第242話 もしかして、できたりするの?

 麻夜ちゃんはその場で身体を入れ替えて、盾になってくれているセントレナに抱きつく。


『くぅっ』

「あらま、余裕なのね」

「走竜のACアーマークラスはとんでもないってことだよ」

「うん。ゲームに出てきそうな『勇者の盾』だね」

「だね」

『くぅ?』

「セントレナは知らないって。あっちの世界にはそういう概念があったんだ」

「そっそ」

『くぅ』


 空が白んじてきたからわかる。相変わらず弾幕に近いほど、矢が雨のように降ってくるんだ。


「ねねね兄さん。これさ、集めて売ったら一財産にならない?」

「どうだろうね。どっちにしても龍人族の皆さんから搾取してきたから、余裕があるんじゃね?」

「それはそうだねぃ」


 セントレナは俺たちの盾になってくれてる。彼女に隠れていたらそりゃ凌ぐのは簡単だよ。でも、天人族たちが近寄ってくるだろうね。そうしたら、俺たちしかいないのがバレてしまう。


 だから麻夜ちゃんは、見える範囲であいつらをたたき落とし続けてる。そうすることで、近寄ってくるのを防げているから。そのせいで麻夜ちゃんは流れ矢に当たって死ぬ。俺も同じように死ぬ。


 一定時間で生き返るから、その都度麻夜ちゃんを蘇生できてる。セントレナもそれがわかってるから、俺たちを連れて逃げるようなことをしないでくれてる。


「いやはやまじで、損な役回りだねぃ。死んでるけど」

「それは仕方ないでしょ。死んでるけど」


 こっそりあっち側を覗く。するとなんていうかうん。


「うーわ。これは無理ゲーですわ」

「うん。駄目かもだわ」


 蜂の巣をつついて襲ってきたみたいな数になってる。いったいこれ、何人いるんだ?


 飛んでるのが百人以上、地上にもそれ以上。歩きながらこっちに向かって、ひたすら矢を射ってくる。飛んでるのも打ちおろしの矢を射ってくる。


「歩いてくるってことはさ? 『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、『エア・キャノン』」

「うん麻夜ちゃん。完っ璧にバレてるねこれ」


 俺たちが視認されたのは間違いない。それでも、飛んでるのが近寄ってこないのは、麻夜ちゃんが打ち落としてくれてるからだろう。


 麻夜ちゃんがインベントリから取り出したマナ茶を一気飲み。ちゃんとゴミは格納する良い子なんだよね。俺も『マナ・リカバー魔素回復呪文』をかけてあげる。少なくともこうしておけば、彼女のマナが枯渇することを防げているんだ。


「兄さんこれ、きりがないよ」

「頑張って。俺たちにかかってるんだから――」


 ……あ、また死んでた。麻夜ちゃんも俺にもたれるようにして死んでる。


「『リザレクト』、『フル・リカバー』。大丈夫? じゃないだろうけど大丈夫? 麻夜ちゃん」

「……兄さんこれ無理げー」

『くぅっ』


 セントレナが俺たちに覆い被さるようにしてくれる。


「いやでも、俺たちが……、でもこれは確かに駄目かも」


 俺は半分壊れかかってる盾をかざして、セントレナの上によじ登る。そうしてよく見ると、一点集中している。ちょっと遠くには矢が降ってない。間違いなくバレてる。


「ごめん、もう少し頑張ろう。痛゛っ」

「『エア・キャノン』、『エア・キャノン』、え――」

「あ、麻夜ちゃん」


 駄目だ。麻夜ちゃんに複数の矢が刺さって、蜂の巣にされてる。


 俺は覆い被さるようにして、麻夜ちゃんを抱きしめた。


「『リザレクト』、『フル・リカバー』。ごめん、麻夜ちゃん」

「ううん、だいじょぶ」

『くぅっ』


 セントレナが俺たちを守るようにまたこっちへ来てくれた。それでも矢が雨のように降ってくる。


「これはもうヤバいですよ兄さん」

「これはアウトかもだね麻夜ちゃん」


 そんなときだった。『BOOOOM!!』という、アメコミの効果音に似た描き文字で表したほうがいいような、爆音が鳴り響いた。


 薄暗い空から、白い稲妻のような閃光が天人族の外壁のほうへ降り注いでいるんだ。


「兄さんなにあのビーム?」

「知らないわかるわけないでもあれは絶対」

「うん」

「「かっこいい」」


 すると俺たちの前に降り立った人影。積もった雪の上なのに、滑るようなことなくしっかりと膝立ちするように衝撃を逃がした姿勢。そう、まるで三点スーパーヒーロー着地。その後その隣りに純白の一騎が降り立った――と思ったらぺしゃりと潰れるようにしてうつ伏せになってる。


 振り向いて腕組みをしながら高笑いする。


「あははは。だらしないぞ、アレシヲン」


 この声は間違いなくプライヴィア母さんだ。ということは、隣りにぺしゃりしてるのはアレシヲン?


「あの、お母さん、アレシヲンたんね、魔素切れ起こしてるんですけど?」


 すかさずツッコミを入れる麻夜ちゃん。きっと『鑑定』で見たんだろうね。なるほど、だからぺしゃってしまってるわけだ。


「兄さん、あれ」

「うん。『マナ・リカバー魔素回復呪文』」

「ありがとん。アレシヲンたん、飲んで」

『ぐぅ……』


 麻夜ちゃんはインベントリから取り出したマナ茶を飲ませてる。


 確かにセントレナやアレシヲンたちは、飛ぶときに魔素を消費してるのはわかってる。麻夜ちゃんも実際に確認したらしいからね。


 さっきの攻撃、あのビームみたいなのはやっぱりアレシヲンがやったってことで確定だよね?


「タツマくん。麻夜くん。ずるいぞ二人とも。こんなに楽しそうなことに、私を混ぜてくれないだなんてね」

「楽しそうなことって、お母さん?」

「そうだよ母さん? 何でまた?」

『ぐぅ』

『くぅ?』


 結果的に、俺たちを窮地きゅうちから救ってくれたのは、アレシヲンとプライヴィア母さんだったんだ。ウェアエルズのときのような、純白の特攻服ドレスじゃないのはきっと、突っ込む予定がないという意味なのかもしれない、のかな?


 アレシヲンの登場にセントレナも驚いている。いやそれどころじゃない。弾幕レベルで矢が射られていた外壁が完全に破壊されてる。それに燃えてるみたいで、あっち側が明るくなってるんだ。


 それに矢が飛んでこない。あっちも大騒ぎになっているかもしれないな。なにせあれだけの爆発騒ぎがあったんだから。


「か、母さん」

「どうしたのかな?」


 麻夜ちゃんがプライヴィア母さんに抱きついてる。首元に顔を埋めて匂いを嗅いでるのは見なかったことにしたいね。


「さっきのあれ、なんだったの?」

「あぁ。アレシヲンの吐息魔法ブレスだよ」

「あ、……あれがそうなんだ」


 あ、気がついたら麻夜ちゃん、アレシヲンに顔を埋めてる。


「むはぁ、やっぱりアレシヲンたんだ」

「匂いで認識するんかい?」


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