてる。両手を組んで指をこねくりこねくりしてるってばよ。麻夜ちゃん、ニヤニヤしてこっち見てるし。
「タツマくんは私の息子とはいえ、血は繋がってはいないからね。友人の国、スイグレーフェンの大恩人であり、ワッターヒルズの人たちにとってもそうなんだ。私にとっても命の恩人のタツマくんを、他の国に取られでもしたら、一生後悔する。それならね、私の子供に迎えよう。そう思ったんだよね」
「そうだったのですね。それならぜひ、ロザリエールさんを正室にお迎えされた際には、わたくしを側室にということをお考えいただけませんか?」
「うあ、ちょ、まっ、あたまぐっちゃぐちゃ……」
「マイラ、元気になったからって、タツマくんをいじめてはいけないよ?」
「はい、すみません。姉さん」
ロザリエールさんがぽんこつ状態になってるし、俺もわけわかめ状態。どうすりゃいいのよ、これ?
▼
「麻夜ちゃん、どう?」
俺はエンズガルドの中央にある貯水池に来てるんだ。
「んっとねー。悪素含有率、70%ってところ?」
「んー、これを水に突っ込んでと」
俺が手に持ってるのは、長さ30センチくらいの杖。それも聖銀製ときたもんだ。聖銀ってミスリルでしょ? なんでも、魔法が伝わりやすいからってプライヴィアさんに渡されたんだよね。
「これなら直接触んないから飲み水としてもいいでしょ?」
「別にちゃんと手を洗えば、大丈夫だと思うんだけどねー」
「それはとりあえず、置いといて『
瞬間、杖全体が眩しいくらいに光った。
「うぉっ。な、なんだ?」
「ほっほー。杖の周りがね、50%になったよー」
「そりゃすっごい。えっと、インベントリから桶を出して、ちょっと汲んで手をしっかり洗ってっと。指先をつぷっと『デトキシ』。どう?」
「んー、34、……35%ってとこ? 増幅効果があるってことじゃん。さすミスリルってとこねー」
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