第234話 集結と覚悟。
麻夜ちゃんは、指鉄砲のようなかたちで右手を構える。左目を閉じて、照準を合わせてるみたい。
「見えるの?」
「んー、鑑定使えばなんとかね」
「そんなこともできるんだ?」
「位置の把握ができるのよー」
「チートだわ……」
「こんな感じかな? いくよ。『エア・バレット』っ」
風切り音みたいなのが聞こえたかと思ったら、的がはじけ飛んだ。
「……え?」
「うーわ。木だと
セントレナの背中に乗って、麻夜ちゃんはウィルシヲンに乗って的まで走ってもらう。すると粉々に、物理的に裂け飛んだ的だったものが転がってる。
「これ、3センチくらいの厚さあるんだけど?」
「にゃはははは」
「人だとどうなることやら?」
「どうかなー? んー、兄さん以外なら怪我じゃ済まないだろうねー」
「こえぇ……」
「だってこれ系の風魔法は基本、攻撃魔法だから。殺傷能力あって当たり前でしょ? 『エア・カッター』だって兄さん以外なら以下略なんだから」
「ま、そりゃそうだろうけどね。MMOでも狩りで使ってた人、あ、麻夜ちゃんが使ってたっけ?」
「うん。風、得意だったからねー」
MMOだったときは、風というより、空気中に舞ってる砂粒か何かを塊にしてぶつけてるんだろうけど。こっちではどうなんだろう? とにかくこうかはぜつだいだ……。びっちゃけ喰らいたくないわ。痛いだろうし。
とりあえず、距離的な問題もなんとかなりそう。あとは盾だな。
俺は以前、身体がすっぽり隠れる木製の盾をコーベックさんに作ってもらった。あれがそのままインベントリに入れてある。
「うーわ。なんか、懐かしいね」
「でしょ? MMOで使ってたのとそっくりに作ってもらったんだよ」
「これなら矢を防げるね」
「うん。おそらくだけど。さっきの魔法多分いける」
「まじで?」
「うん。中に鉄板仕込んでもらってるから」
木材と鉄板の複合盾。厚さはそれなりだけど、矢は防げる。そういう注文したんだよね。コーベックさんだから、それ以上のオーバースペックに作ってあるはず。
「そこまで忠実に再現したのね」
麻夜ちゃんに渡したら、持ち上がらなかった。
「おもたっ。何これ?」
「ん。俺のステータスもあのままだからね」
「まじですかー。……あ、ちょっと力こぶポーズしてみて」
「こう?」
「うん。よいしょ。おー」
ぶらんぶらんとぶらさがってる。あまり重いと思わない。やっぱりステータスやばいんだな、俺。
「ねねね、セントレナたん持ち上げられる?」
「やったことないけど、多分無理。母さんも無理って言ってたよ。前に」
「まじですかー」
『くぅっ』
『ぐぅっ』
「あー、セントレナたんもウィルシヲンたんも、『無理に決まってるでしょ』だって」
「そりゃそうよ」
それでもセントレナを抱えようと、やってみる俺。
「――せーのっ、どっこいしょーっ!」
ふっきんはれつしそうです、はい。
「おー、浮いた浮いた」
「こ、これいじょう、むり、です」
ほんの少し地面から浮かせた程度。いやまじで無理です、はい。
『くぅっ』
「そうだよね。うん。無理しない」
「よくわかるよね。セントレナたん『無理しないで』って言ってる」
「なんとなくわかるくらいだけどね」
俺たちは飛粋に戻って、ベルベさんたちと打ち合わせ。そのあとごはん食べて風呂に入ってゆっくりして。早めに眠ったんだ。明朝の作戦のためにね。
▼
『兄さん、おきるのだ。兄さん、おきるのだ。兄さん、おきるのだ。おきないとばくはつするのだ。さんにいちどかーん! いまのはうそなのだ。兄さん、おきるのだ。兄さん――』
「なんつアラーム入ってんのよ?」
麻夜ちゃんに以前スマホを貸してって言われてすぐに戻してもらったけど、まさかこんなの入れてるとは思わなかったよ。
スマホの時間は午前3時。確か日の出が7時すぎのはずだから、準備するにはいいでしょ。
『にいさーん。おきてる?』
「はいはい。開いてるよ」
ドアを開けて麻夜ちゃんが入ってくる。くるりと回ってみせる彼女は、あのときの『病み系魔法少女』のコスしてたわ。
「気合い入ってるね」
「うん。これ、お気になんだよねー」
「寒くないの?」
「あ、忘れてた……」
「だめだこりゃ」
ウェアエルズのときだってそこそこ寒かったのに。外套羽織ってもここじゃ無理でしょ。渋々部屋に戻って着替えてくる麻夜ちゃんだった。
「セントレナたちがさ」
「うん」
「あれだけ寒さに強いのって、ここで生まれ育ったからなのかもだね」
「それは関係ないと思うけど。種族的なものじゃないのかな?」
「……はい。浅すぎました、ごめんなさい」
「わかればよろしい」
『くぅ』
『ぐぅ』
うわ、二人も同情してくれてるみたいな感じだし。
先日のうちに、警備部にいる人の走竜たちに、『
「ここまでくると、壮観というか絶景というかさ。麻昼ちゃんたちなら喜んで嬉しょんしちゃうだろうね」
「するわけないでしょ」
セントレナ、ウィルシヲン。ジャグさんとこのダンジェヲン。フェイルラウドさんのガルフォレダに、ジルビエッタさんのエジェリナ。アルビレートさんとこの子なんかも入れて、20人はいるからね。
「ジャグさん」
「何でしょうか? 師匠」
「なんとなく違和感あるんだけどさ」
「はい」
「兄さんはね、『大公家から兵が出ないのはなぜ?』って言いたいのよね」
「麻夜ちゃん、……俺は『人員を出さないのは』であって、『兵』じゃないんだってば」
「なるほど。それはですね。我々が失敗したときに、切り捨てるためなのです」
「え? あ、うそ。俺の提案そのまま飲んじゃったわけ?」
俺は失敗する可能性があるから、あくまでも雄志でやった『クーデター』みたいなものだからって、そうしたほうがいいって提案したんだけど。
「そうですね。私たちも伯を辞すると書面を残してきましたので」
「え? アルビレートさん」
「そうですよ。私もです、師匠」
「ジャグさんまで……」
麻夜ちゃんがウィルシヲンの上から俺の頭を撫でるんだよ。
「兄さんがそれだけ信頼されてるってこと。でも、国には建前が必要なんだって。誰もがお母さんみたいに動けるわけじゃないんだから」
「だといいんだけど」
「そういえばさ、兄さん」
「ん?」
「あの
「あぁそっか。報告書の最後にあったんだけど」
「うん」
「俺の噂を聞いて、このアールヘイヴに立ち上がって欲しくないから、芽を摘んでおくって意味だったらしいよ」
「まじですか。それって実害がないのに麻夜たちに喧嘩売ってきたってことじゃないのさ?」
「そうなるかな」
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