第244話 反撃開始だよ。

「母さん、とりあえず一息つかない?」

「あぁ、そうだね。ありがとう」

「はい、麻夜ちゃんも」

「ありがと、兄さん」

「それにしてもタツマくん」

「なんですか?」

「相変わらず肝が太いね。今は戦闘中だと思うんだがね?」

「あー、なんていうか。天人族あいては母さんやロザリエールさん、麻夜ちゃんみたいに怖くはありません。数が多いだけで、弓持った空飛ぶ直立歩行豚魔獣オークみたいなものです」

「あははは。タツマくんもなかなか言うね」

「うははは。兄さん、白いオークが空飛んでるわけね。傑作傑作」


 猫被る必要ないからって、ちょっとは女の子らしい笑い方しなさいってばよ……。


「それでも、俺も麻夜ちゃんも、何度死んだかわからないくらい忙しかったので」

「そうだねー。何回死んじゃったっけ? 最初は感動したけど慣れちゃった」

「死んだことを感動しちゃ駄目でしょ」


 セントレナには俺が、アレシヲンには麻夜ちゃんが。飲み物を少し、マナ茶も一瓶あげる。


 弾幕が酷かったし、休む暇もなかったから、喉カラカラ。麻夜ちゃんも一気飲みしてるし。でも母さんは何やら楽しそうだよ。なんだかなぁ……。


 ほんの二、三分、つかの間の一息だった。麻夜ちゃんの頭にアレシヲンがもふっと顎を乗せたんだ。


『ぐぅっ』

「お母さん、アレシヲンがね、魔素回復終わったってさ」

「そうかい。でもね、相手は動きはないようだよ。……さて、君たちは何をしていたのかな?」

「いわゆるひとつの、囮? だよね? 兄さん」

「うん」

「なるほどね。ドルチュネータとベルベリーグルの姿がここにないのはきっと、他に何かの任務を任せている。それで君たちは、暴れまくって注意を引いていた。そうだね?」

「そういうことになります」


 わずかながらだけど、一休みしていたアレシヲン、麻夜ちゃん、プライヴィア母さんが立ち上がった。飲み干した空き瓶を回収してインベントリへ。ゴミは持ち帰らないとだからね。


 相変わらず天人族側からは攻撃してくる気配がない。空を飛んでもないし、矢を射ってくる感じもない。


 だからだろうね。プライヴィア母さんは、アレシヲンに攻撃命令を与えない。じっと天人族あちら側を注視しているだけなんだ。


「そういえば母さん」

「どうしたのかな?」

「アレシヲンのさっきの攻撃、先日できるようになったって言ってたけど、いつからなの?」

「んー、いつだったかな?」

『ぐぅっ』

「え? アレシヲンたん。『一昨日』ってどういうこと?」

「え? 一昨日?」


 麻夜ちゃんがまた通訳してる。いやそれより、一昨日ってどういうこと?


「あぁ、確かにそうだったね。あれは一休みをしているときだったかな? アレシヲンがね、やってみせてくれたんだ。実に爽快だったね」

『くぅ……』


 そりゃセントレナが真似できなくても仕方ないでしょ。


「うん。セントレナ、ごめん。母さんが間違ってたわ」

「うん。お母さんが間違ってるね」

『くぅ……』

『ぐぅ?』

「何のことかな?」


 似てる。大雑把すぎる。あまりにもプライヴィア母さんとアレシヲンが似てる気がする。


 それはさておいて、母さんはアレシヲンに乗る。俺はセントレナの背に、麻夜ちゃんも俺の後ろに乗って準備完了。


「それじゃ、もう一暴れしようかね」

「はい」

「がってんしょうちー」


 アレシヲンがふわりと羽ばたく。セントレナも彼に続く。


「母さん、あまり高く飛ぶと、目立たなくなるから」

「わかったよ。それじゃアレシヲン。あの辺りに、ちょっと抑えめにね」

『ぐぅっ』


 アレシヲンは大きく口を開ける。口の周りに白い魔素のような煌めきが集まっていく。期待通り、口からビームを発射したんだ。


 着弾したのは、外壁のあった上あたり。そこに見える城のような建物。なぎ払う感じじゃなくて、一点集中。遠くだったから『BOOOOM!!』という効果音はいらなそうな爆発音だったけど。


「なんて射程距離なのよ」

「うんうん。513メートル。近代兵器レベル? もしかしたら超えてるってば兄さん。ビームだけに」

「そだね麻夜ちゃん。吐息魔法ドラゴンブレスなんて、あっちの世界にはアニメとかにしかなかったからね」

「うんうん。なかったなかった」


 今まで少しだけ静かだった天人族の姿もまた見えてくる。


「うわ、兄さん兄さん」

「ん?」

「あれ、どうするの?」


 徐々に明るくなりつつあるからか。外壁近くまで来ると、なんとなく見えてくる。


「あれかー」

「うん。あの、床にぶちまけた、イチゴミルクかき氷のなれの果てみたいなやつ」


 さすがにミンチになってる同胞を、天人族は回収できないでいるんだろうな。


「あー。あれってアレシヲンがやっちゃったのか、麻夜ちゃんが落としたのか」

「どうみても、アレシヲンたんだね。麻夜の魔法だとあそこまで細切れにならんもの」

『ぐぅ』

「いいんだよ。戦なんだから」

「うん。別にアレシヲンを責めてるわけじゃないんだ。ね、麻夜ちゃん」

「そっそ。アレシヲンたんが来てくれなきゃ、麻夜たち何度死んだかわかんないんだもの。ありがと、アレシヲンたん」

「そうだよ。ありがとう。アレシヲン」

『くぅ』

「あれあれ? 私はどうなのかな?」


 プライヴィア母さんが何やら寂しそうな表情をしてる。もちろん、作ってるのは知ってる。


「そりゃうん。母さんが来てくれなきゃ、アレシヲンだって来ていないんだから。ありがとう。母さん」

「ありがとう。お母さん、大好き」

「あははは。そんなに褒められては気恥ずかしいというか、なんというか」


 本気で照れてる。尻尾の動きにも出てるから、フェイクじゃないのはよくわかるんだ。


「さておきだよ? あれを蘇生してもさ。捕縛するのがめんどくさいと思うんだけど」

「そだよねぇ」

「まぁ、一日二日おいておいても大丈夫なんだよね?」

「うん。母さん」


 俺たちは外壁のところへ降りてきた。


 うん。確かにグロい。普通に考えたら、この場で吐いてしまって、胃袋ひっくり返ってもおかしくないんだけど。こっちの世界に来てから得たスキルなのかはわからない。俺も麻夜ちゃんも、恐怖に対する耐性があるみたいで、それ以上の感情は湧いてこないんだ。


 死屍累々。白いはずの天人族が、カラスにつつかれて落ちてるイチゴみたいだ。それも雪の上だから余計に目立つ。


「これ、あっちの人たちはどうにもできないんだろうね」

「あぁ。『あれ』を使えるのは、タツマくんしかいないだろうからね」


 プライヴィア母さんのいう『あれ』は、『リザレクト蘇生呪文』のこと。回復属性どころか、他の属性も、カンストしてるのはきっと俺しかいないだろうって、言ってたからね。

 だから死体を蘇生できるのも、俺しかいないってことだ。天人族側からしたら、事態が落ち着いたら埋めるしかないんだろうな。


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