第233話 作戦会議。

 ジャグさんから色々聞いたことで、ある程度状況がつかめてきた。とりあえず待たせてはまずいということもあって、俺たちは治療のためにホールに戻った。


「麻夜ちゃん、魔素の残りは大丈夫?」

「うん。兄さんの『マナ・リカバー魔素回復呪文』ってさ、かなり効果が高いのよん。MMOのときにも似たようなのがあったけど、連発したら枯渇こかつしたもんね」

「うん。あったあった。確か『マジック・リカバリー』だっけ? あれ、俺がレベル低かったせいもあると思うんだよ」

「かもだけど、あのときもね、助かってたのはほんとだよ」

「ありがとう。そう言ってもらえるは嬉しいよ。うん」


 治療が始まって、麻夜ちゃんとジャグさん。俺の列が徐々に進んでいく。もうすぐ昼になる時間だから、治療の列に並ぶ人も少なくなってきた。かくいう俺の列はもう終わっている。

 聖女様に治療してもらえるという噂が広まったからか、列に並ぶ人も順番を守ってくれているみたい。どっちの列に並ぶかは、悪素毒の状態で振り分けさせてもらってるんだけどね。


 こうしてアールヘイヴ全体から治療をする人が集まってきている。でもなんとなくだけど、俺は違和感を覚えていたんだ。


「ジャグさん」


 ジャグさんはまだ、麻夜ちゃんの悪素毒治療担当。少しでも目に見えて治療ができるようにならないと、彼の立場的にまずいと思ってまだこうしてもらってる。


「何ですか? 師匠」

「不思議に思ったんだけどね」

「はい」

「大公家と他の貴族家の人って、なんで治療に来ないのかな?」

「あぁ、それはですね。支えてくれている民が先。それだけのことだと伺っているんです」

「まじですかー」

「まじですかー」


 麻夜ちゃんも聞こえてるからね。そりゃ驚くわ。


「ですが、重症の人はこっそり、初日に来ていたんですけどね。町の皆さんみたいな服を着てこっそりと」

「なるほど、そりゃそうだ。上を守る人が倒れたら意味がないからさ。これからちょっとの間はね」

「そうですね……」


 ▼


 神殿で治療を終えて、三人で飛粋のごはんを食べたあと、警備部を訪れて報告書にあったことを再確認してまた驚く俺。同じように驚くジャグさん。呆れる麻夜ちゃん。


「ベルガイデは『眠りの魔法』を使えるの?」

「はい。やっと吐かせることができました。タツマ様を捕らえるときに使ったそうです」

「うーわ、まじですかー」

「ありゃりゃ。兄さん……」

「仕方ないじゃん。俺、あの魔法の耐性ないんだから」


 やめてその、『駄目な子を見る目』で俺を見ないで麻夜ちゃん。麻夜ちゃんだって寝たじゃないのさ? 俺だけじゃないでしょ?


 今度ロザリエールさんに、耐性ができるかどうかかけ続けてもらうってのも必要かもしれないけどさ。これまで他の耐性も出た例しはないんだよな……。


「でもあれって射程距離レンジ短くなかった?」

「んー、もしかして闇属性魔法じゃないのかも。麻夜たちが知らない、精神感応系の魔法があるかもだね」

「ジルビエッタさん、そのあたり問い詰めてもらえませんか?」

「わかりました」


 俺は麻夜ちゃんに手持ちの札を尋ねてみたんだけど。


「俺以外なら『ディスペル解呪』でどうにかなるんだけど、麻夜ちゃん似た系統の魔法ってある?」

「んー、ない」


 実にあっさり、終了。


「まじか」

「兄さんが寝たら、殴って起こすから大丈夫」

「まじですかー」


 フェイルラウドさんが会議の司会を受け持ってる。ベルガイデを捕らえた人のひとりとして、今回昇進したそうだ。彼とジルビエッタさんは。先日からこの警備部本部勤めになったんだってさ。

 うん、ご家族も一緒に引っ越しだね。まさか単身赴任とか、なったりしないよね?


「資料にもございますように、ヤツらの武器は主に弓と槍。攻撃魔法を使うのは一部の魔法使い。ですが、前線に出てくることは少ないでしょう。彼らは基本、空からの攻撃が多いと思われます」

「うーわ、これって弾幕になったらえぐいね兄さん」

「うん」

「こちら側は走竜たちと、我々が槍と剣で接近戦に持ち込むしかありません」

「まじですかー。結構きついね、兄さん」

「うん」

「幸い、走竜は槍や矢に射貫かれることはありません」

「まじですか?」

「ウィルシヲンたん、そんなに強いのね」

「麻夜ちゃんのあれ、有効射程距離100メートルだっけ?」

「んっとね、それしか試してないだけ。魔素込めたらもっといけると思うけど。あ、『エア・バレット』なら500くらいいけるよ。致命傷にはならないんだけどね」

「まじですか。んー、それならあれしかないね」

「そだね。べるさん」

「ここに居ります」

「ネータさん」

「はい」


 ベルベさんが麻夜ちゃんの後ろに執事みたいな格好で。ネータさんがメイドさんの姿で俺の後ろに現れてる。


「公女殿下たち助け出すのに、走竜に乗った人が三人は必要ですよね? フェイルラウドさん」

「そうですね」

「ジルビエッタさんも、救出いける?」

「はい。大丈夫です」


 俺は麻夜ちゃんを見て、彼女もうんうん。


「べるさん」

「はい」

「兄さんの指示に従って」

「御意」

「ネータさん」

「はい」

「俺たちが大きな騒ぎを起こすから、戦況を見ながらベルベさんと一緒に、ジルビエッタさんたちを連れて潜入。公女殿下たちを連れて帰る。いいね?」

「かしこまりました」

「御意にございます」


 これで潜入側は大丈夫だろう。


「アルビレートさん」

「はい」

「俺たちがあいつらにさ、上空に逃げても無駄だと思わせるから」

「はい」

「戦闘になったとしても、走竜の上から弓で応戦くらいにとどめてください。手の内を見せないため、自分で飛ばないようにお願いします。いいですか?」

「了解しました」

「俺と麻夜ちゃんは前線に出るから、ジャグさんたちは湖から離れないように、後方で救護要員。いいですか?」

「はい、師匠」

「作戦開始は明日の夜明け前。いいですね?」

『はいっ』


 こうして解散となったわけだ。


 ▼


 ここは公都の外れ。ちょっとした実験でここまで来てたんだ。


「麻夜ちゃん、あそこにある的。あれがおおよそ200だっけ?」

「うん。弓の平均的な有効射程距離ね。400届くのもあるらしいけど、実際は100足らず。殺傷射程距離はねもっと短いって何かの本にあったな」

「よくご存じで」

「でもね、上空からって考えたら、これくらい離れてるのが予想できるかな? って感じ?」

「なるほどね」


 200というと野球場やサッカー場のおおよそ倍。俺でもぎりぎり見える範囲だよこれ。


「じゃ、いいかな? 兄さん」

「うん」


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