第179話 事の顛末と新しい体制。
今朝方突然、プライヴィア母さんのいわゆる鶴の一声でウェアエルズの新しい女王陛下が決まった。こっちに鶴がいるかは置いといてそれはもう、半強制的に。
見ていた俺たちも腹筋を持っていかれると思ったくらいにだよ。ロザリエールさんは珍しくお腹を抱えて大笑いしてたっけ。
その女性はウェアエルズ王国の元第三王女と当確的な噂がされていた、冒険者ギルドワッターヒルズ本部の受付クメイリアーナさん。ロザリエールさんがある日、口げんかのように言い放っていた言葉の中で『第三王女殿下』と言っていたのを俺も聞いてたからね。彼女は不確かなことを言うような人じゃないから、ほぼ真実なんだろうと思ってたんだ。
クメイリアーナさんはヒストゼイラ・レジライデ新侯爵夫人に、後日本国で行われる就任式に着るためのドレスを仕立てなければいけないと強制連行されていった。こういうときに幼なじみは強く出られるみたいだね。
同時に、クメイリアーナさんは何か弱みを握られているのか、彼女の申し出を無碍に断れないらしい。幼少の頃に何かあったんだろうね。
ちなみに、子爵だったレジライデさんは新しい侯爵に、男爵だったゲーネアスさんは新しい伯爵に任命されたんだ。先日亡命してきたばかりの城下に住んでいた犬人族さんは、ゲーネアスさんとその家臣に三人が先導してウェアエルズに戻っていった。ちょっとした避難訓練みたいなものにしかならなかったね。今回の大脱走はさ。
プライヴィア母さんに事の成り行きというか、顛末を聞いたんだ。本当にクメイリアーナさんは王女だったのかと。
「クメイくんはね、平たく言えば妾腹なんだ。私が首を飛ばした前の国王がいただろう?」
「はい」
「あの男がメイドさんにちょっかいを出して、というやつだね。婿のくせに何をやっていたんだか」
「まじですかー」
「まじですかー」
実質権力を握っていたのは、元国王のコーイツジじゃなく、元王妃のジーネデッタだったんだね。元国王は元から王族に、というより王女に嫁いだってことか。あっち側の王女だったから、交流があったのかもしれない。だからプライヴィア母さんはあんな風に呼んでたんだね。
「彼女の母親が亡くなって、色々と嫌なものを目にしたんだろう。厄介払いも兼ねたんだろうね、うちへ留学してきた夜に泣き出したんだよ。話を聞いてみたらなんとも困ったことだった。留学から戻れば、あのダイオラーデンにいた侯爵のお土産になるか、それともあの醜い伯爵の元へ嫁ぐことになるかのどちらかになるんだと言っていた。もちろん後者だと、第六夫人とか言ってたかな?」
「まじですかー」
「まじですかー」
「クメイくんはその日のうちに亡命を申し出てきた。私はすぐにワッターヒルズへ向かわせたんだ。あそこならウェアエルズの手の届かない場所だし、誰も彼女のことを王女だと知るものもいない。一年としないうちに、明るいあのような子になったんだよね」
「まじですかー」
「まじですかー」
「ただいつか、こうなったときには首をすげ替える要員として、育てるのも有りかと思っていなかったわけじゃないんだよ」
「まじですかー」
「まじですかー」
プライヴィア母さんは最初からこの日がいつか来るって信じてたんだ。この闇もかな^-り深いわ。
何より俺と麻夜ちゃんは、二人揃ってドン引きしてたってばさ・・・・・・。
「ところで、ワッターヒルズのギルドは大丈夫なんですか?」
「あぁ、君のところの子で十分回せると報告が来てるからね」
「あー、あの子は優秀ですから。俺より年上だけど」
「兄さん、年上にあの子はダメでしょ」
「麻夜ちゃんナイスツッコミだけどさ、そこはスルーしてほしかった」
そういえば、あの百人はどこに幽閉するんだろう? こっちにそんな場所あったっけ?
「母さん」
「何かな?」
「あっちから連れてきた罪人というか、幽閉する奴等はどこへ?」
「あぁ、今朝まで湖畔の西側で待機させてたからね」
「はい」
「例の臨時的な亡命者の村があったよね?」
「はい、……あ」
「もしかして」
麻夜ちゃんも気づいたっぽい。あのテント村か。
「そうだね。爵位を持たない者は、亡命してきた人たちと入れ替えにあの地で労役。当面は開墾作業かな? まだ仮住まいだから、畑ができたら家を作らせたらいいと思ってる」
「へぇ」
「なるほどー」
「王族と爵位を持つものはね、夜間はジャムリーベルくんの屋敷地下に幽閉。朝昼はね、これまで燃やしてきたオオマスの灰が混ざった土をね」
「あ」
「あ」
せっかく作った肥料を埋めてただけだろうからね。
「そうだよ。開墾した畑へ移す作業。強制労役だね」
「まじかー」
「これは堪えるでしょ」
「それにね、労役の者にはほら、神殿にいたはずの」
「あー、毒消しが使える神殿勤めの」
「収穫した野菜から悪素を取り除かせるのねん」
それは俺も思った。
「いずれはね、ここやウェアエルズにも君の家族が作った魔道具が充実するだろう。そのあとは更に経験を積ませて、神殿のないワッターヒルズへ派遣してもいいと思ってるんだよ」
「あー、それは確かに。俺や麻夜ちゃんが常駐できるわけじゃないから」
「だねぃ」
「君たちには悪いけれど、ここしばらくはこちらとあちらを行き来して、悪素毒の治療にあたってくれると助かるんだ」
「はい。母さん」
「はいはいはい。お母さん」
俺と麻夜ちゃんの頭を嬉しそうに撫でるプライヴィア母さん。13歳の差なんて、母さんにとっては誤差でしかないんだろうから、同じ子供扱いなのは我慢だね。
「それでね、麻夜くん」
「はい。お母さん」
「しばらくの間なのだけれども」
「はい?」
「有事の際以外はね、アレシヲンを君に任せてもいいかなと思っているんだよ」
「ほ、ほんとうですかっ?」
「もちろん、タツマくんはいずれ龍人族の住むところへ行くだろう。そのとき麻夜くんが新しい
麻夜ちゃん、言うなりダッシュで抱きついてる。どうしたんだろう、プライヴィア母さん?
「あのね、私がマイラヴィルナをひとりにしてしまったから、あのような事態になっても気づかなかった」
「あー、はい。でもあれは、マイラ陛下が、……んー、俺は人のことを言えませんから」
「だーねぃ」
呆れないで、麻夜ちゃんまで……。わかってるってば。ロザリエールさんにも怒られたし。似てるんだよ、俺とマイラ陛下もね。
「しばらくはこの地に腰を落ち着けて、エンズガルドとウェアエルズを見守ろうと思うんだ。そこでね」
「はい」
「はい」
「タツマくんにね、総支配人代理をお願いしようと思うんだが、どうかな?」
「兄さん、やっちゃったら?」
「んー、俺なんかでいいのかな?」
「誰も文句は言わないと思うよ。なにせ君は」
「ギルドの聖人様だからねー」
「麻夜ちゃんだって、ギルドの聖女様じゃないのさ?」
「麻夜はここだけだもーん」
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