第5話 10進数と16進数。

 今更かもしれないけれど、この空間属性と回復属性のところ。


 空間属性:1 回復属性:1F


 この属性レベルみたいなやつ? 空間属性は1なんだけど、回復属性のとこ1の右側にFってあるんだよ。


 他のところもそうなんだ。例えばさ、身体ステータスっぽいところだけど。


 筋力:1E 魔素量:C8


 筋力がで1E、魔素量がC8? バグってんの、もしかして? 勇者じゃないからって、ひどくないかい?


 あのタブレットもどきには、筋力なんか表示はなかったけど、あったら多分、1。魔素量っておそらく、最大MPのことでしょ? これも多分8って表示されるかもしれない。


 どの表示を見ても、数字以外は、AからFまでしかない。でもどっかで見覚えがあるっていうか。あ、仕事で見たかもしれないわ。


 俺の仕事、システム屋さんだったから、なんとなく気づいたんだけど。これさ、1Eがもし16進数表記かもしれないんだよな。


 10進数は0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、次で繰り上がって10になる。


 けれど16進数は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、A、B、C、D、E、F、この次にくりあがって10いちぜろになる。


 16進数で10いちぜろは10進数に直すと10じゅうじゃなく、実際は16じゅうろく。ややこしいけど、こういう数え方があるんだよ。


 すると筋力の1Eは10+Eで、10進数に直したらえっと、10が16でEが14で、16+14で30。筋力は30ってことに、……あれ? 見覚えがあるぞ?


 俺、某MMOで持ってたキャラが僧侶なんだよな。まだまだキャラ育成中だけど、筋力を30に振ってたっけ。


 確か、回復魔法がレベル31だったような? 16進数に直したら、1F? あれ? 確か、最大MPが200、16進数でC8。ありゃ? どういうことだ? 画面の表示と同じなんだけど?


 と・に・か・く、回復魔法を1上げたらわかる。次上がったら表記が20ニゼロになるはずだから。上げる方法考えてみよう。


 筋力30ってどれくらいなんだろう? あの高さからスーパーヒーロー三点着地

して、足首折れてないんだよ。手首もな。普通、骨折するだろう?


 ……何はともあれ、冒険者ギルドとやらを目指そう。あれってラノベによくある、テンプレ的なやつだよね? あとは宿屋、それに食事、いや、酒場だ。酒が飲みたい。とにかく酒だ。こんなん、飲まなきゃやってられないわっ。


 歩き出そうとしたら、右足首に痛みが。骨は折れてないみたいだけど、もしかしたら、捻挫くらいはしたんだろうな。どうしよう? あ、そうだ。回復魔法使えないか?


 しゃがんで、右足首に手を当てて。『治れ』、……はい不発。もっかい『個人情報表示』して、回復属性のところタップ。お、次の画面へ移ったよ。なになに? ありゃ? 何だよこれ? まんまMMOのスペルリストが出てきたんじゃね?


 いや、微妙に違う? まぁいいや。『リカバー回復呪文』。……おぉおおお、痛みが引いたぞ? 魔素量も、C8200からC7199に減った。


 回復属性のレベルが31だから上級回復呪文まで使えるみたいだわ。その上は、グレーアウトされてるから。多分使えない? よし、スキル上げできそうだな。暇見つけてやってみよう。


 とにかく、ギルド行くべし。俺は痛くなくなった右足を引きずることなく、王城の建物沿いを歩いて行く。


 でかい、でかいぞこの王城。体感10分くらい歩いたかな? やっと外壁そとかべの継ぎ目が現れたよ。


 跳ね橋? 長っ。王城の回りが堀になっていて、橋を上げたら入れなくなってるわけだ。そりゃ外壁も長いわけだ。


 こっちは正門じゃないんだね。人の出入りがほとんどない。逆側から行けば、正門が出てくるんかね? もう、戻るのもめんどくさい。


 これまで歩いた距離も時間も長いけど、不思議と息が上がらないんだよ。インドア指向な俺、こんなに運動できたっけ? それともまだ、夢の中だったり――そんなわけないわな。足首、痛かったし。


 そろそろ城下町とやらが見えてくる。わけないか。王城のすぐ傍が城下町とか、そんなんないわ。それじゃどこの観光名所だってばよ。


 跳ね橋を渡りきって、右、左を見て、右側が遠くに人通りが見える。左は、なんも見えません。ということで、右を行きましょう。


 それなりに歩いて、なんとか人通りの多い場所に出てきた。さて、まずは酒場を探そうと思ったんだけど、ふとあることが気になって『個人情報表示』と念じてみた。


 相変わらずなARっぽいこの画面表示。その一番右上からぐるりと右下まで探してみた。すると、あったあった。現在時刻『16:54』と表示があった。タップすると、『午後4時54分』って表示が切り替わったよ。こっちのがいいかもね。


 あー、転移のどさくさか? それとも俺が勇者じゃなかったからか? それとも女神様がいて、俺が不憫だからこうしてくれたのか? そんな、何らかの原因であれこれあって、俺のUMPCノートパソコンとここの『何か』が混ざったっぽい。スマホとかはあったけど、UMPCはどこ探してもなかったから。おそらくそういうことなのかも。


 午後5時前ってことは、この太陽っぽい恒星は、傾いて西日? いや西に沈むとは限らないか。どっちにしても、そのうち日が暮れて夜になる。晩飯と酒を飲める店を探すだけじゃなく、宿も探さなきゃ。あーそれより、ギルドを探してそこでいいとこ紹介してもらう手もあるな?


 いや、それよりもだ。俺はこれからこの世界で、生き残らなきゃならないんだ。誰の、どこの後ろ盾もない。リアルなのはよくわかってる。けれど、今の状況ですべきことを考えるなら。いつも遊んでたMMOだと思って、何が足りないか考えたなら。一番最初に思い浮かぶのは、食料と飲料だ。これが尽きたらそれこそ詰む。お金があったとして、お金は胃袋を満たせないし、喉の渇きも癒やせない。


 よし、買い物だ。そのあと適当に宿を探して、あとは晩飯と酒だ。決めたらとっとと行動だ。あっちみたいに、明日がなんとなくあるわけじゃない。死んだら終わりのデスゲームだと思って、行動しなきゃならないからな。


 食い物も飲み物も、もしこっちの『個人情報表示これ』なんかを司るOSシステムと、俺のUMPCが融合したとして、インベントリに格納しときゃ、腐ったりしない。最悪腐ったとしても、半分は保存できる物を入れとけば詰んだりはしない。


 そう思って俺は、金貨3枚までの食い物、飲み物を買い漁った。インベントリの30枠あるうち、埋まってなかった25枠。そのうち5枠が、干し肉や肉の串焼き、水や甘い飲み物で埋まった。なるほど、同じものは重ねることができるんだな。助かるよ、マジで。


 1枠だけ、もの凄く冷えた飲み物を入れてある。これは明日の朝取り出して、ぬるくなっていないか確認するため。こういう検証作業はゲーマーなら必須だから。


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