第4話 自分から選んだ解放という道。

「タツマおじさんもそうだったんだ」

「『も』って、どういう?」

「あのね、麻夜と麻昼ちゃん、朝也くんはね、教会で育ったんだ」

「あ、辛いこと言わせちゃったか」

「ううん。大丈夫」


 なるほどな。この子たちも帰る家はあるようで、ないんだな。


「俺は自分でなんとかするんで、この子たちのこと、よろしくお願いしますよ?」

「お任せください」

「じゃ、俺はもう、行ってもいいのかな?」

「タツマおじさん」

「おじさん」

「おじさん」

「君たちは『勇者様』なんだ。おじさんは自分で、なんとかするよ。こう見えても社会人なんだ。再就職はこの年だとちょときついけど、商人には最低限、なれそうだからね」

「あの、タツマさん」

「はい」

「彼ら、勇者様のことは、ご内密にお願いします」

「大丈夫。何も言わないよ」

「では、裏手までご案内いたしますね」

「タツマおじさん、元気でね」

「おじさん、色々ありがとうございます」

「おじさん、頑張ってね」

「短い間だったけど、皆も元気で。生きてたらまた会おう。未来は多分、勇者様と一般人だろうけどね」


 くるりと踵を返して、ドアを抜ける。俺は右手をやや上に上げて挨拶をすると、右手に折れて進んで行こうとする。


「あの、タツマさん」

「はい?」

「王城の裏手は左です。右は行き止まりですが」

「ぷぷぷ」

「あはっ」

「あははは」

「最後までこれかいな……」


 王城勤めの事務官で、お給料が一月金貨6~7枚らしい。これだけくれたってことは、それなりに悪いと思われてるのか、それとも厄介払いなのか。何とも言えないけど、助かったと言えば助かったな。


 毎日のように、バスの中でただすれ違っただけの間柄だったけど。何度も『リア充爆発しろ』って呪ってたけど。元気でいてくれたらいいと思うよ。


「こちらから、城外へ出ることが可能です。何もできなくて申し訳ないとは思いますが、タツマさん、お元気でいてくださいね」


 そう言ってネリーザさん、右手を差し出してくれる。これって握手でいいんだよね?


「あ、はい。色々とありがとうございます。変な物、見せてしまってすみませんでした」

「いえ、そのっ。あれは事故でしたから」


 『プシュゥー』って、書き文字で擬音が入りそうなほど、耳まで真っ赤になっちゃった。ほんとに見たんですね? ごめんなさい……。


「では、何かありましたら、こちらへ訪ねていらしてくださいね」


 社交辞令だと思うけど、ありがたいです。


「はい。お元気で」


 ネリーザさんに見送られて、俺は王城を後にする。あ、振り返ったらもういない。仕事だもんね、仕方ないわ……。


 外壁に突き当たり。どっちに行くんだ? とりあえず、右へ。ぐるっと回ればどっちかに出るでしょ。


 靴と靴下だけ無事だったとか、でも靴が無事だったのは助かったかも。新しい靴買って、靴擦れとか嫌だし。


 それにしても、この金貨入った袋、重たいことまぁ。確か金ってアルミの7倍強だっけ? 銀が3倍弱。1円玉が1グラムだっけ? んー、よくわからんけど、とにかく重いはず。このズボン、ポケットないから、腰にくくりつけようと思ったけど、盗まれたら洒落にならないよな。


 俺はちょっとその場で立ち止まった。頭の中で、試しに『個人情報表示』と思い浮かべる。ほほぉ、口に出さなくても出るもんだ、この画面。


 さて、どこにその、『空間魔法』とかあるんだろう? えっと、ステータスっぽいのがあって。なんかこれ、どっかで見たのと似てるんだよな。あ、これ? ちょ、インベントリってあるんだけど?


 触れるのか? 指でぽちっとな。あ、触れた。ほっほー。あ、鞄に入ってたのがあれこれあるぞ。鞄どこ行ったんだろう? って思ったけど、こんな場所にあるとは思わなんだ。


 表計算ソフトのセルみたいな枠が切ってあって、全部で30枠くらいあるかな? そこにスマホ、充電器、財布、定期入れ、ここでは使えそうもないやつばっかり。……うわっ、まじかー。


 つい先週買ったばかりの、ゲーミングUMPC(ウルトラモバイルPC)。鞄にすっぽり入って、携帯ゲームサイズで、モニタの左右にコントローラーがついてて、どこでもMMOが遊べるからって買ったのはいいけど、まだあまり遊んでなかったのに。っていうか、持ち帰って家でHDMI繋いでモニタに出力して、仕事してただけ……。


 もったいねー。どこで落とした? あれ、20万以上したんだぞ。ま、バッテリー切れたらスマホと一緒で、文鎮になるんだけどね。くよくよしても始まらないか。


 えっと、この金貨袋をこの枠ここに直接押し込む、のは無理か。『入れ』、……んー、入らん。MMOだとインベントリにマウスでつまんで、そのまま直接ドロップしたんだよなー。


 どうしよう? 『保存』、『入庫』、『保管』、『収納』、……んー。『格納』、あ、手のひらから金貨袋が消えた。ついでにインベントリに『金貨袋』ってまんまやないかーい。思わずツッコミいれちゃったよ。


 なるほどね、これが空間属性の空間魔法。でもさ、インベントリそのまんまなんだよなー。使えただけましか。よし、今度は、っと。手のひら上に向けて、『金貨袋』と念じる。


「お、でたでた」


 『格納』と念じて終わり。これで盗まれる心配もないね。ぱちぱちぱちぱち。


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