第232話 二種族間プラス一での打ち合わせ。その1
龍人族、警備部所属のジルビエッタさんから俺は、複数枚の書類が入った袋を受け取る。お返しに俺も、資料を手渡したんだ。
「うん、ありがとう。これは俺たちの家臣がね、調べてくれた資料。まとめてあるからアルビレートさんへ渡してくれるかな? あと、昼過ぎからまた打ち合わせしませんかと伝えてください」
アルビレートさんは、警備部長の伯爵さん、警備伯さんのことね。
「はい、……かしこまりました」
うわ、図面に釘付けになってるよ。……ま、そりゃそうだ。誰も知らない岩山頂上の情報だから。
「ほらほら、ここじゃなく落ち着いて読めるとことへ」
「は、はい。お伝えいたします」
俺はちょっと表情を厳しくした。ジルビエッタさんもわかったんだろう。
「あのね、アルビレートさんに伝えてほしいんですけど」
「はい」
「先日伺った、ここより
「はい」
「11名と聞いていたんだけど、5名しか見当たらなかった。公女殿下らしき薄紫の角を持つ女性は見つけたから、合計6人。どこか別の建物に幽閉されているということはなさそう。もしかしたら、別の場所に連れて行かれた可能性もある、ということになりますね」
「はい……」
「だから、酷な話、酷な作業かもしれませんが。攫われた女性の素性にあたる情報、持っていた属性なんかを調べて欲しいんです」
「わ、わかりましたっ」
「それじゃ、俺は神殿行ってきます。資料ありがとうって伝えてくれますか?」
「はい。かしこまりました」
神殿に到着。治療開始前になんとか滑り込んだ感じだね。麻夜ちゃんは小さな子達に抱きかかえられてホール上空で漂ってる。何やら楽しそう。落ちるなよー。落ちてもなんとかするけどさ。
「おはようございます、師匠」
「うん。おはよう、ジャグさん。これ、読みました? あ、その前に」
俺は治療の席に座ってたジャグさんに、警備部でもらった報告書を手渡そうとしたんだけど、聞くことがあったんだ。
「何でしょう?」
「辛いことを蒸し返すようで申し訳ないんですけど、亡くなった姪御さんのことで……」
「大丈夫です。あの日ある程度踏ん切りもつきましたので」
そうだね。ベルガイデをぶっ殺したもんね。もしかしたら、あの方法は今後も必要なのかもしれない。
「聖属性を持ってたりしていませんでしたか?」
「はい。持っていました。神殿勤めをすることも、決まっていましたので」
「やっぱりそっか……、あのですね――」
午後から警備部で打ち合わせがある。そこにジャグさんも同席する。けれど、必要なことだけかいつまんで教えたんだ。
「そうでしたか……。確かに皆、聖属性を持っていたと報告を受けています。なるほど、そうでしたか……」
公女殿下らしき女性が生きていたからといって、手放しに喜べないジャグさんもまた、伯爵という立場のある人なんだ。
「そうすると公女殿下はどうして、……ごめん麻夜ちゃん、悪いけどちょっと来てくれる?」
「わかったよー」
「ジャグさん、私室、いいですか?」
「はい、師匠」
俺と麻夜ちゃん、ジャグさんは彼の私室、神殿伯の部屋へ。
「ベルベさん、ネータさん。外の監視お願いね?」
「御意」
「かしこまりました」
「兄さん、べるさんは麻夜の」
「はいはい。ごめんね。『
俺は麻夜ちゃんに『マナ・リカバー』をかけておいた。このあと治療があるからまたかけるけど、保険代わりにね。
「実はわかってた。『
『エア・ウォール』は魔素の消費が大きいって言ってたからね。だから最初のころ電話は夜しかしなかったわけだ。
「これはもしや?」
「ジャグさん、これで外に聞こえないのね」
壁が歪んで見える。これが効果中ってことだっけ。
「前にここで麻夜様が使われていた魔法がこれなのですね」
「そうだよ」
「ジャグさんごめん。うちの陛下のことは外の人に聞かれるわけにいかないからさ」
「もちろんでございます」
「それでさ、
「はい。確か、聖属性魔法の使いすぎで」
「うん。聖属性の浄化ってさ、麻夜ちゃんもそうだけど」
「はい」
「悪素毒を取り込んで、浄化対象と認識した後に効果が発揮されるみたいなんです」
「……はい」
「そう。さっきの根菜に魔法を、……ってやつ。あれは悪素毒の除去だと思うんですよ」
「なるほど、確かにそうですね」
「亡くなった女性たちははさ、俺が見てきた限りじゃね、そうさせられて、悪素毒を限界まで取り込まされて、衰弱して亡くなった可能性も、否定できないんです」
「はい。師匠のおっしゃることはもっともかもしれません」
「だとしたらさ、同じ聖属性魔法の使い手な公女殿下は、浄化の活動をこれまで長い間してたはず。これは変な言い方だけどさ、でもどうしてまだ生きていられるんだろうって?」
麻夜ちゃんも頷いてる。彼女も聖属性持ちで、マイラヴィルナ陛下のあの事件を見てるから。
「公女殿下はですね」
「うん」
「うん」
「ここだけの話ですが、『回復属性』もお持ちで」
「「へ?」」
「『聖属性』がレベル3、『回復属性』もレベル2に届いていると伺っております」
「「え゛?」」
なんだそれ? こっちの人としてはかなり高いんじゃ? ジャグさんだってやっと3になったとこだからさ。
「生まれついて魔素の総量も豊かで、長年浄化の活動を続けられておいでですので」
「なるほど、あれ? 公女殿下は悪素毒治療に『
「それは私にもわかりかねます」
「んー。そうなるともしや、薬?」
「はい。激痛が伴いますが、悪素毒を少しだけ和らげる『解毒蜜』という秘薬がございます。それを乱用されていましたので……」
そっか、そんなのがあったんだ。このアールヘイヴは薬が案外発展してるみたいだだし、魔素蜜もある意味薬で、ジャグさんはジャンキーだったようなものだからなぁ。
「そっか。それを飲んで、自分で痛みを和らげ、……あれ? もしかして」
今は囚われの身。それでもなんとかしてるのって……?
「うん。公女殿下って『空間属性』も持ってたりするのかな、とか?」
麻夜ちゃんも同じ考えか。
「はい。ご明察です」
「まじですかー。そりゃ交易も兼ねてエンズガルドにくるわけだ」
「まじチートですわ」
攫われた人に解毒蜜をわけてあげたとしても、激痛に耐えられるかわかったもんじゃない。んでも自分しか治療できないし、公女殿下はきっと辛いんだろうな。
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