第238話 飛ぶ鳥を撃ち落としてみた。

 麻夜ちゃんの声に合わせて、天人族あちらさんが四人落ちていく。期待通りに大騒ぎになってきた、なってきた。まるで蜂が群れ始めてるみたいな感じ? また増えてきたよ。


『どこ狙ったの?』

『弓とかと違って、回避行動取らなきゃ魔法はほぼほぼ必中なのよね、こっちでも。翼の付け根? 痛いと思うよ、きっとね。ほら、落ちてくくらいだもん』

『くらったことないけど確かに痛そうだ』

『まだまだいくよ。「エア・バレット」、「エア・バレット」、「エア・バレット」、「エア・バレット」うっは、魔素減らない減らない笑っちゃうってばさ』

『セントレナ、ちょっとずつ近づいて。皆さんは俺から五十メーターは離れて待機。ネータさんは俺の後ろに。指示したら救助部隊と一緒に潜入開始ね?』

『かしこまりました』

『『『『はいっ』』』』


 セントレナはゆっくり壁に近づいてる。その間麻夜ちゃんは相手を撃ち落としてる。まるで狩猟のワンシーンみたいに、鳥が落ちるみたいに見える。


 あぁよく見ると、翼が根元から折れてる。そりゃ飛べないで落ちるわけだ。麻夜ちゃんのこの『エア・バレット』、案外破壊力あるのね。それどころかこの命中精度、すごいなまじで……。


 外壁右側は綺麗に燃えてるし、その上に飛んでた天人族たちは麻夜ちゃんが撃ち落としてるから、かなり大騒ぎになってるみたいだ。


 外壁からの距離は九十メートルくらい。俺と麻夜ちゃん、セントレナの三人だけ先行してるから、まだ見つかってないみたい。こっちに飛んでこないからね。それでも大騒ぎになってるのはよく聞こえてくるんだ。まるで蜂の巣にちょっかいかけたみたいになってるよ。


 麻夜ちゃんは『エア・バレット』を連射してるから、その度に天人族が落ちていく。下手に死なせるよりは負傷させたほうが、戦闘時は有効な手段。


 俺みたいに『リジェネレート再生呪文』を使えるやつがいない限り、傷は治せても飛べるまで回復しないはず。それでも凄いな、もう飛んでる天人族が見えなくなってる。


『ふぅ、んくんくぷはっ。面白いように連打できるね。呪文唱えるだけで喉渇いちゃうってばさ。そこでこの「マナ茶」は一石二鳥なんだよねー』


 インベントリからマナ茶を取り出して飲んではまた格納してる。使いこなしてるねー。


『くぅっ』

『セントレナたん、わかってますよん。油断はしませんってば』


 うん。俺にもそんな感じにセントレナが窘めてるのはわかったかな。


 今のところ、外壁の上には何も飛んでない。外壁の火の勢いはさらに強くなってる。右側半分がめっちゃ明るい。


「お、騒がしくなってきたね」


 俺は小声で話すのをやめた。もうあっちには聞こえないでしょ。


「うん。麻夜にも聞こえる。『何があった? 気を確かに』みたいに聞こえるね」

「第二陣きたね。軽く百人くらいはいるかな? ネータさん、あれを全部麻夜ちゃんが撃ち落としたら、潜入開始ね」

『かしこまりました』

「うひっ、だーから、俺の耳元で返事しなくてもいいってば」

「うわ、えっちくさい」

「あのねぇ。ほら、麻夜ちゃん、撃った撃った」

「はいな。『エア・バレット』、『エア・バレット』、『エア・バレット』、『エア・バレット』、『エア・バレット』ぉおお――」


 相変わらずの射程距離と正確性。あの王城の中でも、ウェアエルズでもそうだったけど。敵味方はっきりと認識してるのか、容赦のなさも凄いよね。


『よっし、第二陣全部落ちたねー』

『うん。ベルベさん、ネータさん』

『御意』

『かしこまりました』

『ウィルシヲンたん』

『ぐぅっ』


 ベルベさんとネータさん、ウィルシヲンが率いる救助部隊が作戦開始。振り返らずに、前を注視する俺たち。走竜たちは飛ばないように指示してある。万が一他の人が的になったら困るからさ。


 救助部隊が抜けたこちらは、俺たちを除いて十人くらい。場合によっては加勢に回ってもらうつもりだったけど、俺たちだけでなんとかなるなら、破壊工作の続きをやってもらうことになっている。


 麻夜ちゃんの地図を見せながら、ネガルテイクさんに俺が指示するかたち。


『ネガルテイクさんたちは、ここの部分まで、右側の防壁を完璧に燃やしちゃってください。完了次第、こちらに戻って俺の背後から弓で狙撃ということで。絶対に飛ばないこと。いいですね?』

『はい、わかりました』


 警備伯のネガルテイクさんたちが乗る赤走竜は、火炎のブレスを吐くことができるんだ。けれど万能じゃなくて、射程が五メートル程度。対人、対魔獣なら十分なんだけど、こういう場面じゃ難しいって話になった。


 だから、俺と麻夜ちゃんと一緒に陽動で動いてもらうことになったんだ。俺たちがとにかく飛んできたのをできる限り落とす。その間に、もっと騒ぎを大きくする。そういう作戦になってるんだ。


「さて麻夜ちゃん」


 小声で話すのはおしまい。もう、こっちから攻撃があったのはバレてるはずだからね。


「ん?」

「第三陣、きっとくるよ」

「うん」

「俺の背中から出ないようにね」

「おっけいです」

『くぅっ』

「うん。わかった」


 セントレナが匂いで察知したみたい。


「セントレナたん、『くるよ』だって」

「うん、俺にもわかってるってばさ」

『くぅっ』


 俺たちは更に近づく。外壁からおおよそ七十メートル。俺は盾を前にかざした。万が一、矢が降ってきたら壁になる予定になってる。ちなみに、セントレナには矢は刺さらない。まがりなりにも彼女は竜だから、そこらへんの刃物では傷がつかないんだ。


 『『パルス脈動式補助呪文』で『リザレクト蘇生呪文』を回してる俺は死んだりしない。万が一麻夜ちゃんに何かあってもなんとかできる。セントレナもいるから、俺たち単騎での陽動ならなんとかなるだろう。


 殲滅する必要はないんだ。囚われている人たちを助け出すだけの時間が稼げたらいい。弱みさえなくなれば、最大火力で叩けばいいんだから。


「うわ、団体さんの登場」

「きたきたきた」

『くぅっ』

「『マナ・リカバー』っと。疲れはない?」

「――んっくんっくぷはっ、大丈夫よん」


 麻夜ちゃんはまたマナ茶を一気飲み。マナ茶って確かにお茶なんだけど、量がアンプルサイズなんだよね。精力剤のビンより小さめ。だから一気飲みしてもそんなに負担にならないんだ。


「それ、『エア・バレット』、『エア・バレット』、『エア・バレット』、もいっちょ『エア・バレット』」


 外壁から見え始めてる天人族を、片っ端から撃ち落とす麻夜ちゃん。目がいいというか、狙撃能力が高いというか。一発で確実に撃ち落としてる。


「セントレナ、もう少し近づいて」

『くぅっ』

「マナ切れ大丈夫?」

「うん。一発撃ったらすぐに満タン。回復しまくってるですよ。『エア・バレット』、『エア・バレット』っと。あ、『エア・バレット』」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る