第81話 バッテリーが切れるまで。

「どうかされたのですか?」


 ロザリエールさん、洗い物終わったんだ。


『ロザリエールさぁん、聞いてくださいよー』


 俺はとりあえず、お酒持って窓際に待避。露骨すぎて、ついていけないから。


「そ、それはけしからんですねっ」


 あー、やっぱりそうなったか。


 そこからお酒をちびちび。ロザリエールさんもそれなりに飲んでたっけ。小一時間くらいだったかな? ビデオ通話って思ったよりもバッテリー使うらしくて。


 ぴーぴぴぴぴ。


「あー、バッテリーじゃない?」

「あ、す、すみませんっ」


 スマホの表示見たら、残量5%になってた。


「いあいあ。麻夜ちゃんバッテリーないから、今夜はおやすみでいいかな?」

『はい、こっちもバッテリーやばやばですねー』

「んじゃ、おやすみー」

『はい、ロザリエールさん、お話楽しかったです。おやすみなさい』

「はい、こちらこそ。おやすみなさい」


 終話。インベントリにスマホ格納。これで充電できるんだから、凄いよね。


「それにしても」

「ん?」

「これだけ距離が離れているのに、まるですぐ近くにいるみたいで、とても不思議でした」

「そうだね。俺もあまりこの方法はつかわなかったけど」


 ぼっちだからね。仕事ではビデオ通話なんて使わないし。


「明日だけどさ」

「はい」

「コーベックさんとこ行って、例の魔道具見せようと思うんだ」

「はい。あの子は得意ですからね」

「そうなんだ」

「物作りの指導的な立場にいるものですから、まとめ役を任せていたんです」

「あー、そういうこと。そういえばさ、気がついたら、すっかりワッターヒルズここに溶け込んでるみたいだね」

「オーヴィッタのことですか?」

「そそ。みんなあんな感じに、外で仕事したり、自分で何ができるか模索したりしてるんだろうなって」

「えぇ。あの何もない場所でも生きていける技量は持っているのです。あたくしよりもしっかりしているので、そのあたりは大丈夫だと思いますよ」


 ロザリエールさんよりしっかりしてるって。それじゃまるで、俺が駄目な子みたいじゃないですかー。


 ▼


 翌朝、寝坊した。起きたら8時過ぎてた。ロザリエールさん、起こしてくれないんだもんなー。今日は休むつもりだったから、いいんだけどね。


 顔洗って歯磨いて、着替えてと。1階降りて、……あれ? 居間リビングにいないよ? 朝食も準備されてない。


 厨房キッチンは? やっぱりいない。ロザリエールさんの部屋は? ……ノックして、少し待つ。


「……ご、ごめん、なさい」


 あ、手だけ出てきた。ってことはうん、あれだね。手を握って。


「『デトキシ解毒』」

「――す、すみませんでしたっ。今すぐ着替えて、ご飯作りますので。居間でお待ちいただけますか?」

「慌てなくてもいいよ。それじゃねー」


 うん。やっぱり二日酔いだったね。昨晩は結構飲んでたし。まぁ、屋敷だから別にいいでしょ。


 居間に戻ってスマホを取り出す。電源入れてみると、バッテリーは100%まで戻ってる。Wifiのところをみると、接続しているアクセスポイントが『kojin』になってるんだよね。アンテナは圏外のままだし。どうなってんのかね?


 ダイオラーデンの中だけならいざ知らず、ワッターヒルズだもんなここ。この距離を繋がってるってことはないだろうから、おそらく『個人情報表示れい』の謎システムに繋がってるとしか思えないんだ。もっと早く気づくべきだった。


 それとまさか、麻夜ちゃんがあの『まーや』だとは思わなかったよ。ほぼ毎日バスで顔を合わせてたから、顔見知りではあったんだろうけど。名前わかんなかったからなー。俺が『リューマ』だってわかってるし、間違いなくあの『まーや』なんだろう。疑う余地はないと思う。


『ぺこん』


 お。麻夜ちゃんだ。


『朝食、なう』


 SNSかよ。あ、写真送られてきた。空っぽのお皿とナイフ、フォーク、なるほど、これから前菜か。よく堂々と写真撮れるもんだね。


『大丈夫なの?』


 送信、っと。


『ぺこん』

『勇者の魔道具ってことになってるのよー。麻夜のは麻夜の指紋にしか反応しないの。麻昼ちゃん、朝也くんのもそう。だからよゆー』


 指紋ロック解除の技術力、……すげぇ。セキュリティ高いわ。これもそうなのかな? ロザリエールさんが操作するわけじゃないから、そうなのかもしれないけどさ。


『ぺこん』

『薄味であまり美味しくないのよねー』


 あぁ、それって城下町だけじゃなく、地域柄だったのか。


『ダイオラーデン全体。城下町も薄味だったよ』


 送信。


『ぺこん』

『しょぼーん』

『ぺこん』

『ご飯きちゃった。またねー』


 あ、この間撮った、ロザリエールさんの写真、待ち受けにしとこっと。うん、美人さんだからとってもいい感じ。


「待たせてしまって、本当にごめん、なさい」

「別にいいよ。今日は休みだからね」

「はい、ありがとうございます」


 久しぶりの、ロザリエールさんが作った朝食。あー、やっぱり、目玉焼きは両面がっつりなんだわ。半熟部分はまったくなし。ベーコンそっくりの肉、あんな遅い時間でも売ってるんだね。このしゃきしゃき葉野菜。あ、このドレッシング。俺が教えたやつだわ。


「ごちそうさまでした。うまかったー」

「はい。お粗末様でございます」


 お茶を出してくれるロザリエールさん。このお茶も久しぶりだねー。


「おはようございます。コーベックでございます」

「あら、早かったですね」

「へ? コーベックさん?」

「はい。あたくしが昨日寄りまして、こちらへ来るように伝えておきました」


 スカートを両手に乗せるようにして、ふわりと持ち上げて、ぺこりとお辞儀するこの仕草。好きなんだよねー、……って、玄関に行っちゃった。


 ドアが開いて、先にロザリエールさん。次にコーベックさんとブリギッテさん。2人も深々と一礼。なんというか、俺、偉くなっちゃった気分だよ。そんなつもりないんだけどさ。


「おはようございます、お館様」

「おはようございます、お勤めご苦労様でございました、お館様」

「おはよう。ささ、座って座って」


 座ったのはコーベックさんだけ。ロザリエールさんの後ろをついて、ブリギッテさんがキッチンに行っちゃった。あ、戻ってきた。そっか、お茶だよね。俺とロザリエールさんの分しかないから。


「あ、そうだ。まずはコーベックさん」

「はい」

「手、見せて」


 意味がわかってるんだろうね。手のひらを上にして広げて指を伸ばして、両手を揃えて俺の前に出してくれる。


 俺はいつものように、目で確認。あー、ちょっとだけ黒ずみがあるんだわ。そっか、このワッターヒルズでは、ノーガードだもんな……。


「これさ、大丈夫なの?」

「以前に比べたら、気にするほどではありません」

「そっかー。『ディズ・リカバー病治癒』、『フル・リカバー完全回復』、っと」

「ありがとうございます」

「いえいえ、あ、ちょっと待って」


 俺は立ち上がって、壁際にあった移動式のサイドテーブルを持ってくる。その上にインベントリから布を取り出して敷いてテーブルの横。コーベックさんの近くに置いた。


「それでさ、これ、なんだけど」


 俺は例の魔道具を取り出して上に置いた。


「……これはなんでしょうか? 見たことのない魔道具ですね」


 魔道具だってわかるわけね。


「これはさ、ロザリエールさんが前に言ってたと思うんだけど。『魔石中和法魔道具』って呼ばれてたヤツね」

「これがそうだったんですか……」

「実際は違ってた」

「……と、いいますと?」

「実際の名称は、『連続解毒効能魔道具』だったんだ」

「中和、ではなく、解毒だった。なるほど、微妙に違う、というわけですね」

「そう。おそらくは回復属性に関係するんだと思う。……それでさ、これ、あ、ロザリエールさんたち来たからちょっと中断」

「はい」


 あの国ではさ、回復属性は珍しくないって言ってたもんね。魔法陣なんかもきっと、研究されてたんだと思う。


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