第82話 自分で取ってくるものでは?

 コーベックさんたちのお茶も来て、ロザリエールさんもブリギッテさんも座ってお話を再開することになった。


「さて、これなんだけどさ」

「はい」

「魔石のコスト、んー、対価かな? それとも費用対効果かな?」

「言わんとするところは、理解できます」

「ありがとう。とにかくダイオラーデンではさ、魔石が高すぎて運用できなくなったんだとさ」

「魔石など、自分で取ってくるものでは?」

「なるほど、ロザリエールさんと同じこと言うんだ?」


 ロザリエールさん、ブリギッテさんもクスクス笑ってるし。そうか、魔族、いや魔界ではそういう感覚なんだね。


「どれくらいの魔石がまってるのか、分解できないからわかんないんだよね。それでさ」

「はい」

「これを分解してさ、どんな造りになってるか? 複製は可能か? もう少し効率よくして、魔石の消耗を抑えられないか? そのあたりを検証してほしいんだけど、やってくれる?」

「お任せください」

「ありがとう。助かるよ。それで、どれくらいで簡単な報告できそう?」

「そうですね、……簡単な報告であれば、今晩にでも」

「え? えぇえええええっ?」


 まじですかー。そんな簡単なものなの? 人間と魔族って、そこまで違うの?


「ご主人様、このコーベックは特に、こうしたものが得意なのです。それはもう、食事を忘れるほどに……」

「そこまでか。なるほど、あれってそういう意味だったんだ。うん、任せるよ」

「はい。ではすぐにでも」

「おいおい。せめてお茶は飲んでいきなさいてば」

「申し訳ございませんっ」

「コーベックは昔からこうだったんだよ。ほんと、男の子はなんでみんなこうなのかな?」


 ロザリエールさんも、口調が戻ってるし。んでもはい、そのとおりです。間違いないと思います。


「姫様、言葉使いが」

「あ、その。こほん……」


 俺たちがダイオラーデンに行ってる間、こっちで何があったか。コーベックさんもブリギッテさんも、まとめ役ということもあって、毎日ギルドに顔を出してくれてたみたいだから。


「効率の良い物をさ、それなりの個数を作れたら、このワッターヒルズでも運用できるんじゃないかって、そう思ったんだよ。ただね、『本当に悪素が消えてるか』。その検証は、俺たちだけじゃ無理なんだ」

「確かにそうですね……」

「でもまぁ、そこは大丈夫。知り合いに伝手つてがあるから、なんとかなりそうだよ」

「それならば、複製ですね。あとは効率化。まずは検証と解析。頑張らせていただきます」

「うん。無理のないように。ブリギッテさんはさ、ギルドに行って、明日からの俺の治療でね、冒険者たちに依頼を出すように伝えて欲しいんだ。いつものようにさ、進行の早い人、痛みの強い人はいないかどうか?」

「わかりました」

「それじゃ、ここは一端、お開きということで」

「はい、あなた、行くわよ」

「わかってるって、魔道具落としたらまずいから」

「あら、そうだったわ」


 なんとも仲の良い夫婦ですこと。爆発してもいいんですよ?


 コーベックさんとブリギッテさんが帰って、俺たちだけが残ったわけ。俺は、お茶をカップを斜め上から眺めてぼうっとしてたんだ。


「どうなさいました?」

「あのさ、ロザリエールさん」

「はい」

「このお茶にもさ、厳密に言えば、悪素が混ざってるわけじゃない?」


 俺は自分の指を見て、ため息をついた。そういえばさ、一度も黒ずみが出ていないことに気づいてなかったんだよね。いつからだったんだろう? そりゃ一度は自分の魔法で、人体実験してるわけだから。こうなるのはわかんなくもないけどさ。


「こうしてさ、『デトキシ解毒』。これだけで、悪素がある程度消えてたかもしれないわけじゃない?」

「そう、かもしれませんね」

「すべてが後手に回るのは、どうしようもないのかなーって」

「ご主人様は、神様ではありませんから」

「そりゃそうだけど」


 間違いなくこの世界の外側にいるっぽいのは、わかるんだけどさ。違和感だらけだからね。俺の魔法の初期状態といい、『個人情報表示』謎システムといい、スマホのこともね。


「あれこれわかってくるとさ、ちょっと悔しいんだよね」

「それはわかります。あたくしもそうでしたから」

「さて、と。ロザリエールさんは今日、どうする?」

「あたくしは、買い物、掃除、洗濯とやることは沢山ございますが?」

「あー、いつもありがとう」

「いいえ、どういたしまして」

「俺はちょっと買い物、そのあとセントレナと、アレシヲンのとこ行ってくるわ」

「はい。いってらっしゃいませ」


 お茶を飲み干して、外へ向かう。厨房にカップを持って行こうとしたら、怒られた。癖なんだから、仕方ないでしょ?


 途中、雑貨屋であるものを探した。この世界ってさ、透明度は低いけど、ガラス器ってあるんだよね。窓もガラスが填まってるから。


「これってさ」

「はいはい。おはようございます、聖人様。戻られてたんですね」


 あー、もう慣れました。どう呼ばれても眉毛がひくつくくらいで耐えられるからさ。


「うん、昨日ね。これってさ、完全に密閉できる? お酒、蒸発しない?」


 ホワイトリカーで果実酒を作るような、肉厚なガラス瓶。それに金物で、ねじ込み型の蓋がついてるんだ。


「えぇ、長年作ってもらってる工房のヤツなんで、問題はないですよ。果実酒でも作るんですか?」

「そっそ。ちょっと酸味の強い果物を漬けてみようと思ってさ」

「それなら十分です。おすすめできますよ」

「じゃ、これを10個ほどもらおうかな?」

「はい、ありがとうございます。お包みしますか?」

「大丈夫。俺、空間属性持ちだから」

「そうだったんですね」


 やっぱり珍しくはないんだ。この程度で驚かれることがないからさ。


「それじゃ、また寄らせてもらうねー」

「はい。ご贔屓にどうぞ」


 途中、串焼きを味付け薄めに焼いてもらって、串を抜いてもらって大量に購入。パンも適当に。香りの良い味すっきりな根野菜も忘れずに。


 ぷらぷら散歩しながら厩舎へ向かう。すれ違う人たち、お店の人たち、ほぼほぼ『聖人様』呼ばれるのはワッターヒルズこっちのデフォルト。それだけのこと、しちゃったもんなー。


 明るい時間で改めて見ると、でかいなここ。厩舎に到着したけど、まるでどっかの打ちっぱなしのゴルフ練習場だよ。遠くからでも見えるんだもの。さすが、交易で成り立ってるだけはあるよ。頻繁に馬車が出入りしてるからさ。


「おはようございます、ソウトメ様」

「オーヴィッタさん、早くからご苦労様」

「ありがとうございます」

「セントレナのところね」

「はい、どうぞー」

「朝食あげちゃった?」

「まだですよー」

「りょかい。2人には食べさせちゃうからいいよ」

「はい。ありがとうございます」


 見た目20歳いってるかどうか。それでも確か、俺より年上なんだよな。確かブリギッテさんと同じくらいだっけ? 長寿種族恐るべし……。


 通路から馬房、だっけ? それが見えるのがここの特徴。外側へ続く、裏側の扉を開けなきゃ暖かいんだよね。ここだと一番奥じゃなく、中央あたりだったはず。お、いたいた。


 一応ね、馬さんたちがこっち側を歩かないように、柵はあるんだけど、セントレナたちには関係ないんだよな。でもこっちへ飛んでこないのは行儀の良い証拠。柵を乗り出さんくらいに、アピールするのはまぁ置いといて。


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