第229話 調査報告会。その1

 猫人族で忍者のような麻夜ちゃんの執事みたいなベルベリーグルさんと、彼の姉でロザリエールさん流免許皆伝で俺の専属でもある、侍女の皮を被った護衛のドルチュネータさん。二人の、宿とお風呂問題が解決した。


 今夜は高級宿飛粋の旦那さんで、料理人ゲナルエイドさんに作ってもらった晩ごはんを、お弁当形式で四人分用意してもらって、皆、俺の部屋でゆっくり晩ごはんを食べたんだ。


 主食部分がなんと、出汁で炊いたぽってり麦のおこわ。これがまたうまいんだわ。野菜の煮物がたっぷり。そこに主菜がなんと、鶏肉の照り焼風な、山鳥の焼き物なのよ。しょう油じゃないけど、色味の薄いそれっぽい味付けになってるんだ。


 長麦と呼ばれてる、長い米っぽい穀物の調理法はまだ思案中とのこと。なかなか納得いく味にならないらしいんだ。凄いよね、職人のこだわりってさ。


「麻夜ちゃん、相変わらずの味だったね。いや、うまかったわ」

「うんうん。麦のおこわ、美味しかったー。一番ふるさとの味に近いかもだよ。あ、ねねね、べるさんはどうだった?」

「はい、とてもお、美味しゅうございました」

「珍しい、べるさんが噛んでる」

「あははは。本当に美味しかったんだよ。ネータさんはどうだった?」

 麻夜ちゃんはベルベリーグルさんをべるさんと、ドルチュネータさんを俺はネータさんと呼んでるんだ。

「えぇ。先日まで食べていた、ベルベリーグルが買ってきたものとは比べものにならないほど、美味しかったです」


 ネータさんもご満悦。


 二人とも元は、冒険者ギルドエンズガルド支部の支配人、ジャムリーベルさんことジャムさんの家人だった。うちに来てから俺たちと一緒にプライヴィア母さんの屋敷でごはんを食べるようになったんだ。


 ジャムさんとこで食べていた味付けとは基本変わらないと思うんだよね。同じ魔族領の味つけだから。それでもダンナ母さんが取り仕切る厨房で、更にロザリエールさんが味を足してるから、舌が肥えちゃったのかもしれない。


 でもここはある意味別格。どちらかというと俺たちがいた世界の味付けに近いんだよ。魔族領とは思えない薄味だけど、しっかり下ごしらえができてるからね。


 そうだな、洋食と和食みたいな違いがあるかな。それでもこっちは商売で料理を作ってる。ダンナ母さんやロザリエールさんのはどちらかというと、家庭料理だからまた違うんだよね。


 何よりこの飛粋は超高級の宿らしいから、ベルベさんが買ってきたお店と比べちゃったら可愛そうだってばさ。値段も材料も違うんだろうからね。


 ベルベさんがいれてくれたお茶を飲んで、ほっと一息。


「それじゃ、報告いいかな?」

「ベルベリーグル」

「はい、姉上」


 ベルベさんは情報収集が専門。ネータさんは護衛が専門。だから今回はベルベさんの背中を守るかたちで潜り込んだとのことだった。


 まずは潜入してみて違和感を覚えたらしい。それは、前情報として天人族は2000人いると聞いていたけれど、そこまでいるとは思えないとのこと。こことどこかを行き来している者を含めてそう言ったのかもしれない。そういう話から始まったんだ。


「改めて報告となりますが、まずは誘拐されたと思われる、女性たちのことです――」


 ベルベたち猫人族は、プライヴィアたち虎人族などと同様、嗅覚が優れているんだ。そのため、どの建物にどれだけの人数がいるかなど、ある程度ならわかるんだって。


 潜入前に二人が確認したことがあって、それは龍人族と天人族の違い。


 フェイルラウドさんが先日教えてくれたこと。それは『天人族は肉を食べない』。その特徴をあらかじめ二人に教えてあったんだ。そしたらさ、匂いが全く違うんだって。


 そのせいもあって、さらわれた人の特定が思ったよりも早くできたらしいんだ。


「このあたりに比較的大きな建物があります。そこに幽閉されていました」


 前に俺たちが上空から写真を撮って、麻夜ちゃんが描いた、岩山の頂上の簡易的な図面。そこに印を書き入れていく。


「おそらくなのですが、攫われた女性は、公女殿下や麻夜様のような聖属性を持っているのかもしれません」

「べるさんどうして? 匂いじゃわかんないでしょ?」


 麻夜ちゃんが鋭いツッコミを入れたんだよね。まさにその通り。


「まさかベルベさん、あのスキル持ってるとか?」

「いえ、伝説の『鑑定』は私の一族に持つのはおりません」


 すぐにネータさんが否定するんだよ。どういうことなの? そしたら?


「実はですね」

「うん」

「うん」


 俺と麻夜ちゃんはちょっとだけ身を乗り出してたと思う。そりゃそうだって、どうやって属性を言い当てたか、そんな技があるなんてMMOにもなかったからさ。


「麻夜様、タツマ様。そんなに難しいことではないのです」

「というと?」

「そんなにもったいぶらないでってば、べるさん」

「良くない癖ですよ、ベルベリーグル」


 ネータさん、ちょっとドスの利いた声で注意してる。


「も、申し訳ございませぬ。姉上。実はですね、根菜に魔法をかけさせられていたのでございます」

「「は?」」


 ついに俺と麻夜ちゃんの声がハモっているし。


「タツマ様、麻夜様。あくまでも可能性論なのですよ。わたくしたちも、根菜に魔法をかける姿は生まれて始めて見るものですから」

「あ」

「兄さんのあれだ」

「うん。わかった。根菜に毒消しさせてたんだ」

「うん。『聖化』だね」


 俺の魔法なら『デトキシ』。麻夜ちゃんの魔法なら『聖化』。

 回復属性を持つ人が肉とか野菜とかから悪素毒を散らす作業を始めたって、スイグレーフェンでも聞いたっけ。


「某らはそこまで詳しくはございませぬ。ですが、それ以外考えられないかと思った次第かと」

「なるほどね。あ」

「うん。ジャグさんとこの亡くなった……」

「かもしれない。聖属性か回復属性、持ってたのかも」


 あとで確認してみよう。これ案外重要だからさ。神殿伯のジャグルートさんこと、ジャグさんも長年治療してるのが知れてるだろうし、姪御さんももしかしたらだから。


「兄さん」

「うん」

「たぶんだけどさ、公女殿下がねあまりにも有名すぎて」

「うん。回復属性じゃなく聖属性が悪素毒を散らすと思ってるのかも」

「麻夜もそう思う」


 ここの公女殿下は『龍人族の聖女様』と、大地や水の浄化が得意だって有名だったらしい。エンズガルドも、その報酬として沢山の穀物を買わせてもらってた、そう聞いたから。


「たしかに、考えられますね」

「ところでさ、公女殿下はそこにいたの?」

「はい。おそらくはあの方がそうかと」

「この国の皆様は、赤い角をお持ちですが」

「綺麗だよね」

「お一人だけ、薄紫の角をお持ちだった方がいたのです」

「あ、それビンゴかも」

「どうして?」

「兄さん知らない? 麻夜が魔法使うときに薄く光る色。んっと、属性によってもね、発生する色味が違うのよね」

「え? ってことは麻夜ちゃんが治療するときって」

「そっそ、淡く紫色の光が出るわけ」

「俺のって一瞬だから、色味ってわかんないんだよ。ジャグさんのもそうだったし」

「回復属性ってぶっ壊れ属性なのかもだね」

「否定できないわ」


 髪の色じゃなく角の色か。てことはさ。


「もしかして翼も薄紫だったりする?」

「タツマ様の言うとおりですね。まるで染め物のような、とても美しい色でした」


 ネータさんが言うと想像できるんだよな。てか、染め物あるんだ、やっぱり。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る