第239話 反撃が来ちゃった。
麻夜ちゃんが撃ってる風魔法の『エア・バレット』って、銃弾くらいのサイズらしいけど、木の板重ねて三枚くらいは軽く貫通するんだ。前に見せてもらったことがあってさ、あれは凄かった。天人族の翼の根元があっさり折れてるくらいだから、与えてるダメージはそりゃ半端ないわけよ。
「それにしてもさ麻夜ちゃん。羽だけ撃ち抜くとか、お優しいこと」
「ん? こっちのがエグいんじゃなかったっけ? 麻夜にそう教えてくれたのって、兄さんじゃないのさ?」
確か何かの本にそう書いてあって、そんなのって戦略になるのかな? ってMMOの中で言った覚えはあるけど。あのことかな?
「そうだっけか?」
「んむ」
『くぅ』
「ほら、セントレナたんもそうだって。あ、『エア・バレット』、『エア・バレット』、『エア・バレット』」
『くぅっ、くぅっ』
「『たくさん来る?』ってセントレナたん。え? どゆこと?」
『カン』って盾に何かが当たった。セントレナの足下に落ちたのって、やっぱり、矢?
「え? まじですかー?」
「うん。すっごい数の矢が飛んでる。まだこっちに届いてるのが少ないだけみたい」
「場所の特定、できてないんだろうね。セントレナ、黒いから。俺たちも紛れちゃってるんだよきっと」
「だね。『エア・バレット』、『エア・バレット』、『エア・バレット』っと」
さすがにあちらさんも、ただ撃たれてるわけじゃないんだろうな。外壁越しにおおよそで撃ってくる。自分たちより前方に味方がいなければ、MMOでも対人戦でたまーにやる。もちろん、ボス戦でもね。
「麻夜ちゃん」
「はいな」
「外壁にも大きいの当てて。音でプレッシャー与える感じで」
「かしこまりー。『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、あ、穴開いたっぽいね。明かりが見えるですよ」
ここから五十メートルほど先にある木製の外壁。麻夜ちゃん魔法に耐えられなかったみたいだね。元々燃えて焦げて何割かは炭になってたんだろうし。
「兄さん」
「ん?」
「右側すっごい燃えてる。『エア・キャノン』、『エア・キャノン』っと」
そう教えてくれながらも、外壁にダメージ与えてくれてる。
「あー、ネガルテイクさんたちやってくれたね」
「んむ。『エア・キャノン』――あ」
「どした?」
「ごめん兄さん。間違って大きいの当てちゃった。左腕あたりも一緒に吹っ飛んでしまた……」
「あー、なむなむ。死んでないことを祈ろう。せっかく手加減してるんだし」
「んむー。なむなむ」
まぁ、最悪死んでても仕方ない。あ、ネガルテイクさんたちが戻ってきたっぽい。
『タツマ様、こちら完了しました』
「もう声大丈夫。あと、俺より前は矢が降ってるから気をつけて」
「了解です。私たちはどうしましょう?」
「んー、そしたらこっちは大丈夫かもだから、フェイルラウドさんたちの退路確保をお願いします。あと、すみません」
「どうかされましたか?」
「手加減していたんですけど一人だけ、まともに打ち抜いたっぽいんです。最悪死んでたら、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
麻夜ちゃんもごめんなさいしてる。相手が動いてるんだから責任はないんだって。手加減できるだけ凄いってばさ。
「タツマ様、麻夜様に何もないのであれば構いません。私たちも覚悟はしていますので」
「うん。人攫いの
「それはその、ありがとうございます……。では、いってまいります」
「お願いしますね。じゃ、麻夜ちゃん」
「右側に移動だよね? セントレナたんお願い」
『くぅっ』
▼
「――うっはぁ、『弾幕』凄すぎ-っ」
早すぎてうっすらとしか見えないけど。明るくてもはっきり見えるかどうかわからないけど。確かに大粒の雨みたいな感じに矢が降ってくるこの光景って、『弾幕』とも言えなくないかな? ちょっと大げさかもだけど。
「飛んでくる矢を『弾幕』言わないの。怪我、大丈夫?」
「うん。痛いときはそれなりに痛いけど、兄さんのおかげでいまんとこ大丈夫。セントレナたんは?」
『くぅ?』
「あれま、『痛くもかゆくもない』んだってさ」
相変わらずセントレナの通訳してくれてる麻夜ちゃんの『鑑定』スキルって。
「うわまじチートだわ」
『くぅっ』
「うんうん。『もっと褒めてもいいんですよ』、だってさ」
「うん。まじ凄いから、セントレナも麻夜ちゃんも」
『くぅっ』
「えへへ、……あ、『エア・バレット』、『エア・バレット』っと」
テレながらも反撃を忘れない麻夜ちゃん。
攻撃開始してから『個人情報表示謎システム』上で三十分は経ったかな? ネガルテイクさんたちに救助部隊の支援へまわってもらってから、それでも十分くらいは経ってると思う。
まだあたりは薄暗いし、俺たちは薬を飲んでるから相手はよーく見えるわけだ。目をこらせば降ってくる矢もなんとか見える感じ?
飛んでるのを確認し次第狙撃しまくって、これまでに麻夜ちゃんが撃ち落とした天人族は軽く百人を超えてるはず。けれど誤魔化し誤魔化しやってきた俺たちの場所はついに、
あちら側からスポットライト状に照らされる魔道具か何かの明かりで、俺たちの周りだけやたらと明るい。要は注目の的になってるってことよ。そのせいもあって、あちらから矢が雨のように降ってくる降ってくる。まるで『弾幕』だって麻夜ちゃんがツッコミ入れたさっきよりも、相当な数のが降ってるわけなんだってばさ。
ちなみに俺たちの言うところの『弾幕』とは、往年の縦や横のスクロール型シューティングゲームで、敵から撃たれる鬼のような弾のこと。そのアルゴリズムを読み切って避け続ける強者もいたとかいないとか。俺には無理だけど、それ系のゲーム苦手だし。
今回の相手はコンピュータではなく人だから、アルゴリズムなんてありゃしない。だから盾で避けるしかないわけなのよ。
ちなみにセントレナには一切刺さっていない。さすが竜だけはあるよね。まじで半端ないっす、チートっすわ。
見つかったのは仕方ない。それでも相手に少しでも『ヤバい相手』として認識してもらうために、ベルベさんとネータたち救助部隊の作成成功に向けての陽動のために、俺たちは外壁から五十メートルの位置を動いてないんだ。
足並みずれて、目立って飛んだ天人族を麻夜ちゃんが確実に撃ち落としてるし。飛ぶとやられるってわかっているらしく、徒歩でこちらへ向かってくる敵も身動きとれなくしてる。おまけに外壁を麻夜ちゃんが壊して穴開けて、そこから見える敵も狙撃してるもんだから、こちらへこれ以上近寄ろうとする敵は今のところいないわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます