第83話 朝ご飯とお出かけ。

「おはよう、セントレナ」

『くぅっ』

「おはよう、アレシヲン」

『ぐぅっ』

「今朝は俺がご飯をあげるけど、普段はちゃんとここのを食べること。いいね? 約束できないと、あげないからね?」

『くぅ……』

『ぐぅっ』


 俺はその場に座り込んで、大皿を三つ取り出した。そこにまず、パンを20個。ナイフで真ん中切ってっと。軽く手で割って。まな板みたいなものを取り出して、上に根野菜を置く。これも細長く切って、パンに挟んでいく。最後に、串焼きの肉をひとつずつ出しては挟んでいく。


 パン1つにごろっとした肉を5個くらいかな? 卓球のボールくらいの大きさはあるから、結構でかいんだ。5本食べたら俺なら腹一杯になるんだよね。二人の分はその倍以上。結構食べるんだよね。そりゃそうか。


「はいはい。我慢我慢。アレシヲン、よだれ出てる。セントレナは行儀良くなったねー」

『くぅっ』

『ぐぅ……』


 ふふんという感じにドヤるセントレナ。仕方ないよ、これ食べるの、アレシヲンは初めてなんだからさ。


 皿をひとつ、ナイフもしまって、っと。よし、準備おっけ。水はここ、好きなだけ飲めるように魔道具が設置されてるんだね。


 アレシヲンとセントレナの馬房、仕切りの中央にどっかと座って、2人とも手が届くようにする。


「よし、はい。おまたせ」


 セントレナはいつも通り。アレシヲンは彼女を見て、同じように大きく口を開けて待ってる。まるで、鳥の雛みたいだね。


 俺はひとつずつ、ホットドック状態のパンを食べさせるんだ。もっきゅもっきゅ。もっきゅもっきゅ。セントレナは食べ慣れてるから落ち着いて咀嚼そしゃく。アレシヲンはあっさり食べ終わってまた大口開けて待ってる。


『ぐぉっ』

『くぅ』


 パンは逃げない、みたいにたしなめるように。この子は双子なんだろうか? それとも親子?


「セントレナ」

『くぅ?』

「アレシオンってもしかして、弟?」

『くぅっ』

「あ、そうなんだ。双子だったりするの」

『くぅっ』

「なるほどね、お姉ちゃんなんだね」

『くぅっ』

『ぐぅ……』

「はいはい、落ち込まない。別に怒ってるわけじゃないから。はい、ふたつ目」


 パンを両手に持つと、嬉しそうに口を開ける双子の姉弟。あれよあれよという間に、10本ずつ食べてしまった。


 アレシヲンはその場でひっくり返り、満足したご様子。セントレナはため息みたいなものをひとつついて、こっちを見て『くぅごめんなさい』と呆れた感じ。さすがお姉ちゃんだわ。


 伏せるというよりお腹が見えるくらいに横になって、寝息までうっすらと聞こえる、マジ寝てるアレシヲンはとりあえず置いといて、セントレナに確認しなきゃ。


「セントレナ」

『くぅ?』

「俺を乗せて飛んで欲しいんだけど、食べてすぐいける?」

『くぅっ』


 裏側の扉を開けると、冷たい風が入ってくるな。外套を出して、羽織るだけでとりあえずいいでしょ。


「タツマ様」

「へ?」


 今の声、ロザリエールさんじゃ?


「セントレナさんも、どちらへ行かれるのですか?」

『くぉ?』


 俺とセントレナは同じタイミングで振り向いた。柵の向こう側には、やっぱりロザリエールさんの姿があるんだよ。


「いや、そのね」

『くぅ……』

「誤魔化さずに申してくださいまし」

「はい、ごめんなさい」

『くぉぉ……』


 ごめんセントレナ。お前まで巻き込んじゃって。


「それで、どちらへ向かうおつもりだったのですか?」

「えっとね、ロザリエールさんとこの集落」

「何をしにいかれるのです?」

「の、ちょっと先に用事が」


 軽々柵を跳び越えて、セントレナの背に乗ってしまった。俺を見て、手を伸ばすロザリエールさん。


「替えの外套、ございましたよね?」


 あー、何かあったときのために、ロザリエールさんサイズの外套、色は違うけど持ってるんだよ。よく知ってるな。


「はい。これを」


 インベントリから白い外套を取り出して渡す。どうする? 黒好きのロザリエールさん。白は着ないかな? 屋敷に一度戻るかな? その間に出かけて、あとで怒られるのもありだな。元々、バレると思ってたからさ。


「ありがとうございます」


 あれ? あっさりと羽織っちゃった。案外、白も似合うじゃないのさ?


「では、参りましょうか?」

「はい。ごめんなさい」

『くぅ』


 ロザリエールさんの後ろに腰掛け、手綱を握ってつんつん。


『くぅ』


 ゆっくり走り出したセントレナ。牧草地の中央あたりで跳ねる。ふわりと浮くと2~3度羽ばたく。ある程度高度が保てるようになった。


「セントレナさん」

『くぅ』

「その下に見える橋を越えて、街道をまっすぐ進んでくださいね」

『くぅっ』


 なんとまぁ、的確な指示。俺はあの道を行って、道がなくなったら上空から探せばいいや、くらいに思ってたんだよね。


「あたくしがいなければ、迷うところだったのではありませんか?」

「はい、ごめんなさい。その通りかもしれません……」

「お昼をどうするのか、伺いにきただけだったのに」

「どうせ、馬鹿なことを考えてるんだろう?」

「あ、はい。ごめんなさいっ」


 マジだ。マジで怒っていらっしゃる。逆らっちゃいけない。


「ほら、そろそろ正直に言えよ?」

「はいっ、あのどろっとした悪素を採取しにいくつもりでしたっ」

「……ほんと、馬鹿だな」

「ごめんなさい。でもね、必要なんだよ。色々検証するのにさ」

「わかってる。けどな、せめて相談してくれないか? あたいがいらないみたいじゃないか、これじゃ……」

「ごめんなさい。今度からそうします」

「いいよ。怒ってない、ことはないけど、怒らないことにするから」

「はいっ、ありがとうございますっ」

『くぅ……』


 セントレナも呆れてる。まじかー、まじですかー。ロザリエールさん、こえぇ……。


「セントレナさん、そこを左に折れてください」

『くぅ』


 黒森人族の集落が見えてきた。


「ロザリエールさん」

「なんでしょうか?」

「集落から取ってきておきたいものってありますか? あるなら帰りに寄りますけど」

「そうですね。できるなら寄っていただきたいのですが」

「わかりました。帰りに寄りましょう」


 集落を通り過ぎて、前に連れてきてもらった、あの木がある場所。思ったよりもあっさり着いたな。


「セントレナ、そこで降りてくれる?」

『くぅ』


 道のない場所へそっと降りてくれる。俺はセントレナの背から降りると、インベントリから鍬を出す。肩に抱えて準備完了。


「2人はここで待っててください。早めに終わらせてきます」

「気をつけてくださいね?」

「はい。俺は大丈夫ですから」

『くぅ?』

「大丈夫ですよ。ご主人様でしたら、ね」


 ロザリエールさんとセントレナを残して、俺は前に掘った場所を探す。あぁ、思ったよりも早くみつかった。埋めた場所の土が色違いになってるから。


 さて、掘っていきますか。


「あ、どっこいしょっ」


 どすん。


「あ、どっこいしょっ」


 どすん。


「あ、どっこいしょっ」


 どすん。


 それなり以上、筋力はあるからあっという間に1メートルほどの深さに達していた。この間、削った細い根っこも見える。あのときのままだ。


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