第237話 作戦開始。
『個人情報表示謎システム』の魔素ゲージは微妙に減っては戻っている。今でも間違いなく『パルス』で『リザレクト』が回り続けている証拠。これは俺が
『ほい。麻夜ちゃんに、「
『あれ? 麻夜たちだけ?』
『くぅ?』
『あーその、なんだよ。ちょっとばかし自然回復系のスキルが増えた俺にはね、マナ茶があれば十分なわけ。「マナ・リカバー」はもうあまり意味がなくて、ほんとに支援魔系の呪文になっちゃったわけ』
『うわ、兄さんまじチート』
『くぅっ』
『あははは、俺もそう思う』
そんな雑談を交えながらも、セントレナはゆっくり前に進んでくれる。
『あと100だよ』
麻夜ちゃんの風属性魔法、『エア・キャノン』の射程に入った。
雪が降っていないし、ジャグさんからもらった薬が効いてるからかな? 前にずらっと並ぶ、木材と思われる素材で組んである、木の城壁ともいえる壁がぐるっと町を囲ってるのがよぉく、見えるんだ。
ベルベさん、ネータさんの報告にあったとおりなら、壁の厚さはせいぜい1メートルあるくらいかな?
『うん。じゃ、いっぱつ派手にいきますか』
『うん』
『麻夜様。準備はできております』
『うんうん。ありがと、べるさん』
『何をしようっての? 麻夜ちゃんが「エア・キャノン」で盛大に吹き飛ばすと思ってたんだけど?』
『あのね、べるさんから報告受けてたでしょ? あの壁が木材だってさ』
『だね。重かったら資材かついでこの高さまで飛べないから』
建材は基本、すべて木材だったはず。この高地で作るわけにもいかないだろうから、おそらく飛んで輸送できるもの。それなら木材でしょって予想してたら、建物どころか壁、防壁に至るまですべて木材だったんだよね。
『それならさ、べるさんたちが潜入する側の反対。この右側全部、音と同時に焦がしちゃおうって話になったのよ』
『なるほど。でも、麻夜ちゃんさ、火の属性』
『うん、苦手。ライター程度にしか使えませーん。だからべるさん、どるねーさん、なのよ。は・か・い・こ・う・さ・く』
『えぇ。得意でございます』
『でもそれってさ、中の建物には?』
麻夜ちゃんはインベントリから手製の地図を取り出して見てる。
『んー、……べるさんの話ではね、50メートルくらい離れてるのよ。確か』
『そうなのか。風もないし、……うん。ならやってしまおう。火を消させるのも陽動になるからね』
『うん。じゃ、麻夜の魔法に合わせてね、……いっちょやっておしまいっ』
『御意』
『かしこまりました』
『んもー、ノリが悪いなー。教えたじゃないのさ?』
『いえ、その、あれは少々』
『えぇ、わたくしもあのノリにはちょっとですね』
『ま、いっか。気を取り直して』
ベルベさんとネータさんに、何を言わそうとしてたのやら……。もしやあの? いやいや違うでしょ?
『では少々お待ちくださいませ』
『お願いねん』
あ、ネータさんがいない。ベルベさんも消えた。気がつけばベルベさんたちが、もう外壁手前にいるよ。こっちに向かって手を振ってる。
『相変わらずとんでも忍者さんだね』
『だねぃ』
でもって、ものの数分で戻ってくるし。
『お待たせ致しました。あの赤い印を狙ってください。その後連鎖して爆発いたしますので』
ベルベさんがさ、麻夜ちゃんの傍に
『連鎖爆発とか、すげぇ』
『これが破壊工作というものです』
俺の耳元でネータさんがそう言うんだ。あっという間に戻ってきて、ベルベさんはもうウィルシヲンに乗ってる。
『なるほどねぇ。ちなみにさ、どうやって準備してきたの?』
『はい。使い捨ての魔法陣と麦粒魔石でございます』
『結構コストかかってるんだ?』
『タツマ様、わかりやすくご説明するなら、某が自ら獲ってきたのでお金はかかっておりません。……でおわかりですか?』
『あー、そういうこと。麻夜ちゃんは知ってたわけね?』
『そだよん』
色々な意味で準備完了ってことか。よし、麻夜ちゃんに合図をしてと。麻夜ちゃんも頷いてる。
『はい、麻夜ちゃん』
俺はインベントリからマナ茶を取り出して麻夜ちゃんに手渡す。彼女は封を開けて一気飲み。
『ぷはっ、ありがと。さて、と』
麻夜ちゃん身体ごと振り向いて、俺に抱きついてくんかくんかしてた。俺の匂いってやる気出るの? 匂いフェチな麻夜ちゃんのこと、こういうところよくわかんないんだよね。
麻夜ちゃんはセントレナの背中の上で、器用に前を向いた。ベルベさんに言われたとおり、壁にある魔法陣だと思われる場所に狙いをつけて、右手の手のひらを開いて前にかざしてる。
『よしっ、気力充填完了っと。それじゃ、いきますねー。……「エア・キャノン」』
俺の視線の先、セントレナの前あたりから、雪が舞った。すると壁から『ドンっ!』という音が聞こえたかと思うと、そこから更に連鎖するように『ドンドンドンンドンっ』とまるで、連発の打ち上げ花火のような爆発音が聞こえてくる。
同時に壁が赤く燃えだした。おそらくは油か何かがかけてあったんだろう。瞬く間に木製と思われる壁が燃え始めているんだ。ここからかなりの距離があるけど、あちら側が急に明るくなった。
『お-、これまたお見事だね、べるさん』
『お褒めにあずかり光栄にございます』
俺たちからみて、右側半分が綺麗に燃えてる。壁に厚みがあるだろうから、実際はまだ外側だけだろうけど。それでも、あちらさんには一大事なんだろう。
壁の上に何かが飛んでる。十人以上はいるかな? 大声でやりとりしてるっぽいけど、もう何を言ってるかわからないくらいにパニクってるみたいだよ。
『あ、増えた。えっと二十人くらいはいそうだね』
『そだねー、どする?』
『うん。やってしまいなさい』
『わかりましたご隠――じゃなくてりょかい。とりあえず、わざと息の根とめなくてもいいんだよね?』
『アニメだったり時代劇だったりあのねぇ。……ま。そうじゃないと、騒ぎにならないからね』
俺の身体をよじ登るようにして、麻夜ちゃんは後ろに回った。まるでMMOときのようなポジショニングだね。
今度は手のひらじゃなく、右手を握って人差し指と親指伸ばして『鉄砲』の仕草をしてる。
『「エア・バレット《風の弾丸》」、「エア・バレット」、「エア・バレット」、「エア・バレット」、すっご。「エア・キャノン」はクールタイムあるけど、こっちはマナ減らないし、クールタイムほぼないから打ち放題だねん』
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