第243話 とにかくあれだよ。

 とにかくあれだよ。驚いた。母さんとアレシヲンが降ってきたんだ。それでついでにさっきまで雨あられのように天人族が降らしていた、矢の弾幕が止んだんだ。


「おし、アレシヲンたんの魔素、戻ってきてるね-」


 麻夜ちゃん、戻ってきてるって、アレシヲンの魔素ゲージ見えるの? もしかして?


「兄さんさっきのビームね」

「ビーム言うなし……」


 思わずツッコミ入れちゃったってばよ。確かにいわゆる『なぎ払え』系の破壊光線ビームだったのは否定しないけどさ。


「魔素をね使い切っちゃうから、一発が限界なんだって。魔素が溜まるまで撃てないってさ。だから連発できないんだってー。純粋に魔素が戻ればいいのかな? それともクールダウンがあるのかな? だとしたらどれくらいなんだろうね? んー、麻夜のとこのウィルシヲンたんなら見えそうなんだけど。アレシヲンたんのは細かく見えないんだよねー」


 麻夜ちゃんが『見える』と言ってるのは、『鑑定スキル』でステータス覗いてるって意味だと思うんだ。さっきの魔素のことといい、間違いないでしょ? 麻夜ちゃんだし。


「ほほぅ。そうなんだね。大技だから連発は無理だろうとは思っていたんだが」


 ちなみに麻夜ちゃんが言ってる『クールダウン』は、『クールダウンタイム』のことね。ゲームなんかでよく使われる用語でさ、『次に撃てるまでどれくらいなんだろう?』ってことなはず。麻夜ちゃんは一生懸命、『鑑定スキル』でアレシヲンのステータスをみようとしているんだけど、見えるところと見えないところがあるっぽいね。


 プライヴィア母さんとアレシヲンの間に挟まって何やら話してる。あー、アレシヲンの通訳してるのか。麻夜ちゃんがアレシヲンの言葉がわかるってこと、母さんは知ってるのね。


 ほんっとチートだよね。麻夜ちゃんの『鑑定スキル』ってさ。俺もアレシヲンとセントレナの言ってることは、なんとなーくわかる程度。彼女みたいに完璧じゃないんだ。


 そうしてぽつんと残された俺とセントレナ。俺は素朴な疑問をぶつけてみたんだよ。そりゃそうでしょ? 期待しちゃうじゃないのさ?


「ところでセントレナ」

『くぅ?』

「さっきアレシヲンがやったみたいなこと、もしかしてできたりするの?」


 セントレナはあちらに向けて口を大きく開けて、何度も何度も何かを試してくれてる。ややあって、……口を閉じてこっちを恨めしそうに見るんだよ。


『くぅ……』


 うーわ、セントレナ泣きそうな声だしてる。『できませんけど何か?』みたいな、申し訳なさそうな目で見ないでいいからさ?


「うん。ごめんね。俺が悪かったわ……」


 俺がセントレナの背中を撫でながら、なだめてるのを見て察してくれたっぽい。


「セントレナ、アレシヲンもつい先日、たまたまできるようになったんだ。だから君もね、もう少し育ったらできるようになると思うよ」

『くぅ?』

「そうなの? 母さん」

「ほら、この子たちはまだ、生まれて四十年そこそこらしいから」


 はい。セントレナは俺よりも年上。お姉さんだったわけだ。どうりで心配してくれたり、ロザリエールさんみたいな目で、俺を見たりするわけですね。なんだかなぁ……。


「四十年で、『まだ、そこそこ』なのね……」


 俺の頭を優しく撫でて、慰めるようにしてくれる母さん。そのあとすぐに、壊れそうなくらいに抱きしめられたんだ。


「たっぷたっぷしんじゃうしんじゃ――」


 ……見覚えのない、そもそも天井ですらない。見えるのは薄暗い空だけ。


「……あ、ちんでる。いや、生き返った?」


 哀れみを含んだ麻夜ちゃんの声が聞こえる。

 『個人情報表示謎システム』の生命力の欄見たら十分の一。まじですかー。


 プライヴィア母さんのベアハッグならぬ『トラハッグ』。どんだけ凶悪なのよ。


「とにかく、君が生きていて安心したよ」


 いやいやいや、それおかしいから。生きてたけどトドメ刺したの誰なのよ? お母さま?


「いや、死んだから。今、死にましたからね?」

「いやその、加減が利かなくてつい、ね」

「あ、矢が飛んできた」

「そろそろ来ると思っていたんだ。それじゃ、反撃開始だよ。いけるかい? アレシヲン」

『ぐぅっ』


 アレシヲンはあちらを向いて、口を大きく開けてる。口元に何やら白い光が収束したかと思ったら、口から白色のビームみたいな吐息魔法ブレスを発射。着弾と同時に『BOOOOM!!』という爆発音。


 アレシヲンは慣れていないのか? それとも、吐息魔法自体がそういう性質なのかはわからないけれど、そのまま遠くにいる天人族をなぎ払ったんだ。


「うーわ。まじビームだよ、兄さん。アレシヲンたん、すごいすごい」

『ぐぅっ』

「……いやあれ、何人飛び散った? 麻夜ちゃんの魔法のレベルどころの話じゃないぞ?」

「いまだっ、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、くぬやろっ、くぬやろっ」


 麻夜ちゃんは、アレシヲンが打ち漏らしたと思われる天人族を各個撃破していく。八つ当たりのような口調になっているけれど、確実に相手を沈めていくんだ。相変わらず、実に見事な命中力と集中力だよ。


 プライヴィア母さんが来る前は、麻夜ちゃんが手加減をしながら個別撃破してた。けれど今は、手加減なし。アレシヲンも参戦して、天人族あっちはもうぐっちゃぐちゃ。


「もう、あぁなったらさ。麻夜ちゃん」

「ん?」

「蘇生したとしてもさ、キメラになるかもだよわ……」


 ここでいうキメラは架空の合成生物のこと。Aという天人族と,Bという天人族が混ざり合って蘇生されたら、どんな天人族になるか予想ができない。


 複数人混ざってしまった状態で蘇生したことなんてないんだよ。だからそう言う意味でキメラと表現したわけだよ。


「それ面白いかも」

合成獣モンスターを生み出したいわけじゃないし、手強くなったら怖いから、するつもりないけどね。めんどくさいし」


 天人族あちらをみると、もう飛んでるのが見えない。こちらへ攻めようとするのもいないっぽい。そりゃこれだけの被害なんだ。ちっとは考える頭を持っていたら、ヘタに近寄れないって思うだろうさ。


 アレシヲンがぺたんとうつ伏せになっちゃった。どうやらまた魔素が底をついたっぽい。俺もインベントリからお茶を出して、母さんと麻夜ちゃんにに手渡して小休止。ついでに『リカバー回復呪文』もかけて疲れを強制的に排除しておく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る