第230話 調査報告会。その2

「毒抜きってことはあれだ。2200メートルある場所には悪素が0ではないにしても登ってこられない。水は空から降ってくるけど、食べ物だけは降ってこない。だからここ、龍人族から取り上げるようにしてる。その野菜類には残ってる可能性が高いってことかな」


 前に俺たちが検証したのが合っているっぽい。みぞれっぽい雪からはほぼ悪素が検知されなかったことがあったから。


 けれど552メートルあるこの場所にも悪素は存在してる。エンズガルドとウェアエルズの間にある、あのエドナ湖の底にも存在してるっぽいし、どれだけの範囲が侵されてるのかまったく想像できないんだわ。


「うん。毒抜きさせてるってことはさ、悪素毒の怖さを知ってるってことだよね」

「だね。でもなんていうかさ、似てるよね。偉そうにしてるヤツらって」

「そうだねぃ」


 旧ダイオラーデンしかり、旧ウェアエルズしかり。麻夜ちゃんマジ呆れ顔。


「此度の調査ではその方法はわかりませんでした、……ですが、悪素毒検知の方法があるやもしれないと、某も思うのです」


 ベルベさんもそう思ってるってことか。確かにそこまで神経質な種族ならあり得る。魔法じゃなくても、魔道具か何かだろうなきっと。


「なるほどね。そういや麻夜ちゃん」

「兄上殿、皆までいわぬともわかっておりまする」


 ベルベさんの真似かもだね。麻夜ちゃんらしいわ。


「なんつ言い回ししてるのよ」

「んっとね。お野菜の含有量はエンズガルドよりは低め。多分公女殿下が頑張ったんだと思うのよ。それでも皆無じゃないから、食べ続けたら蓄積されると思う。麻夜は兄さんがいるから、そんなに考えなくなっんだけどさ」

「ベルベさん」

「はい、いかような?」

「ネータさんもだけどさ」

「はい。なんでございますか?」

「二人ともうちのマイラ陛下が一度死んでるの、知ってるよね?」


 ベルベさんとネータさん。見合って困った表情をしてるけど、うなづき合ってこっちを見たんだ。


「もちろんにございます」

「はい。存じております」

「それならさ、陛下より力が強いはずの公女殿下は、大丈夫なのかな?」


 大丈夫というのは、悪素毒を取り入れているという意味で。


「冬場ということもありまして、袖の長い着衣をされておりました。龍人族は指先に黒ずみが出ないとのことなものですから、判断に苦しいかと思われます」

「先に翼の根元だからね。その後はどこに出るのか、わかんない。とりあえず生きてるならどうにかなるとは思うけどね。ベルベさんみたいに」


 そう。ベルベさんは落ちて一度死んでるんだ。


「ベルベさん落ちて経験済みだもんねー」

「はい。先日は貴重な体験をさせていただき――」

「ベルベリーグル」

「はい。申し訳ございませぬ。姉上」


 やっぱり怒られたか。引き合いに出してごめんね、ベルベさん。


 ここはある意味身内しかいないからか、美味しいごはんを食べて油断してるベルベさんが嬉しそうに言うんだよ。


 ベルベさん的には、いい経験だったのかもだけれど、ネータさん的にはノーグッドなんだろうな。俺がいないところで無理したら、生き返る保証ないもんね。 


 でも間違いなくベルベさんは俺や麻夜ちゃんみたいな『検証せずにはいられないこっち』側の人。じゃなければ落ちるとわかってる高さまで登ろうとしないもんね。俺がいるから、落ちて死んでも大丈夫だと思ってたんだろうな、きっと。


「話を戻してもよろしいでしょうか?」

「ベルベリーグル、あなたが逸脱させたのでしょう?」

「はいっ、申し訳ございませぬ。姉上。……さらわれた方々なのですが――」


 ベルベさん、ネータさんが確認したところ、公女殿下と思われる女性を除いて六名。過去に未遂になった、ジャグさんの姪御さんを除いても、十一名いたって警備伯のアルビレートさんから聞いてる。


 とにかく明日にでも情報共有しなおさないと駄目かも。


「それって、そこにはたまたまいなかったとか、じゃないよね?」

「そうですね。わたくしたちですべての建物より、匂いを確かめましたので……」

「うわ、まじか」

「うん。これはもう駄目だね」


 攫われた女性たちから聞き取り調査をしたわけじゃない。だから本当にそうかはわからないけど。病気だったらおそらく、公女殿下がなんとかすると思うから。


「公女殿下の聖属性レベルがどれくらいかわからないけど、少なくとも実績から1ではないと思うんだ」

「そだね。1だと何もできないし、魔素もすぐに尽きちゃうと思うし」

「麻夜ちゃん」

「何?」

「『聖化』は1だったと思うけど、治療できるやつって」

「うん。『ホーリー・ケア聖なる手当て』だね。レベル1。『怪我や病を和らげる』って書いてあるから」

「なるほど。『リカバー初級回復呪文』みたいなものか。おそらく公女殿下もそれを使えるはず。怪我や病気でも簡単なものなら重ねがけで快方に向かわせることもできると思うんだよ」

「うん。兄さんの回復属性魔法と違って、チートじゃないから。聖属性魔法ってね」

「そのあたりは色々と言いたいこともあるけど、あとで討論するからここはとりあえず置いといて」

「うん。べるさん続きお願い」

「御意にございます、麻夜様。町のつくりに関してですが、建物は外から見ると石材で作られているようにございます。ですが内側から見ると木造。どこを見ても二階建て以上がありませぬ。おそらく、なんらかの技術で木造の建物を補強しているのかもしれませぬ――」


 ベルベさんが見た感じ、湖の手前にある森の木では建材にはならない。けれどあの高さまで地上から岩などの建材を持って行ったとは考えられない。おそらく、木材を持ち上げて飛んだのではないかと推測したそうなんだ。


 2000メートル超だと、俺たちの世界ならスキー場などがある地域だ。今はコンクリートでもその昔は木造だったはず。なるほどあり得るかもしれないね。


「……ていうことはあれかな? それってあの頂上にある地盤を掘って、魔法かなにかで建材に利用したとかってわけじゃ――」

「兄さん、脱線してるってば」

「あ、ごめん。ベルベさん続けて」


 ベルベさんは苦笑してるし。うわ、ネータさんが『あの目』で俺を見てるわ。やめて、恥ずかしいから……。


 今は麻夜ちゃんの言うとおりうん、脱線だわ。この寒い地域であの高地でどうやって家を建てているかなんて俺の知識欲でしかないわけだよね。


「先日伺った2000人という話でしたが、おそらく間違いではないかと」


 やっぱり2000人はいないってことか。


「どうやって、……まさか、建物ひとつずつ匂いで?」

「はい、左様にございます」

「まじですかー」

「まじですかー」


 ネータさんが何やら見取り図に書き込んでるかと思ったら。


「うわ、どるねーさんこれマジ?」

「はい。あくまでもおおよその位置関係ですけどね」


 道が書き込まれてるんだ。上空からじゃないのに、恐ろしく行き届いた調査なんだよ。


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