第245話 これは便利というかなんというか。
「やっぱりちゃんと
麻夜ちゃんが足でつんつんしてる。死んでるふりをしてるのか確認してるみたい。俺も同じように足でつんつん。とりあえず生きてないのを確認してみた。
「うん。『ふり』、じゃないね。『死体』って出てるから、ちゃんと屍ってるみたいだわ」
「そっかそっか。さっすがチートスキル持ちー」
「あのねぇ。まいっか。あのさこれさ、漫画みたいにさ、インベントリに入ったら楽なんだけどねー」
「そだね『格納』ってでき――うぉっ! なんじゃこりゃぁ!」
「どしたの? 兄さん。あ……」
俺が足先でつんつんしてたミンチが、消えてた。
インベントリに入ってしまったミンチだったものが、アイテム化されて名前もついてる。
「
「うーわ、まじですかー」
俺と麻夜ちゃんがドン引きしてるのを見て、プライヴィア母さんが心配して声をかけてくれたんだ。
「どうしたんだい? 何かあったのかな?」
「いえその。足下にあったミンチ、いえ、死骸が」
「うん。兄さんのインベントリ、あー、うん。空間属性の魔法で格納できちゃったんです。お母さん」
「……え?」
俺は『かくかくしかじか』と、簡単に説明した。
「ほら、お母さん。これをつんつんしながら『格納』ってするとね」
麻夜ちゃんが踏んづけていたミンチが消えた。やっぱり彼女のも、俺のインベントリと同じ機能を持ってるってことなのね。
「あ、……あぁ。確かに消えたね。これは驚いた」
呆れた感じじゃなくて、本当に驚いたみたい。プライヴィア母さんの尻尾、ぶわっと広がったから。尻尾は正直みたいだね。さすがネコ科。
「うん。名前もわかるんですよん。『フルメータ・ヴァイエラ』らしいよー、あ、さっき兄さんが格納したヤツの親族? 名字、ううん、家名が一緒ですね」
「名前もわかるんだね?」
「そうなんです。それには俺も驚きました」
「尋問いらずだねー便利便利。『格納』っと、あ、でもさ」
「どしたの?」
「そういえば兄さん、枠どれくらいあんの? 今」
「んー、あと三十くらいかな? 数えてないからわかんない」
「そだよね。麻夜もあと二十しかないもの、……でもこれ。全部は無理、だよね?」
「これは確かに。うん。課金で枠を増やせたら、そうしたいところだけど」
「うんうん、それは激しく同意」
これまで麻夜ちゃんが撃ち落とした数だけでも百は超えてそう。
「何かいい方法ないかな? んー、あ、これこれ」
俺はインベントリにあった、枠に山積み状態に重なる、あるものを取り出した。
「……たる?」
「そうそう。前にね、移動中に水で困ったことがあったから。見つける度に買ったことがあったのよ。枠に重なるからさ、三百くらいあるかな?」
木製の樽。直径も高さも一メートルないくらい。
「これ、どうするの?」
母さんも興味ありそうな感じに覗いてる。アレシヲンもセントレナも。
「これをさ、こうして」
俺は樽の蓋を開けて、手を突っ込んで、
「死体(クォーレム・ヴァイエラ)、うぉ、グロいわ」
「なるなる。これで転がしておくの?」
「うんにゃ。これを『格納』、おー、やっぱり」
「どしたの?」
「ほら、麻夜ちゃんもやってみ?」
俺は樽を麻夜ちゃんの前に出して『どうぞどうぞ』としてあげる。
「死体(フルメータ・ヴァイエラ)。おー、樽にぴったり。これを『格納』? ……おー。そゆことなのね?」
「うん。麻夜ちゃんとこもそうなのね?」
「うん。『
俺は樽を二つ取り出して、一つを麻夜ちゃんに。足先でミンチを格納して、取り出して樽に突っ込む。その樽を格納。麻夜ちゃんも同じようにやってみる。
「おー」
「おー」
俺と麻夜ちゃんは、見つめ合ってニヤリ。
「どうしたんだい?」
『ぐぅ?』
『くぅ?』
「重なったね」
「うん。重なっちゃったね」
「重なる? どういうことかな?」
「えっと――」
俺はプライヴィア母さんへ、『かくかくしかじか』という感じにインベントリの仕組みを説明する。
「なるほどね。その枠ひとつに、最大999もの数を?」
「はい。入れておけるんです。お母さん」
「きっと焦りますよ。天人族のヤツら」
「そう、かもしれないね。同胞の姿がなくなってしまうとは、思いもしないだろうからね」
プライヴィア母さんもニヤッと笑った。うん、
ここからはあちらさんの出方をプライヴィア母さんとアレシヲンが注視してる間に、俺と麻夜ちゃんは流れ作業に入ったわけです、はい。
麻夜ちゃんが雪の上に落ちてるミンチを靴の裏、つま先部分で軽く踏んで『格納』。俺がインベントリから樽を出して、麻夜ちゃんはその樽に手を突っ込んでミンチを収納。そのあと樽を俺が『格納』。
「
「樽出してはい」
「死体を入れて」
「はい、樽『格納』っと」
地味な作業だけど、視界にあったはずのミンチ状態になっていた、天人族のなれの果てが綺麗になくなっていく。
「いくつになったの? 兄さん」
「んー、五十個超えたね」
インベントリの『樽(空)』が入っていた枠のカウントが減っていって、『樽(死体入り)』のカウントが増えていく。ただそれだけの単純作業。
さっき
「どうです? 母さん」
「動きはないみたいだね。まぁ、動いたら動いたで、アレシヲンに攻撃されるのがわかったからかな?」
「あー、あれは容赦ないですよ。お母さん」
「そうかな? うん。ちょっとやり過ぎかもな感はあるんだけどね」
そんな雑談をしながら、崩れかかってる外壁からこちら側向けに落ちていたミンチは、見える範囲にもうないように思える。
空間属性スキルは『
「お母さん、あらかた片付いちゃったんですけど-?」
「さて、どうするかね? 私たちがここにいるのは先ほどの攻撃でわかってはいるだろうから」
「でしょうね」
「俺もそう思います」
さてどうしよう? そんな話をしていたときだった。
「おや? 君たちは?」
「え?」
「え?」
俺と麻夜ちゃんは後ろを振り向いた。するとそこには、ばつが悪そうに苦笑している、ベルベリーグルとドルチュネータの二人の姿があったんだ。
あぁなるほど。いつもなら彼らのほうが先に、俺たちに声をかけるところだけど、プライヴィア母さんが先に気づいてしまった。だからこんな状況になっていたというわけなんだね。
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